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作者: nuseat
残酷な描写あり
東京SPLITTER
全てが終わってからのひと時。
 二人の目が覚めてから、ミナミへの情報提供と強奪品の回収を行なった。
 小竹橋おたけばしから手に入れた金品は裏市場で換金する必要があるため、資金洗浄マネーロンダリングに数ヶ月とそれなりの手数料がかかる。また、今回の仕事で使った必要経費も、そこから回収することになった。
 とはいえ、それでも手元にはかなりの金が残る計算になる。
「サンちゃんさ、今回の分け前なんだけど」
 分け前と聞いて嫌な顔をする。
「私は強盗じゃないから」
「え、要らないの? 手に入れたものの総額の一%を用意してたんだけど。手数料引く前の」
「えー、たった一ぱ……え、ちょっと待って」
 指折り桁を数える。小竹橋の話では二億程度にはなったはずだ。
「に、二百万……?」
「そう、要らないならいいけど」
「要るに決まってるでしょ!」
 その必死さがおかしくて笑い出す。
「現金だなぁ、サンちゃんは。ん? なにその手」
「いや、くれるんでしょ、二百万」
 ん。といって手を出すが、ミワはそれを払い除けた。
「今じゃねーよ! 聞いてた? お金をキレイキレイするのに数ヶ月かかるの! 大人しく待ってろ!」
「うー」
「唸るな。あと、手に入ったらウカレてでかい買い物するなよ。あと銀行にも入れるな。株も買うな。FXなんてもっての外な」
「なんで」
国税局マルサにバレるだろーが。あそこナメたら怖いんだぞ。財産根こそぎ持っていくからな。あとお前が捕まったらあたしんところもくるからな。巻き添えは勘弁だ」
「はぁ」
 オーバーアクションでの説明は、本気か冗談か判別がつかない。
 ただサンとしても、出どころの説明できないお金についてあれこれ聞かれることが面倒なのは理解できた。

 ミナミの記事はすぐに載った。
 比較的、反権力的な立場で記事を書く週刊文集で掲載され、昼日、毎朝、読購新聞などもそれに続いた。
 山経などの政権寄りのメディアは火消しと擁護に奔走するも、秘密警察と政府公認の暗殺組織の存在は与党の足場を揺るがし、カルト教団「世界統一学会」との癒着の証言が決定的となって内閣は解散に追い込まれた。
 しかし日本がそれでよくなったわけではなく、相変わらず悪党と呼べる権力者たちの横暴は続いている。
 ミワは思った。政府のゴタゴタで自分たちの処遇は有耶無耶になったが、このままにしておくにはいささかリスキーであると。
 そもそも、テロ犯として一度流された情報は、訂正された後も残り続ける。人は真実よりも自分が信じたいデマを信じるからだ。
 残念なことに、すでに一部屋空きが出た。今回の実害だ。
 もう一部屋にもそれに続いて出ていかれる可能性だってある。
 それに、権力者に限っていえば再び自分たちを都合よく使い、切り捨てようとするクズが出てこないとも限らない。現に国葬派の重鎮を含めた政治家たちの多くはいまだに現役だ。ならば。
「先手を打ってそれをしそうな奴らを皆殺しにしていくか。どうせもうテロリスト呼ばわりされてんだし、実態に見合わない損害だけ被るのは割に合わないからねぇ。んで奴らの財産を奪ったら、経費引いた残りをまとめてどっかに寄付してやろうか。どう? 奴らが弱者から吸い上げた金を奪って再分配してやるの、最高に面白くない?」
 悪い顔で誘いの手を差し伸べる。
 実際、今回小竹橋から奪った財産の一部も、匿名で某所に寄付している。
「強盗殺人を手伝えと?」
「バイト代出すよ。ほら、生活費と学費必要だろ?」
「……学、費?」
 宮野の下に着いてからサンは学校に通ってはいなかった。本来であれば、高校生として学校に通っているはずだ。
 しかし、中学を卒業してからその機会は彼女にはなかった。
「西日暮里にさ、女子校あるの知ってる? 道灌山どうかんやま女子高等学校。そこの入学手続き、しといたから。大丈夫、入学金は奢りよ、奢り」
 ケラケラ笑いながら話すミワだが、サンはいまいち理解が追いついていない。
「なんで?」
 なぜそんなことをしたのか。それが知りたい。
「サンちゃんはさ、もともと学校ってとこ通ってたわけじゃん。あたしは一度も通ったことないから今更って感じだけど、サンちゃんは違うでしょ。JKじょしこーせーになれば、また元の生活に戻れるんじゃないかってさ」
 ミワのささやかな思いやり――ということらしいのだが。
「え、それならなんで殺しのバイトに誘ってんの……」
「え、だってお金必要でしょ?」
「は?」
 ――意味がわからん……。
「自分で矛盾してるって、感じない?」
「うるせーな、細けぇこたいいんだよ。これはまぁ、サンちゃんに対しての罪滅ぼしっつーか、お詫びっていうかさ。そーゆーやつなの」
 バツが悪そうに顔を背ける。それはつまり、町谷三夏の人生を狂わせてしまったことへの、謝罪のつもりなのだ。
「それに、ほら」
 照れ隠しに取り出したのは制服。
「これ、道灌山のブレザー。よくない? 色味とか割と好みだったんで、あたしのも買っちゃった」
「ミワも通うの⁉︎」
「は? 通わねーよ?」
 なに馬鹿なこと言ってんの?という顔で返される。
「じゃあただのコスプレじゃん」
「うっせーな、コスプレでわりーか」
 そんなミワの顔がおかしくて。サンはしばらく笑っていた。
 結局、もうミワに対しての殺意はあまり残っていなかった。元凶はともに力を合わせて排除したし、その際にミワに銃弾を撃ち込んで多少スッキリはした。
 というより、むしろ罪悪感を感じる程度にはミワのことは受け入れていた。
 ――まぁ、許す許さないはともかく、しばらくは命を狙わないでおいてあげるよ、ミワ。

 権力を持った大人たちのエゴに翻弄された少女たち。
 彼女たちはそんな大人たちを心底軽蔑し、嫌悪し、その呪縛から解き放たれた。そして大人たちは、彼女たちにした仕打ちに対する報いを受けることになる。
 彼らが私利私欲のために育てた力によって、彼ら自身の命と財産を没収され、奪われた金品は社会に強制再分配される。
 彼女たちに恐れをなした者は畏怖を込めて、分配者スプリッターと呼んだ。
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