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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 7/23 pm 1:45


 
 黒髪をアップヘアにした女の人が 手招きしてくれているのが見える。
 
 えっ?
 別に注文とかして無いし。
 
 …って困って あきちゃんの方を見ると あきちゃんも戸惑った表情。

 
「外 暑かったでしょ~? サービスで お茶 淹れたから 飲んでいって?」

「あー えっと。スミマセン… あの アタシ達 高校生で お金とか全然なくて 見せてもらってただけで 買ったりできないんで…」

 
 あきちゃんが 申し訳なさそうに ゴニョゴニョ言いながら やんわり断ってくれる。

 
「あら~ そんなの い~のよ。サービスって言ってるでしょ~? 今日は 暇だから ちょっと話し相手になってくれればいいの。ほら~ お茶が冷めちゃうわ… こっち いらっしゃい?」

 
 そう言って 女の人は 奥へと案内してくれる。
 
 女の人は グレーのサマーポンチョの下に黒のニットと黒のロングスカート。
 背は165㎝くらいかな?
 服装のせいかもしれないけど 体型が分かりにくい。
 それに 年齢も。
 20代くらいに見えるけど 物腰とかは もっと上っぽい。
 落ち着いた大人の女性って感じだ。

 
「ほ~ら座って。若いんだから 遠慮なんてしないの」

 
 黒いデッキテーブルがあって その横はガラス張りの坪庭になっている。
 そして テーブルの上には ティーカップが3つ。
 
 女の人は黒のデッキチェアを曳いて 腰掛けるように促してくる。
 お礼を言いながら あきちゃんと3人でテーブルを囲む

 
七海ななみの特製ハーブティーなの。熱いうちに飲んじゃってね。ス~ッと汗が退くんだから」

 
 悪戯っぽく笑いながら お茶を勧めてくれる。
 ティーカップは金縁で上側1/4のところがクールグリーンになった白い磁器。
 琥珀色のお茶が8割ほど入っている。
 
 カップの色がちょうど あきちゃんのワンピースと同じ色で誂えたみたいだ。
 お茶を飲むあきちゃんの姿が 一枚の絵みたいで スゴく様になっている。
 もしかして あきちゃんに合わせて カップの色を選んだんだろうか?

 ……いや そんなワケはない。
 夏らしい爽やかな色を選んだら 偶然 重なっただけ。
 
 ってゆーか 年中 紺色の部活ジャージで過ごしてる あたしが気にしてないだけで みんな季節感とか考えて暮らしてるんだよね…。
 ホント がさつな彼氏って感じで 自分にゲンナリする。

 ティーカップを持ち上げて お茶の香りを嗅ぐ。
 あきちゃんのマネしてティーソーサーを持ち上げるのも忘れない。
 
 ミントみたいなツンと鼻に抜ける香り。
 カップに口をつける。
 思ったほど熱くは なく グッと飲める。
 
 ほんの少しピリッとするような感じはあるけど スッキリした後味で 熱いんだけど 清涼感があって なんだか爽やかな気分。

 
「あー おっしゃった通り スーッと汗が退く感じがして スゴく美味しいです」

 
 あきちゃんが 感想を言いながらカップを置く。
 あたしもマネして 頷きながら カップをテーブルへ。

 
「でしょ~? 暑い夏にあわせて七海がブレンドした特製なの。〈夏の夜の夢〉って名前つけたんだけど い~夢が見れるって評判なのよ? きっとお嬢さん達も 今夜は い~夢見れるわよ~」

 
 また 悪戯っぽく笑う。
 その笑い方は ちょうど小学生のイタズラ少女って雰囲気で いよいよ年齢が判らない。
 さっきから口にしてる『七海』ってゆーのも1人称っぽいんだけど……どーなんだろ?

