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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 4/21 am 6:14

 
 あたしの名前は 紺野こんの ひとみ
 
 
 4月に高2なったばかりの16歳。
 県立藤浜工業高校の女子バレー部でレギュラーを目指して頑張ってる。
 
 去年の11月に春の高校バレー予選が終わって 去年の3年生が引退してもうすぐ6ヵ月。
 新チームになったけど スタメンは もちろん リザーブにもなかなか入れてもらえない…。
 
 3年の先輩達が スタメンなのは 当然って思えるけど 同じ2年生でスタメンやリザーブに定着しはじめてる子をみるとかなり焦る。
 夏の大会までに リザーブに定着して公式戦デビューする。
 それが4月の最初に決めた 今の目標だ。
 

 そのためにする具体的な行動は3つ。
 
 1つ目は 家で寝る前にするストレッチの時間を10分伸ばして20分にした。
 
 あたしは バレーボーラーとしては 取り得が無い。
 中学時代は 不動のスーパーエースとして 点取り屋だった あたしだけど 藤工みたいな強豪校だと あたしくらいのスパイク打てる子は いくらでもいる。
 身長は 174㎝。
 平均身長からいうと かなり高いけど バレーボーラーとしては 並。
 
 ジャンプ力。
 パワー。
 テクニック。
 
 どれも悪くないと思うけど 飛び抜けたものも無い。
 よく言えばオールラウンダーだけど 器用貧乏とも言える。
 しかもレシーブには 少しばかり苦手意識がある。
 中学時代 アタック練習ばかりやってたツケが回ってきてる感じだ…。

 ホント 自慢できるのは 故障が少ないことくらい。
 バレーボールのケガで なんといっても多いのが捻挫。
 だけど あたしは 捻挫なんてしたことがない。
 これには ちゃんと理由がある。
 あたしの関節は 他の子よりだいぶ柔らかいんだ。
 そしてそれは 小さい頃から毎日欠かさずストレッチを続けてきたから。

 柔軟性を伸ばす。
 イマイチな取り得でも無いよりは マシ。
 それに 今よりケガの不安が少なくなれば もっと深く踏み込んで もっと遠くにあるボールに手が届くようになるかもしれない。
 そうすれば レシーブ力も上がる。
 ボールに手が届けば レギュラーにも手が届く……ハズ。
 

 2つ目は 20分早く学校へ行くこと。
 
 朝練の前 少し早めに体育館に入る。
 そして 10分ほどストレッチをしてから トスやアタック レシーブのフォームをチェックする。
 あたしの家は 狭いから(しかもデカい子どもが3人もいる…)家で練習するとかなり邪魔になるし 仕方なく早起きして学校の体育館でって考えたんだけど 朝早い時間だから 普段はダンス部やら他の部活が使っている大きな鏡の前が使い放題なんだ。
 これが なかなか いい感じだ。
 ほんの僅かずつだけど ボール捌きが正確になってる気がする。

 そんなわけで 今朝も6時23分発の快速に乗るために あたしは 駅のホームに立っていた。
 列車を待つときもトレーニングのつもりで腹筋と背筋を意識して体幹を保つように心掛ける。
 ちょっとした隙間時間もレギュラーへの道につながっているのだ。
 

 で 3つ目の具体策なんだけど……。
 
 鞄から手鏡を取り出し前髪を確かめる。
 1つ目 2つ目の具体策は自分でも気に入ってるんだけど……ねぇ。
 3つ目は やっぱ やり過ぎたよねぇ…。
 
 ……そう。
 3つ目の具体策は バレーに全力で集中する。
 恋なんてしてるヒマは 無い。
 長い髪は 時間のムダ。
 バッサリ切る。
 
 ……だったんだけど…。

 
 列車の時刻が近づいてきてホームには 人が増えてきた。
 髪の長い他校の女子高生が急ぎ足でやってきて あたしの後ろの列に並ぶ。

 長い髪…。

 手鏡を見直す。
 手鏡の中の前髪は あまりに短い。
 右手で少しいじってみるけど セットでどうこうできるレベルじゃない…。
 そして 後ろ髪は さらに絶望的に短い…。
 もちろん ベリーショートでも可愛い娘は いっぱいいる。
 でも そういう娘は 可愛らしい女の子っぽい顔立ちをしてるんだ…。
 パッチリした目の 可愛い娘がやるからボーイッシュってゆーんだよね…。
 
