告白
朱里ちゃんと会った私は、近くにある公園に移動することにした。移動中は終始無言で、とても重苦しい雰囲気だった。少しすると、公園に着いた。着くなり朱里ちゃんは、
「あそこに座りましょっ」
と言ったのでベンチに座ることにした。ただ、座ったところで重苦しい雰囲気は変わらず、隣にいるのに、離れた所に座っているような感覚だった。
さて、どうやって話を切り出そうか。決意は固めた。だけどそれが中々言葉が出ない。朱里ちゃんを見ても何か考え込んでいるようで、口を開く気配がまるでない。
ならば私から話さないと。だけど口が開かない。話しかけようとしても、その度に喉の奥で詰まってしまうのだ。
それじゃダメだと、自分自身に何度も言い聞かせる。すると、少しだけ震えながらも口が開いた。よし、この勢いで声を掛けに行こう。
私は、唾をのみ込み喉の奥に詰まっていた言葉を放った。
「あ、あの」
ただし、それは不運にも朱里ちゃんの言葉と重なってしまった。そのせいでまた、気まずい感じになってしまった。
「あ、あの、先輩からどうぞ」
沈黙を破ったのは朱里ちゃんの方だった。朱里ちゃんは、少し申し訳なさそうにしていた。
さて、朱里ちゃんが譲ってくれたがどうしよう。こういう時、普段なら絶対に譲り返す。
そうした方が、自分の気持ちが落ち着いて話しやすくなるからだ。けれども、今日はそうしたくなかった。
なんとなくだけど、譲ってしまったら自分の想いを伝えられない気がしたからだ。
「じゃあ、私から話させてもらうね」
そう言って息を吸って心を整え、言葉を吐き出した。
「ごめん朱里ちゃん。私、今まで嘘ついてたの」
これを口火に、ひたすら謝りながら今までの事を洗いざらい話した。
自分の正体を隠していたことも、学校で自分を演じていることも、実はかわいいものが大好きで、メルヘンチックな女の子だということも、とにかく隠していたことは全て話した。これで朱里ちゃんの心が離れてしまうかもしれない。
それでも伝えたかった。私を知ってもらったうえで、朱里ちゃんに告白をしたかったからだ。
私の話が終わると、朱里ちゃんは考える人のような姿勢になった。多分だけど、私の話を聞いてどうしようか考えているはずだ。
驚いているような表情もリアクションもなかった。それでも、今までの私のイメージが崩れたのは間違いないはずだ。
だからこうやって考えて、それでも私のことを好きでいられるのかを考えているはずだ。
もしかすると、ふられたかもしれない。まあ、その時は美奈さんに慰めてもらおう。きっと優しく慰めてくれるだろう。それはそれでしれない。そう思えば気が楽になるだろう。
そんなことを考えていると、朱里ちゃんが急にクスリと笑った。
私が心配して声を掛けると、今度は大声で笑い出した。唐突すぎて私は状況がさっぱりつかめない。ある程度笑いが収まると、目を擦りながら、朱里ちゃんは話しだした。
「ごめんなさい。私が正体知ったのを本気で知らなかったって思うと、おかしくておかしくて」
笑いの余韻を残しながら、朱里ちゃんは震える声で話した。なるほど。私が嫌いになったわけではないらしい。
私は安心し……。いや、待て。この話を聞く限りだと、朱里ちゃんは私が正体を隠していたことも、こういう趣味だったってことも、全部知っていて、その上で今まで接していたことになる。
でも、私はばれるような大ポカはしていないはずだ。一体いつ、気付いたんだろう。
「い、いつから正体に気づいてたの?」
「あの店で最初にあった時から気づいてましたよ。変装してても、私の目はごまかせませんよ!」
私の質問に決め顔で答えてくれた。なるほど、変装は最初から意味をなしていなかったらしい。
