▼詳細検索を開く
作者: 味噌村幸太郎
R-15
第一種目

 一通りのブッ飛んだ説明を受けると、生徒会長の石頭君が俺に言う。
「さ、選手宣誓をしましょう。新宮くんは僕に合わせてくれればいいので」
「ああ、了解した」
 なんで俺たち、一ツ橋の奴らには事前情報がないんだ?
 三ツ橋の奴らだけ、把握してるのがムカつく。
 きっと、宗像先生のことだから、俺たちに伝えるのを忘れてんだろうな。


 石頭くんが一歩前に出る。マイクの前で手を掲げる。
 俺も慌てて、彼の隣りに立ち、同様の行動をとった。
「宣誓! 僕たち~」
 と彼が叫ぶ。
 あ、次は俺が言うのか。
「私たち~」
 ちょっと待て。このセリフは女の子の役だろ。
 俺のそんな疑問を無視して、石頭くんが続ける。
「生徒たちみんなは~ 日頃の練習の成果を~」
 あれ? また俺がつなげるの?
 どう言えばいいかな?

「仲間たちと協力し~」
 うむ、こんなもんだろ。定型文は。
 すると石頭くんが俺を見て、ニヤリと笑った。
 きっと「グッジョブ」と伝えたかったのだろう。

「裏切り、騙しあい、滅多糞にぶん殴り、蹴っ飛ばして……」
 おいおい、なにを言いだすんだよ。
「誠心誠意、殺し合いすることを誓いますっ!」
 石頭くんが壊れた。
 なに恐ろしいことを言ってんだよ……。

 言い終えると、ヒューッと冷たい横風が俺たちの前を通り過ぎる。
 砂が目に入った。
 殺伐とした空気の中、宗像先生は腕を組んで、上から俺をギロッと睨んだ。

「よくぞ言った! お前ら、最後の一人になるまで殺し合え!」
 教師のいう事じゃねー!

「では、これにて開会式を終了する」
 こんな世紀末な式典は初めてだよ。


  ※

 とりあえず、式を終えると、俺たち一ツ橋の生徒たち、それから全日制コースの三ツ橋の生徒たちは2つにグループ分けされた。
 一ツ橋が紅組、三ツ橋が白組。
 その証拠に俺たちは帽子を全部、赤色にそろえる。

 運動場に白いラインが楕円形に描かれる。
 光野先生がTバック姿で、引いてくれた。

 紅組が左側、白組は右側。
 双方、白線の外側で固まって座る。
 次の指示が出るまで、各々先ほどの話で盛り上がる。

「なあ、タクト。本当に人を殺さないとダメなの?」
 涙を浮かべて、俺に相談してくるミハイル。
「そんな訳ないだろう……間に受けるな、ミハイル。普通に勝て」
 悪ノリがすぎて、純朴なミーシャが困っているんだろうが。

「ねぇ、琢人くん。優勝したらなんでも願いが叶うんだよね!?」
 鼻息を荒くして、興奮するのは北神 ほのか。
 体操服が小さいようで、胸がパツパツだ。
 キモッ。
「あれは、宗像先生が俺たちを勝たせたいがために言ったウソだろ」
 誰が信じるか、生徒たちを賭け試合にするクソ教師のことを。
「わかんないじゃん! 私だったら、図書館にBL本を大量にぶち込みたいって願いにするわっ!」
 ナニ言ってんだ、コイツ。そんな生臭い書物は学校が許すわけないだろうに。

「あーしは彼氏が欲しいかな~」
 驚いた。『どビッチのここあ』らしからぬ、可愛らしい発言だ。
「なんだ? 花鶴はそんな願いでいいのか?」
 おめーさんは、いつでもパンツをモロ出しだから、きっとそういう悩みごとはないと思ってたよ。
 セ●レには苦労しないだろう。
「そりゃ、あーしだって彼氏欲しいっしょ。男らしい野郎がいいかな~」
「へ~」
 どうでもいいと、鼻をほじる。

 それを横で聞いていたミハイルが、急に立ち上がる。
「タクトは男らしくないよ。ものすごく汚くて女々しいヤツだからな! ここあは狙っちゃダメだゾ!」
「ブッ!」
 思わず、唾を吐きだす。
 近くにいた日田の兄弟に顔射してしまった。
「なに、マジになってんの? ミーシャってば」
 花鶴は腕を頭の後ろにやり、腰を伸ばす。
 丈があってない体操服がめくりあがり、ブラジャーが露わになる。
「ちゅーこく! タクトは変態だから願うなよ!」
 オレってアンナちゃんを含めて、ミハイルにそんな風に見られてたんだ。
 ちょっと軽くショックだわ。
「ハァ? 変なミーシャ。それに願いごとを決めるのはあーしっしょ♪」
 鼻歌交じりで去っていく。
 後ろ姿を見せると、俺はため息をつく。
 こいつもはみパンしてらぁ。ブルマは身体が大きい人には向いてないな。


 宗像先生の言った『願い事』でガヤガヤとにぎわう。
 そんなことをしていると、準備が整ったのようで、運動場に白いテントが設置されていた。
 テントの中には横長のテーブルにパイプイス。
 一列になって、宗像先生、光野先生が座っていた。