 店の幅は うちのお好み焼き屋とたいして変わんない感じ。
 だけど 奥行きは ずっと長くて あたし達のいるところが 真ん中ぐらいだろうか…。
 まだまだ奥がありそうで家具やなんかが見えている。
 
 この坪庭の辺りは 壁の棚には 桜橋のお店と一緒で ビン詰めのハーブやハーブティーのパックが並べられている。
 針山みたいな水晶とか 不思議な色の石なんかもあって 占い師か魔法使いの部屋って感じ。
 
 ハーブティーの棚には『魔女の特製ハーブティー』ってポップもついてるし。
 
 確かに七海さんって魔女っぽいかも。
 年齢不詳な感じも魔女っぽいし…。

 
「お嬢さん達 アンティークとか お好きなのかしら?」

「あー そうですね…アタシは けっこう好きかもです。さっきも言ったかもですけど お金無いんで 見るだけなんですけど…」

 
 あたしには アンティークの趣味は 無い。
 さっきの値札見て それは確信に変わった。
 
 いくら可愛くても ブローチ1つにン十万とかアリエナさ過ぎる…。

 
「若いのに い~趣味じゃない。買わなくったっていいのよ~。眼を肥やすって大事なことなんだから。じゃあ 夏休みに この辺りの骨董屋巡り?」

「あー いえ そういう訳じゃなくて 本町で布買ったあと たまたま通りかかったんです」

「ふ~ん。 じゃ 運命のお導きってわけね。貴女たち 前にも桜橋のお店に来てくれてたでしょ? 不思議な雰囲気だったから 一度 お話したいなぁ~って 七海 思ってたのよね」

 
 不思議な雰囲気ってなんだろ?
 あきちゃんも疑問に思ったみたいで 七海さんに聞き返す。

 
「不思議って何がですか?」

「え~? 言っちゃっていいのかしら?」

「何なんですか? 勿体ぶらないでください」

 
 七海さんは あきちゃんの方をじっと見ながら 微笑む。
 あきちゃんの不思議な雰囲気ってなんだろ?
 
 制服姿のときとか 痴漢を寄せ付けない〈お嬢様オーラ〉ってゆーか〈威圧感〉みたいなのが出てる気がするときは あるけど…。

 
「てっきり男の子だとばっかり思ってたんだけど 女の子みたいな格好してるしさ…」

 
 げっ!?
 あきちゃん見てたくせに 標的は あたし!?
 
 桜橋のときは 学校帰りだったし 制服でスカートだったハズだけど……。
 まさか そんなこと思われてたなんて…。
 
 あきちゃんの顔も凍りついたような無表情。
 動揺を表に出さないようにしてるのが ありありと伝わってくる。
 
 それって要するに あきちゃんも似たようなこと考えてたってこと?
 自分でも思ってたことだけど 他人に指摘されると やっぱ ショックが デカい。
 思わず反論してしまう。

 
「あっ あの あたし こんなカッコしてて デカいし ガサツだし 間違われるのも仕方ないのかもしれないんですけど…… いっ 一応 女なんです」

 
 一瞬 訪れる 永遠にも似た長い時間。

  
 そして 七海さんの甲高い笑い声。
 えっ なんで!?
 また あたし やらかしたのか?

