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作者: トッキ―
残酷な描写あり
第26話 日之国に迫りつつある脅威
「温泉って最高だな。疲れが一気に吹き飛ぶ」

「そうですね。わかります。遅れてすみません。ただいま戻りました」

 リシェルとエレクトリールはハーネイトに話しかけた。彼の表情がおかしいのを見てから、ハーネイトが尋ねる。

「リシェル、大丈夫か?もしかして温泉に入りすぎてのぼせたのか? 」

「え、ええ。気持ち良すぎて、長く入っていました、はい」

「そうか、程々にな。成分が強い温泉とかは長く入りすぎると体に来るからね」

 リシェルは少し嘘をついてそう話し、先ほどの件についていうべきかどうか悩んでいたのであった。

 しかし今報告すれば、ただでさえ疲れているハーネイトに負担を更にかけてしまうのではないかと考え、今のところは黙っておくことにした。

 確かにもしこの状態で先ほど起きたことを話せばハーネイトの具合が悪くなりかねないだろう。これは、彼の特徴や噂をよく知っていたリシェルならではの気づかいでもあった。

「もう他の方は揃っていますか。夜之一様、宴の準備をしてもよろしいですか? 」

 八紋堀も大広間に来て、全員が集まっているかをきちんと確認していた。

「ああ、では頼むぞ」

「はっ、すぐに支度をしに参ります」

 一旦八紋堀が部屋の外に出る。そして数分後、数名の着物を着た女性が、食事や飲み物を運んできた。今まで見たこともない料理の数々にリシェルが目をキラキラさせていた。

「す、すげえ。これが日之国の料理か、実物は初めてだな」

「すごいですね。とても美味しそうです」

「うむ、準備はいいかの?皆のども、遠慮なく食べて飲んでくれ」

夜之一の一声に続き、全員で乾杯をする。新鮮な魚や肉などが並び、まさに宴というべきか、豪勢な料理を食べながら話をする。

「相変わらず美味しいな。魚がうまい。口の中ですっと溶け、臭みが全くない。心が洗われる味だ」

 ハーネイトは美しい姿勢で正座のまま座りつつ、皿にきれいに盛り付けられた新鮮な川魚の刺身を箸で口に運ぶ。

「近くを流れる五戸野毛川からとれる魚は、魚質が非常によいのでな。鮮度の良さがわかるか?リシェル殿?」

「確かに今まで食べた魚とは違う風味だ。驚きだ。機士国の魚はどこか雑味があるというか、揚げないと食べるのが難しかった」

リシェルは、自国で食べた料理と比較して、日之国の料理がどれだけおいしいかを舌で堪能していた。

「日之国は食糧も資源も豊かな国での、住みたい国の調査でいつも上位にいるのだが、理由がわかるだろ?」

 夜乃一がやや得意げにそう話す。実際ここまで整備され賑わっている国は惑星全体でも少なく、多くの人が集まりやすい場所となっている。これも、夜乃一王による政策や改善によるものであり、その手腕はすべての家臣から歴代で最高の領主だと言われている。

「確かにそうですね。良いところです。城下町を見てもわかりますね。故郷とは違う良さがあります。」

「ほほう、わかるかの。そういやそなた、機士国の出身と聞いたが、クーデターには巻き込まれなかったのか? 」

リシェルは夜之一と話をし、質問に少し間をおいてから答える。

「私はクーデターの始まる1年ほど前に旅に出ていたので巻き込まれませんでした」

「そうか、それで旅とは? 」

「ハーネイトさんのような解決屋になりたくて旅に出ました。そのなかでようやく出会い、機士国の件も含め今は同行中ということになりますね」

「そういうわけか、ハーネイトが人を連れていた理由が別にあるのもわかった」

 以前からハーネイトが基本1人で活動している姿しか確認していなかった夜之一は改めて、ハーネイトが今仲間を連れている状況下について確認した。今まで彼が孤独な旅をしていたことを覚えており、心境でも変わったのかと思っていた彼だが、リシェルの話を聞いて納得した。