 スピーカーから酒やけしたガラガラ声が流れる。

「あー、では第一種目、『ファイナルデッド二人三脚』を行う!」
 なんだよそれ。ただの二人三脚だろ。

「すぐにペアを作るように! 尚、本種目は早いもの勝ちだ。4つのペアを走らせ、一番最初にゴールしたものが次の試合に進める。その他の奴らは脱落、つまり死亡だ」
 だから死なないだろうが。

「なるほど、二人で勝ち残ればいいわけか……」
 俺が情報を整理していると、ミハイルが俺の腕に抱き着く。
「タクト! オレとペアを組もうぜ☆」
「ああ……」
 組まないと殴られそうだもんね。


  ※

 俺はミハイルの細くて白い脚に、紐を通す。
「あひゃっ、くすぐったいよ☆」
 変な声を出すな。ドキッとするだろうが。
 彼の右足と俺の左足を密着させ、紐で固定する。

「勝つぞ、ミハイル」
「うん☆」

 俺たち以外にレースに出場したのは、一ツ橋から日田兄弟。
 それから三ツ橋の吹奏楽部の女子二人、あとは生徒会のおかっぱ女子組。

 光野先生がスタートラインに立つ。
 もちろん、パンツ一丁で。
 夕陽が落ち、辺りは暗くなりだす。

「よおい……」
 ピストルの音が運動場に鳴り響く。
「ドン!」

「いくぞ、ミハ……」
 言いかけた時は既に遅かった。
「うぉおお!」
 ミハイルは全速力で、走り抜ける。
 他の連中なんか、全然追いつけないほど。
 もちろん、この俺もだ。

 つまり、どういう状態かというと、馬にロープをかけて引きずり回されているようなものだ。
 ミハイルの速度についていけなかった俺は、地面に顔を叩きつけられる。
「いってぇ! ちょっ……グヘッ…待って!」
 だが、俺のそんな叫びもむなしく、彼の耳には届いてない。
「負けないゾぉ!」
 両腕をブンブン振り回して、走り抜ける。
 その度に、俺の頭が上空にバウンドしてはまた地面に直撃する。
 なんて馬力だ。
 
 もう処刑に近い。

 口の中が土でいっぱいになった頃、やっとのことで彼が足を止める。
 俺はよろよろと立ち上がった。
「ゴールしたのか?」
 土をペッペッと吐きだしながら、ミハイルに聞く。
「ううん! まだだよ! 変な箱が置いてある」
「箱?」
 目の前を見ると、机の上に青いプラスチックのケースが。
 箱の中は白い粉で埋もれていた。

「なんだこれ?」
「ああ、こりゃアレだな。アメ食いだ。この砂の中にアメが入っているから、手を使わずに口で探せ」
「わかった!」
 俺とミハイルは同時に顔を突っ込む。
 目をつぶると、唇の感触だけで固形物を探し出す。

 ミハイルの行動は確認できないが、きっと彼なら大丈夫だろう。

「ペロッ、チュッチュッ……んんっ…プハッ! ハァハァ…」
 なんだ? 隣りからめっちゃいやらしい音が聞こえてくる。
「んん……も~う、なにこれぇ。んん、チュッチュッ…」
 俺はアメ探しどころでは、なくなっていた。
 耳をすませば、聞こえてくる。このエロチックな咀嚼音。

「んちゅっ、ぱぁ……レロレロ、んっ、ちゅちゅ……」
 なんか音がどんどん俺の方へ近づいてくる。
 まさかな…嫌な予感が走る。
 俺だけでも先にアメをゲットして、顔を上げようと急ぐ。

 負けじと、その音も早くなる。
「レロレロ……」
 クッソ! 中々、見つからないな。
「んっ、ハァハァ……チュッチュッ」
 迫りくる可愛い声。
 ヤバい!

 カプッ!

 やっと見つけた。
 前歯でしっかり固定すると、勢いよく顔をあげる。
「プハッ!」
 どうにか、彼が近づく前にアメをゲットできたな。
 ん? なんかアメが重たく感じる。
 何かこう、横に引っ張られるような……。

 白い粉で視界が覆われていたので、よくわからなかったが、微かに「ハァハァ」と誰かの吐息を感じる。
 瞼をパチパチさせて、粉を落とす。
 すると徐々に、視界が回復してきた。

「タ、タクトぉ?」
「あ……」

 寸前だった。
 俺とミハイルは接吻する直前で、静止していた。
 そう、1つのアメを二人でかじっていた。

 気がついたミハイルは驚いて、歯の力を緩める。
 自然とアメは俺の口に入り込んだ。
 ビックリしていたのは、彼だけではない。

 俺は思わず、アメを飲み込んでしまった。

「食べ、ちゃったんだ……」
 彼は頬を赤くして、俺を見つめる。
 これは事故だ。
 だが、彼と唾液交換してしまったことも事実だ。

 
 その後、俺とミハイルはめちゃくちゃ突っ走って、首位を獲得できた。
 まるで全てを忘れたいがために……。
Twitter