 
「誰も 貴女が 男の子っぽいなんて 思っちゃいないわよ……。アハハハ……。貴女 可愛いらしい感じのお姫様じゃない……あ~ 可笑しい」

 
 何がツボだったのか 七海さんは 大笑いを続ける…。

 
「でも 確かによく見たら 貴女 なかなか男前ね。アハハハ……美人で男前。い~じゃない。歌劇団の男役で通るわね」

 
 七海さんは 今度は あたしの顔をまじまじと見つめながら 可笑しくてたまらないといった様子。

 
「あ~ 可笑しい…。貴女たち いいコンビね。お似合いよ」

 
 ひとしきり笑ったあと 七海さんは ふと思い出したと言う風に切り出してきた。

 
「そう言えば さっき お嬢さん達 布 買ったって言ってたじゃない。七海もさ こないだ素敵な端切れ 手に入れたの。よかったら見てってよ」

 
 ここの商品なんて買えるわけもない。

 
「あの ホント お金無いんで 大丈夫です」

 
 慌てて断ったけど ま~ 見るだけ見てって~とか言って 立ち上がり テーブルの上のカップをお盆に載せて店の奥に消える。
 
 悪い人じゃ無さそうだけど すごいマイペース。
 さっきから 翻弄されまくり。

 しばらく 待っていると 透明なセロハンに包まれた端切れを何枚か持って帰ってきた。

 
「これなんだけど~」

 
 そう言って テーブルに並べられたのは 3枚のコットンレース。
 大きめの紋様で編まれたもの 中くらいの 小さめのと1枚ずつ。
 草木模様と渦巻き模様を組み合わせた初めて見る紋様だった。
 
 素朴だけど 惹き付けられる。
 エプロンドレスのポケットの縁に使ってみたいって思った。

 
「アイルランドの吉祥紋様らしいんだけど……あら? 気に入ったみたいね…」

 
 そう。
 確かに気に入った。
 
 稲荷町で見たコットンレースの端切れより……ずっと いい。
 
 ……でも さっきのコットンベルベットと一緒。
 いくら良いものでも 予算ってのがある。
 
 あたしが作るのは 学校の課題でカジュアルな服。
 お金 どんどん注ぎ込んで いい材料揃えればOKってもんじゃ無い。

 
「……あの。ホント素敵だなって思うんです。可愛いし なんか惹き付けられるってゆーか。だけど あたし ぜんぜん お金無いんで 申し訳ないんですけど…」

「あら? そうなの? 欲しいって貌してるわよ?」

「欲しいのは 欲しいです。けど ホントに お金無いんで…」

「いくら持ってるの?」

 
 ……そんなこと聞くのか。
 正直 コットンレースの予算は 千円ちょっと。
 この店で千円とか言ったら また おもいっきり笑われそうな気がする。
 
 ただ まあ 例によって 見栄 張ってもしょうがない。

 
「あの コットンレースに使えるお金って千円くらいしか無いんです。出せて1500円ってとこなんですけど…」

「じゃあ 1500円でいいわ」

「…えっ!? これって もっと高いものなんじゃないんですか?」

「だって 貴女 1500円で限界なんでしょ? じゃあ3枚で1500円。これ以上は ビタ一文負からないわよ?」
 

 そう言って あたしの眼を覗き込みながら悪戯っぽく笑う。

 
「さ~ 買うの? 買わないの?」

「えっと あの… 買う。買います」

「よかった! 商談成立ね。支払いは現金のみ。あと 包装も今回は 勘弁してよね」

 
 あたしが 財布からお金を出して手渡すと 七海さんは コットンレースを3枚渡してくれる。

 
「……あの。ホントに これ よかったんですか?」

「もちろんよ~。お金払ったでしょ?」

「そうじゃなくて スゴく安くしてもらったんで…」

「あら~ いいのよ。貴女 本当に 欲しがってるの顔見たらわかるし~。大事に使われてきたモノを 次に大事に使ってくれる人に届ける……骨董屋って そういう商売なのよ。目の前の品物がどんなモノか見極めて 欲しがってる人が どんな人なのか見極める。骨董屋は 目利きが命。七海の目利きじゃ 貴女は この端切れをきちっと使う子よ。違うかしら?」

 
 うわぁ…スゴいプレッシャーかけられちゃった。
 
 いや もちろん きっちり仕上げるつもりだけどさ。
 なんだか身体がジンと熱くなる。
 
 〈あなたなら できるはず〉って 燃えちゃうんだよね。
 セッターの件もそうだけど 期待に応えたいってゆーのは あたしの原動力だな…。
 ………。
 ……。
 …。

 

                        to be continued in “part Aki 7/23 pm 1:55”






 
 
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