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作者: 小説書き123456
1話
父の日ということで思い出したエピソード何ですけどね。


「お前とはもう仲良くしねえぞ!」「敵同士になるんだな!」

 助手席の怒声は徐々に大きくなっていき、運転席の姉の肩がビクリと跳ね上がった。

 すでに『キレめ』を迎えていた父の機嫌はすこぶる悪く、イラついたように身体をさすりながらなおも怒り続けている。

 それにプラスして『勘ぐり』も発動しているのか怒声は罵声に変わり、そういった人間特有の思考が交ぜあわせになった車内はネチネチとした不快さと不思議なケミカル臭に満ちて息が詰まりそうだ。

 窒息しそうになるほどのその不快さに耐えて、後部座席で俺は身じろぎしないように必死で努める。

 うっかり『興味』が行ってしまったら最後、今であるならば確実に八つ当たりとしてボコボコにされることがわかっていたからだ。

「おい!ラチがあかねえ!直接向かうぞ!」

 自分の子供達の前だということさえどうでもよくなるくらいに渇望して、パックリと丸く開いた瞳で乱暴に姉に指示する。

「え~、でも~、勇樹も居るのに~本当に行くの?」

 でもそんなの関係ねえ!状態になっているパパには文字通り関係ねえ!になってますからね。

そして父は振り返り、

「お…おい、大丈夫だよな!? ちょっと小突いて、蹴りまわせばい、いいだけだからよ!お前は俺の息子だから!できるよな!」

 なにが出来るよなだよ! 実の息子を覚せい剤強奪に使おうとすんなよ!って言葉が脳内に浮かびましたが無言で沈めていく。

 そんなこと言ったら俺が殺されるもん。 だってパパの目がそういってるもん。

 瞳は丸く。 ただ丸く。 そしてすごく暗くて…。 それこそ真っ黒で。 

 ドプンとどす黒いその瞳の底まで沈みこませるような沼。 そんな瞳をして覗き込む父は無秩序な暴力そのものだった。

 父は『渇望』に悲鳴を上げながらなおも平静を装い、そして息子である俺に金属バットを握らせる。

 それは主に野球のボールを打つ以外に使われていて、不思議に手に馴染むのが余計に当時の俺の恐怖を煽ってくれた。

 そして将来のプロ野球選手になってくれと淡く期待する父親のような熱心さとバッキバキに瞳孔開いた瞳で、致命傷にならない頭の殴り方をレクチャーしてくれている。

「だから大丈夫だ! 想いっきり行け! 心配するな!慎重にぶっ殺せ!」

 ものすごく矛盾した言葉を言っているが、だんだん互いの言葉の間が狭まってきているのを実感し、それを見た姉の顔色が蒼白になっていく。

 だめだ限界だ! 俺は拳を握り、まっすぐとした視線で決断を下した。

 「OK!パパ!この金属バットでシャ○オジサンの頭をホームランだ~」(涙目)
 
 かくして涙の親子強盗団を結成(させられた)した我々は一路、シャ○おじさんの住処へと向かう羽目に

 はじめて人を殺すのかもしれないな~と道中の車内で金属バットを握り締めながら不思議な気持ちになったのを思い出す。

 まあ、幸いなことにシャブおじさんはとっくに逃げていて、パパは玄関と窓ガラスをぶち割ってそのままスイッチが入って暴れ始めたので逮捕されました。

平和が一番ですね。
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