R-15
part Aki 10/17 pm 12:46
黙れ。
マジで 黙れ。
ホント 黙っとけよ。このクソババア。
心の中で 悪態つきまくるけど ボクは〈あき〉。
「ちょっとママ。ツマンないこと 喋らないって約束したでしょ?」
男言葉で 怒鳴っても 止まらないママが こんな半端な〈あき〉喋りで止まるワケもない。完全にスルーされる。こんのさん相手に 好き勝手なこと喋り散らしている。
お昼ご飯を食べ終わって 食後のティータイム。お昼ご飯は お誕生日メニューで ボクの好きなポテトフライに唐揚げ。サラダと たらこスパゲッティ。お世辞もあるんだろうけど こんのさんは『美味しいです』って言ってくれて たっぷり食べてくれた。ニコニコしながら食べてくれてボクも嬉しかった。 ママの こんのさん好感度も さらに上がったみたいだ。
「亜樹ちゃんって 全然 食べないでしょ~? 瞳ちゃんみたいに美味しそうに食べてくれたら 作った甲斐があるわ~」
ボクでも『こんのさん』って呼んでるのに いきなり『瞳ちゃん』とか 馴れ馴れし過ぎるだろ!? それに ボクも もう 高校生なんだから人前で『ちゃん』付けで呼ぶのも止めて欲しい…。いちいち イライラするけど そーゆー感じを表に出すと〈あき〉っぽくないからな…。……紅茶でも 啜って心を落ち着かせよう。
「亜樹ちゃん。ティーソーサー持ってお茶飲むのは お行儀悪いから止めなさいって いつも言ってるでしょ?」
「うるさいな~。外では やってないし。家でくらい 別にいいでしょ」
こんのさんが ちょっと驚いたような表情で こっちをチラ見した。今の口答えは 一応〈あき〉喋りのつもりだったんだけど…。親に口答えなんてしない従順なお嬢様みたいに 思われてたのかな?
「亜樹ちゃんって お行儀は悪いし 言葉遣いは乱暴だし 口も悪いから びっくりしちゃうでしょ?」
「いやぁ あたしもお作法とか ぜんぜん わかってなくて……あきちゃんがお手本みたいな感じなんで。……もし 失礼なことしてたら すみません。あきちゃんって しゃべり方も いつも丁寧で 優しいし。ホント 怒ったりしないから スゴいなぁって感心してるんです。まあ 確かに 口 悪いなぁって思うときは ありますけど……」
げっ? こんのさんに口悪いって思われてたのか? 確かに 学校で 教師の悪口言ってるときとか 『……言いすぎだよ』って なっちゃんに注意されることあるけど……。こんのさんの前で 誰かの悪口 言ったりしたっけ?
「そうでしょ。言葉が本当にきついから 私にも す~ぐヒドイこと言うし こーちゃんとも ケンカ ば~っかりしてるのよ?」
「そうなんですか? あたしの中では あきちゃんって スゴく優しくてケンカなんて絶対しなさそうなイメージなんですけど。あたしなんかは つい負けん気 起こしちゃって 母とか弟と 口喧嘩ばっかしてますけど」
あのお母さんと口喧嘩するんだ…。けっこう迫力あるから 怒ったら怖そうだけど。元ヤンキーってハナシだし……。
「亜樹ちゃんって 上がお兄ちゃんばっかりでしょ。小さい頃から お兄ちゃん達のマネばっかりしてたし 言葉遣いも すごく乱暴だから お友達いないんじゃないかって 心配してたの…」
別に 友達いないワケじゃない。時々 一緒に遊びに行ったりしてるし。確かに 家に呼んだり呼ばれたりは無いけど それは 聖心が私学で 近くに 友達の家がないせいだし。……まぁ 2人きりにならないように ボクが避けてきたってゆーのは あるけどさ。
「瞳ちゃんみたいな 素敵な女の子のお友達ができて ちょっと安心したわ。亜樹ちゃんも 少しは変わってくれると いいんだけど。見たでしょ? あのお部屋。4人の中で一番 汚いんだから 臭いし……」
ホント黙っといてくれ。頼むから。
「お料理とかお裁縫とかも全然できないし…。瞳ちゃんは お裁縫得意なんでしょ。女の子らしい特技でいいわねぇ。そのエプロンドレス 何回見ても素敵だわ~」
料理できないことは ない。ママに比べたら全然なのは 認めるけど けっこう複雑なものでも作れる。やる気がないだけだ。まぁ 裁縫は 苦手かも。面倒臭いんだよね。
「ありがとうございます。得意ってほどじゃないんですけど……。藤工の服飾科だと 毎週 実習あるんで ちょっとは 慣れてきました」
「そうだ。せっかく ペアルックしてるんだから お写真 撮っておきましょ? 2人並んで撮ったら きっと可愛いわよ~」
確かに。せっかくのお揃いコーデだもんな。写真は撮っておきたい。でも ボク 今朝は登校用の時短メイクしか してない。けっこうバッチリメイクのこんのさんと写るなら メイクし直しときたいかも。
「あの こんのさん。写真 撮るんだったら お化粧直し してきても いいですか?」
「あっ その方がいいわね。今のままじゃ ちょっと地味だもんね」
……ママには 聞いてない。ボクが聞いたのは こんのさん。
「こんのさん いいです?」
「あ。うん」
「じゃあさ。じゃあさ。亜樹ちゃんが お化粧してるあいだに 瞳ちゃんのお化粧も ちょっとだけ直していいかしら? Tゾーン もう少し強調したら グッと大人っぽくなると思うのよね~。おばさんに やらせてくれる?」
ママが はしゃいでて マジでウザイ。こんのさんって 元が美人の上に 化粧映えするタイプだから お化粧してあげたくなる気持ちはわかるけど。ママの こんのさんじゃなくて ボクの こんのさんなのに……。…違うな。こんのさんは こんのさんのものだ。……もしかしたら〈誰か〉の こんのさんになりかけてるのかも しれないけど…。
こんのさんの好きな人が どんなヤツかは 知らないけど こんのさんを 心から大切にしてくれる人だと いいけど……。もし つまらない非道い男だったらって思うと 身を切られるような 気持ちになる……。
……いや。大丈夫だ。こんのさんが 選んだヤツだもん。つまらない男のハズがない。きっと 最高の男だ。他の何も信じられなくても こんのさんのことは 信じられる。こんのさんが選ぶんだから大丈夫。
……いや ダメかも。ちょっと泣きそうになってきた。
洗面所に行って 気分を切り替えよう。
「じゃあ ちょっと お化粧してきますね」
そう言い残すと ボクは 洗面所に急ぐ。こんのさんや ママに涙を見られるワケには いかない。他の人から どう見られていようと ボクは 男の子。人前で泣くのは恥と思う古風な男子なんだ。……見られてないところでは すぐ泣くけど…。
「亜樹ちゃんの方が 身体 小さいから 少し明るめにするのよ? ママの化粧品も使っていいからね~」
ホント煩い。そんなこと わかってる。
ちょっとで いいんだ。ほっといてくれ……。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 10/17 pm 1:06”