「それとエレクトリール、だったな。そなたはどこから来たのだ? 」

 次に、夜乃一は飲み物を口にしてからエレクトリールに質問する。 

「はい、私はこの惑星の外から来ました。住んでいた星がDGと呼ばれる勢力に襲われ命からがらこの星に不時着し、そして重傷を負ったところをハーネイトさんに助けていただきました」

「なんと!まさか宇宙人、というあれか。しかし話ができているのが不思議だが、ふむ。そう、か。それはさぞ大変だったであろうな。しかしお主、妙な色気と言うかなんというか不思議な雰囲気を出しておるな。ハーネイトもそう言えるんだが」

「え、ええ、まあ。故郷には今帰れない状況ですが、帰れる時までハーネイトさんの側にいようと思っています」

 エレクトリールがそういうと、夜之一の表情が少し嬉しそうになる。

「そうだな、その時までハーネイトの力になってくれると私からしてもありがたい。彼は1人でよく抱え込んでしまうのでな」

「はい、そのつもりです」

「なっ、それは」

「事実だろう。昔だって心労で倒れたことがあるだろう。もっと周りを頼ってもいいのだ、何時も助けられている分、こちらも返したいのだ」

「そ、そうですか」

 この時夜之一は既に、ハーネイトの異変にある程度気づいていた。しかしその異変が思ったよりも彼に影響を与え、力を封じているのかまでは予測がついていなかった。

 だからこそエレクトリールが彼の支えになるという言葉に安心していたのである。夜之一とハーネイトの親交も結構長く、1人の友人として彼を心配していたのである。そして話の話題を変え、今度はハーネイトに話しかける。

「しかし仲間、か。確かに今回は事も事だけに以前とは違った立ち回りを要求される」

「確かにそうだが、お主色々と無理をしていないか? 」

 夜之一の質問に一瞬ハッとするも、ハーネイトはすぐに取り繕いそれを否定する。

「そうか、だがお主に今倒れられるといろいろ困るからな。無理せず申し出よ」

「は、はあ……」

 ハーネイトは短く返事をする。実際に魔法とは違った異形の能力の使用が体に負荷をかけていたのは事実である。しかし彼は使命感、そして周囲から期待されていることを理解して無理してでも体を動かそうとしていたのである。

 それについては理由が幾つもあるが、彼は事件の影響で自分の価値をかなり低く見てしまうようになったからという者も含まれていると言う。
 
 その後も2人は宇宙人の存在について、世界の広さを再度知ることになり機士国を今の状態にした宇宙人たち、DGについて話が進む。

「となると彼らの侵攻はそれなりに進んでいると見て間違いないだろう。こちらの掴んだ情報では、機士国の存在する西大陸はほぼすべて、敵の占領下にあると考えられる。ほとんど彼らの手に落ちるとは驚きだ。以前の時は戦闘も局所的だった。しかし今回は以前よりもスピードが速い。計画的な犯行かもしれん」

「そうですね。このままでは東大陸もじきに魔の手が襲い掛かりそうです。だからこうして共に戦う仲間を集めているのですよ。疲れていなければ、1人ですべてあんな奴ら追っ払いますが」

 夜之一がDGの行動について以前と違う点がいくつか見受けられると発言し、それにゆっくりとした口調でそう話すハーネイトは、やはりどこか疲れているようでありその場にいる人全員が心配していた。

 それを聞き夜之一は懐から手形と手紙を取り出すと、ハーネイトに渡す。

「これは一体、夜之一領主。手形ですか? 」

「ああ、そうじゃ。日之国は他国とも交流を活発に行っている国だとは分かっているだろう?これがあれば同盟国において支援を受けられる。まだ占領されていない地域ならば、有効に機能するはずじゃ。わしらも直々にそなたらの支援に回るが、作戦の道中でも役に立てばと思っての」

「有難う御座います」

ハーネイトは静かに礼をする。少しでも役に立つものは得ておきたい。一国の領主がここまで一個人を大切にするか、それも彼の人柄のおかげであった。

「今回の一連の事件、出来事は見過ごせないからの。事情と事実を知れば尚の事だ。それと、機士国王を助けてくれてありがとうと言っておく。彼の行方を追っていたが判らなくなっていてな。国としても感謝する」