なのに私ときたらそんなことを全く知らずに、変装が上手くいっていると思い込んでいたという、とんでもなく間抜けなことをしていたようだ。
私は恥ずかしさで、顔から火を噴きだしそうになった。
「別人のフリをしてる先輩、すごくかわいかったですよ。特に店で出くわしたあの日とか。会った瞬間は深刻な顔してたのに、別人でしたって私が言ったら表情がガラって変わったところとか。絶対変装が上手くいってるって、思ってるんだろうなあって感じがして」
「ああああやめて! 言わないで!」
朱里ちゃんから弄られて、目を背けて手をぶんぶん振りながら大声を出してしまった。
「一昨日と昨日、私の事を無視した罰です。先輩にはとことん恥ずかしがってもらいますよ」
どうやら朱里ちゃんは、あの事を根に持っていたようだ。それからしばらくの間、朱里ちゃんに恥ずかしさで死んでしまいそうなくらい、たっぷりと仕返しをされた。
「今日はこれくらいにしますけど、今度から絶対に無視しないでくださいね。わかりました?」
朱里ちゃんはふぅーっと吐いた。
「はい……」
私は絶対に朱里ちゃんのことは無視しないと、心に固く誓った。
「でも、先輩に嫌われてなくてよかったです。もし、そうだったら立ち直れなかったです」
そう言った朱里ちゃんの表情からも、安心できたという気持ちが伝わってきた。この時私は感じた。
今言わないと、自分から告白できないと。間違いなく後悔するだろうと。だから決めた。ここで、自分の想いを朱里ちゃんに伝えよう。
「あ、あのさあ朱里ちゃん」
意を決して、朱里ちゃんを呼んだ。
「ん? なんですか?」
朱里ちゃんはこっちを向いた。さあ、あとは自分の想いを言葉に乗せるだけだ。大丈夫。さっき言えたんだ。今度も言えるはずだ。震える心にそう言い聞かせた。
「私、朱里ちゃんのことが好きなんだ」
その言葉は自分の思っている以上にすんなりと、冷静に出てきた。
「えっ? そ、それはどういう、意味ですか」
「恋人として、だよ」
私の答えに朱里ちゃんの頬は紅潮する。今までも何度か、こんな表情をしているのを見たことはある。
でもこの顔は、今まで以上に恋する女の子みたいな雰囲気を醸し出していた。
喜んでくれるだろうとは思っていた。それでも、ここまでとは思っていなかった。思っていた以上の反応に、私も嬉しくなった。
「最初はやけに私に懐いているかわいい後輩くらいにしか思ってなかった。でも、この一カ月間、こうやって接しているうちに朱里ちゃんが後輩以上の存在になっていって、気づいたら朱里ちゃんのことばっかり考えるようになってた。こんなに誰かの事を想ったことがなかったから、どうしていいのかわからなくなっちゃって……。それで、朱里ちゃんを遠ざけちゃったけど、そのおかげで朱里ちゃんに恋してるってことに気づけたの……」
「先輩……」
「……私は知ってる。朱里ちゃんが本当に好きなのは学校の私なんだってこと。だから、好きな先輩の設定が学校の私だったでしょ?」
朱里ちゃんは口を貝のように閉じて黙り込む。やっぱり、そうだったらしい。
「やっぱり、そうよね。朱里ちゃんが好きなのは、学校の私の方だよね」
朱里ちゃんは少し目を伏せたまま何も言わない。
「大丈夫だよ。それでも朱里ちゃんが好きだから。私のこの気持ちは、変わらないから。だから、朱里ちゃんといる時はちゃんと王子様でいるように頑張るし、なんなら今の自分を捨てる。それでも嫌なら私は諦める。だから、朱里ちゃんの答えを聞かせて」
私はありったけの想いを伝えた。後はどういう答えが返ってくるかだ。心拍数が上がり、胸が締め付けられる。
もしかしたらダメなのかもしれない。それでも、自分の想いを素直にぶつけられたんだ。後悔はしないだろう。そう考えて、私は心を奮い立たせていた。
