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作者: 万吉8
残酷な描写あり
冥王現る
万魔殿パンデモニウム会議室では、行政府の代表者たちと軍部の代表者たちが集まり、魔王リュツィフェールが臨席する御前会議が開かれていた。

魔王が長机の上座につき、左側が宰相を始めとする行政府の者たち、右側が元帥、四元魔将たちが座っている。魔王の左右には、書記官と護衛を兼ねた者たちが侍っている。

「此度の異常の原因は?」

「妖精郷の入り口があったエルフの村周辺を探索した結果、冥王さま、邪悪龍さまの魔力が検知されました。邪悪龍さまが封印されている腐海周辺に異常が見られないことから、冥王さまが封印中の邪悪龍さまの魔力を何らかの方法で利用し、妖精王を妖精郷及びエルフの居住地ごと封印したものと考えられます」

「封印による影響は?」

「妖精郷封印により、地水火風の力が四大精霊の手から離れつつあり、四元魔将の皆さまが地水火風の力を掌握する割合が上昇中です」

「人間領およびドワーフ領で鉱産資源が枯渇した件は?」

「邪悪龍さまと同じく、大地に権能を持つ『真なる王』の一柱ひとりである妖精王が封印されたことにより、大地は邪悪龍さまの独擅場となったことが関係しているものと思われます」

「地水火風の力が四大精霊の手から離れつつあること、人間領およびドワーフ領で鉱産資源が枯渇したことは人間たちへどの程度影響している?」

「地震、洪水、火災、大風、噴火といった災害の発生および物価の上昇が始まっており、人間領およびドワーフ領の諸国家が機能不全に陥いる兆しが見られています」

魔王の下問に対して行政府の高官が答える形で会議は進行している。行政府・軍部ともに同じ情報が知らされている。そして、魔王の下問により議論するに当たって前提とすべき点が明確になっていく。

議論すべきことは世界に覇を唱えるべく軍を発すか否かであり、前提となるのは勝算を基礎づける情報である。

この点について、軍部は①地水火風の力が魔族に移りつつあること、②地水火風の力が人間たちから失われつつあり、災害が頻発していること、③鉱産資源が枯渇したこと、④ ②と③により人間たちの社会が混乱していることから、勝算ありと見ており開戦すべきとしている。

これに対し行政府は、①魔族に移りつつある地水火風の力を用い、魔族領の内政を充実すべきである、②魔王が力を完全に取り戻している訳ではないことから、勝算なしとはしないが軍部よりも勝算を低く見た上で、開戦は時期尚早としている。

即時の侵攻開始を強く望む軍部と数年は準備期間を要するとする行政府。両者の主張は平行線を辿るのだった。


◇◆◇
「地水火風の力を四元魔将が掌握しつつあることから、物資の増産が見込めるでゴザル。軍を発するのは、兵站の土台を整えてからでも遅くないでゴザル! 兵站が崩れぬよう手筈を整えなければ、軍を維持できないでゴザル!」

黒衣を纏い仮面をつけた魔王の左側、宰相の席に座る者が怒気を込めて発言する。魔宰相オカ=メギル。スライムの変異種であるためか少し妙な言葉使いだが、軍部の者たちにも一歩も引かない硬骨漢としと一目置かれている。

「宰相殿が為政の要路に立ってから、各地に食料の備蓄ができているだろう。これと現地調達とで賄えるのではないか? そして、戦線の急な拡大を抑制することで兵站の崩壊を防ぐことができるだろう」

答えるのは筋骨隆々で魔王の右側、軍部を代表する元帥の席に座る壮年の魔族だ。魔大公グランバーズ。『覇王』『魔族最高の武人』とも称され、武技のみの戦いであれば、魔王にも優ると言われている。

行政府は兵站を理由にしているが、同程度に懸念していることは、魔王の力が満ちる前に軍を発することで、魔王が弑される可能性が高まることだ。
魔王が軍を発する度に現れる勇者と大賢者。大戦と呼ばれる幾度に渡る魔族と人間たちの戦いは、勇者と大賢者により、魔王が弑されて終わっている。
このため、魔王の力が満ちる前に勇者と大賢者が魔王の前に現れることを恐れている。

軍部の出席者たちもこの点のことは理解しており、行政府に対して悪感情を持っていない。軍部の懸念は準備に数年をかけている間に人間たちがこの混乱を収拾し、機を逸することだ。

こうしたことから、一時は平行線を辿った議論は時期尚早でもなく、機を逸することがないタイミングのすり合わせに移行していく。

そこに--

「冥王さま、いけません!」

「ホホホ。ノロマなアナタにしては、随分と早い対応ですねえ」

制止を気にも留めず、冥王が会議室に入り魔王を挑発するのだった……。
久しぶりの更新です。
『転生したら魔族の国だった件』も更新が滞っているので、更新していきたいです。
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