「いえいえ、仲間の協力あってこその結果です。みんなが力を出して支えてくれるからこそ、最悪の事態を防げたのです」

 夜之一は改めて礼をし、それにハーネイトが答える。

「はは、お主はいつも謙虚だな。それがいいところではあるが」

「私らもハーネイトさんを実際に見て、側にいてわかります。ハーネイトさんの人柄がここまで名を知らしめるのではないかと」

「恥ずかしいな、もう」

ハーネイトは恥ずかしくて照れ隠しして、料理を口に運ぶ。

「えへへ、では冷めないうちに、と」

エレクトリールがその容姿に反して大食いであることに全員が驚くも、その後も全員で食べて飲み明かし、一晩を城の中で過ごした。エレクトリールのせいで城に貯蓄していた食料のうち約1割が消滅したという。

 翌朝、ハーネイトが朝風呂に入り、上がったあと部屋に戻ると、八紋堀から、夜之一王が個人的な話があると言われた。それを聞いて彼は急いで階段を駆け下りて、2階の書物庫に足を運んだ。リシェルとエレクトリールはその時、まだ仲良く2人で寝ていたのだった。

「相変わらず膨大な書籍の量ですね」

 ハーネイトが、書物庫に入り、辺りをぐるっと見渡す。10万冊以上にも及ぶ、この日之国の歴史の本や料理、文化の本などが所狭しと、本棚に並んでいる。以前彼がこの国を訪れた時も、一週間かけて書物庫の本を半分ほど読んだのだが、それでも古代遺跡のことについて重要な手掛かりはそこでは掴めなかった。その代わりに、魚料理の本や釣りの本を読み興味を持ち、新たな趣味が増えることになった。

「ははは、お主が離れたあとも収集していたからの。で話だが、一つ依頼を引き受けてくれぬか、ハーネイトよ」

 夜之一は、いつもとは違う真剣な表情で、そうハーネイトに話しかけたのであった。


 そんな中、日之国から離れた小さい村で、DGが生産した機械兵を相手に無双している2人組の男女がいた。

 1人は青髪で頭から角を生やした悪魔のような男。もう1人は背中に小悪魔のような羽を生やし、紫色のきわどいタイツのような衣装を着て、背丈に似合わない巨大な花を模した杖を振り回し大魔法を連発する少女。そう、この2人組こそが前にハーネイトが話したサルモネラ伯爵とリリーであった。

「焔の刃 光々として消ゆ 万象燃やし進む一撃と為し 野望砕け、決意の大炎火!大魔法33の号・却火(きゃっか))」

「泣かぬなら、醸してやるぜ、貴様らをっ!ぶっ醸せ、菌弾! 」

 たまたま村を訪れていた二人は、村を襲おうとするDGの機械兵と遭遇しそれを撃退していた。

 リリーの炎系大魔法が機械兵の装甲を溶かし、伯爵が炎の外にいる残りの兵に微生物を凝縮した弾丸を撃ち、当たった所を醸して穿つ。その彼らの活躍を見た住民たちは感謝の意を述べる。

「あ、ありがとうございました」

「いいってことよ、クハハハハ、しっかし調子に乗ってるやつがいるな、最近よ」

「ええ、DG(ドグマ・ジェネレーション)ね。ハーネイトも動いていると言うけれど、そろそろ会いたいわね」

「ああ、そうだなリリー。手紙の件もあるし、そろそろ俺様も重い腰を上げるぜ」

「そうね、あれから師匠、どうなっているのか気になるわ。無理して体壊していないといいのだけれど」

「せやなあ、んじゃ支度しようぜリリー」

 2人はハーネイトから、ある手紙を受け取っていた。合流し力を貸してほしい。ようやく自身らも正式にハーネイトの仲間として加え入れてくれるのだなと思った二人は、意気揚々と待ち合わせ場所に向かおうとしていた。 
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