「返事をする前に、私の話を聞いてもらえますか?」
朱里ちゃんが重い口を開けた。私は黙って首を縦に振った。
「あそこに座りましょっ」
と言ったのでベンチに座ることにした。ただ、座ったところで重苦しい雰囲気は変わらず、隣にいるのに、離れた所に座っているような感覚だった。
さて、どうやって話を切り出そうか。決意は固めた。だけどそれが中々言葉が出ない。朱里ちゃんを見ても何か考え込んでいるようで、口を開く気配がまるでない。
ならば私から話さないと。だけど口が開かない。話しかけようとしても、その度に喉の奥で詰まってしまうのだ。
それじゃダメだと、自分自身に何度も言い聞かせる。すると、少しだけ震えながらも口が開いた。よし、この勢いで声を掛けに行こう。
私は、唾をのみ込み喉の奥に詰まっていた言葉を放った。
「あ、あの」
ただし、それは不運にも朱里ちゃんの言葉と重なってしまった。そのせいでまた、気まずい感じになってしまった。
「あ、あの、先輩からどうぞ」
沈黙を破ったのは朱里ちゃんの方だった。朱里ちゃんは、少し申し訳なさそうにしていた。
さて、朱里ちゃんが譲ってくれたがどうしよう。こういう時、普段なら絶対に譲り返す。
そうした方が、自分の気持ちが落ち着いて話しやすくなるからだ。けれども、今日はそうしたくなかった。
なんとなくだけど、譲ってしまったら自分の想いを伝えられない気がしたからだ。
「じゃあ、私から話させてもらうね」
そう言って息を吸って心を整え、言葉を吐き出した。
「ごめん朱里ちゃん。私、今まで嘘ついてたの」
これを口火に、ひたすら謝りながら今までの事を洗いざらい話した。
自分の正体を隠していたことも、学校で自分を演じていることも、実はかわいいものが大好きで、メルヘンチックな女の子だということも、とにかく隠していたことは全て話した。これで朱里ちゃんの心が離れてしまうかもしれない。
それでも伝えたかった。私を知ってもらったうえで、朱里ちゃんに告白をしたかったからだ。
私の話が終わると、朱里ちゃんは考える人のような姿勢になった。多分だけど、私の話を聞いてどうしようか考えているはずだ。
驚いているような表情もリアクションもなかった。それでも、今までの私のイメージが崩れたのは間違いないはずだ。
だからこうやって考えて、それでも私のことを好きでいられるのかを考えているはずだ。
もしかすると、ふられたかもしれない。まあ、その時は美奈さんに慰めてもらおう。きっと優しく慰めてくれるだろう。それはそれでしれない。そう思えば気が楽になるだろう。
そんなことを考えていると、朱里ちゃんが急にクスリと笑った。
私が心配して声を掛けると、今度は大声で笑い出した。唐突すぎて私は状況がさっぱりつかめない。ある程度笑いが収まると、目を擦りながら、朱里ちゃんは話しだした。
「ごめんなさい。私が正体知ったのを本気で知らなかったって思うと、おかしくておかしくて」
笑いの余韻を残しながら、朱里ちゃんは震える声で話した。なるほど。私が嫌いになったわけではないらしい。
私は安心し……。いや、待て。この話を聞く限りだと、朱里ちゃんは私が正体を隠していたことも、こういう趣味だったってことも、全部知っていて、その上で今まで接していたことになる。
でも、私はばれるような大ポカはしていないはずだ。一体いつ、気付いたんだろう。
「い、いつから正体に気づいてたの?」
「あの店で最初にあった時から気づいてましたよ。変装してても、私の目はごまかせませんよ!」
私の質問に決め顔で答えてくれた。なるほど、変装は最初から意味をなしていなかったらしい。
なのに私ときたらそんなことを全く知らずに、変装が上手くいっていると思い込んでいたという、とんでもなく間抜けなことをしていたようだ。
私は恥ずかしさで、顔から火を噴きだしそうになった。
「別人のフリをしてる先輩、すごくかわいかったですよ。特に店で出くわしたあの日とか。会った瞬間は深刻な顔してたのに、別人でしたって私が言ったら表情がガラって変わったところとか。絶対変装が上手くいってるって、思ってるんだろうなあって感じがして」
「ああああやめて! 言わないで!」
朱里ちゃんから弄られて、目を背けて手をぶんぶん振りながら大声を出してしまった。
「一昨日と昨日、私の事を無視した罰です。先輩にはとことん恥ずかしがってもらいますよ」
どうやら朱里ちゃんは、あの事を根に持っていたようだ。それからしばらくの間、朱里ちゃんに恥ずかしさで死んでしまいそうなくらい、たっぷりと仕返しをされた。
「今日はこれくらいにしますけど、今度から絶対に無視しないでくださいね。わかりました?」
朱里ちゃんはふぅーっと吐いた。
「はい……」
私は絶対に朱里ちゃんのことは無視しないと、心に固く誓った。
「でも、先輩に嫌われてなくてよかったです。もし、そうだったら立ち直れなかったです」
そう言った朱里ちゃんの表情からも、安心できたという気持ちが伝わってきた。この時私は感じた。
今言わないと、自分から告白できないと。間違いなく後悔するだろうと。だから決めた。ここで、自分の想いを朱里ちゃんに伝えよう。
「あ、あのさあ朱里ちゃん」
意を決して、朱里ちゃんを呼んだ。
「ん? なんですか?」
朱里ちゃんはこっちを向いた。さあ、あとは自分の想いを言葉に乗せるだけだ。大丈夫。さっき言えたんだ。今度も言えるはずだ。震える心にそう言い聞かせた。
「私、朱里ちゃんのことが好きなんだ」
その言葉は自分の思っている以上にすんなりと、冷静に出てきた。
「えっ? そ、それはどういう、意味ですか」
「恋人として、だよ」
私の答えに朱里ちゃんの頬は紅潮する。今までも何度か、こんな表情をしているのを見たことはある。
でもこの顔は、今まで以上に恋する女の子みたいな雰囲気を醸し出していた。
喜んでくれるだろうとは思っていた。それでも、ここまでとは思っていなかった。思っていた以上の反応に、私も嬉しくなった。
「最初はやけに私に懐いているかわいい後輩くらいにしか思ってなかった。でも、この一カ月間、こうやって接しているうちに朱里ちゃんが後輩以上の存在になっていって、気づいたら朱里ちゃんのことばっかり考えるようになってた。こんなに誰かの事を想ったことがなかったから、どうしていいのかわからなくなっちゃって……。それで、朱里ちゃんを遠ざけちゃったけど、そのおかげで朱里ちゃんに恋してるってことに気づけたの……」
「先輩……」
「……私は知ってる。朱里ちゃんが本当に好きなのは学校の私なんだってこと。だから、好きな先輩の設定が学校の私だったでしょ?」
朱里ちゃんは口を貝のように閉じて黙り込む。やっぱり、そうだったらしい。
「やっぱり、そうよね。朱里ちゃんが好きなのは、学校の私の方だよね」
朱里ちゃんは少し目を伏せたまま何も言わない。
「大丈夫だよ。それでも朱里ちゃんが好きだから。私のこの気持ちは、変わらないから。だから、朱里ちゃんといる時はちゃんと王子様でいるように頑張るし、なんなら今の自分を捨てる。それでも嫌なら私は諦める。だから、朱里ちゃんの答えを聞かせて」
私はありったけの想いを伝えた。後はどういう答えが返ってくるかだ。心拍数が上がり、胸が締め付けられる。
もしかしたらダメなのかもしれない。それでも、自分の想いを素直にぶつけられたんだ。後悔はしないだろう。そう考えて、私は心を奮い立たせていた。
「返事をする前に、私の話を聞いてもらえますか?」
朱里ちゃんが重い口を開けた。私は黙って首を縦に振った。