 あたしみたいなデカくて一重の女がやると ただのボーイだ…。
 くっきりはっきりした気の強そうな一重瞼。
 
 ……いや 実際 気は 強いけどさ。
 そしてこれまた くっきりはっきりした黒い眉…。
 だから 美容室のお姉さんは しつこいぐらい『ほんとにいいの?』って聞いてきたんだ…。
 
 これじゃマジに男子にしか見えないよ……。
 後ろの女の子もあたしのスカート見て『なんで男子がスカート?』とか思ってるんじゃなかろーか?
 げんなりした気分で もう一度 前髪を整える。

 
「あっ」

 
 女の子の小さな叫び声が聞こえた。
 なんだろ?
 後ろを振り向いてみる。
 後ろの女の子が出した声っぽかったけど 彼女は 自分が声を出したことにも気づかない様子で スマホ操作を続けている…。
 なんだったんだろ?
 彼女は この時間 大抵一緒になる女子高生で そういえば昨日も見かけた気がする。
 
 今まで 気にとめてなかったんだけど 近くで見ると その娘は ものスゴい美少女だった。
 絹糸みたいに細いツヤのある長い髪を二つ括りにして 左右に垂らしている。
 いわゆるツインテールってやつだ。
 本当に可愛いと自他共に認めた娘にしか許されない髪型だ。
 因みにあたしは 小学校低学年で諦めた。
 当時からデカかったんだ…。
 ……でも この娘は もちろん許される感じ 。
 ってゆーか あたしが許す。

 髪の色は なんていうんだろうか。
 髪の繊維が細過ぎて自然に栗色がかって見える。
 天使の髪みたいだった。
 スゴくツヤがあって柔らかそう…。
 思わず撫でたくなる。
 その美しい髪が 春の朝日を受けて黄金色に輝いていた。
 

 ホントに天使みたい…。

 
 美しいのは 髪だけじゃ無かった。
 ぱっちりとした二重瞼の大きな目は 少したれ気味で スゴく優しそう。
 優しそうな顔で性格悪いってパターンかもしれないけど それは それでカワイイかも。
 瞳は 鳶色ってゆーのかな?
 明るい茶色をしていた。
 真っ白な肌に薔薇色の頬。
 小ぶりで桜色をした唇。
 
 なんだろ?
 ハーフじゃないな…。
 クォーターかな?
 帰国子女?
 なんとなく外人っぽい雰囲気が漂っていた。

 身長は チームのリベロ 田村先輩より まだ だいぶ小さい。
 150㎝ 無いかも。
 華奢とか可憐とかいう言葉は こういう娘のためにあるんだな…。
 思わず守ってあげたくなる。
 そのくせ 小顔でスタイルがいいから スラッとして見える。
 174㎝のあたしと並んで立ってると まるで彼氏と彼女だ…。

 黒いボレロタイプのブレザーに 真っ白の丸襟のブラウス。
 赤い紐タイに これまた黒のジャンパースカート。
 光岡中央にある超有名なお嬢様学校 聖心館せいしんかんの制服だ。
 スカート丈は しっかり膝まで。
 2つ折りのクルーソックスに黒い革靴。
 ちょっと昔風のデザインだけど 絵から抜け出てきたような彼女には スゴくよく似合ってた…。

 
 いつまでも お人形みたいに可愛い 聖心の女の子を見てたかったけど アナウンスが入って列車がやってきた。
 この時間の快速列車は街の中心部に向かう通勤客でかなり混み合う。
 約25分間 我慢タイムだ。
 これもレギュラー獲得のための修行と思って頑張ろう…。
 身を捩じ入れるようにして列車に乗り込む。
 ………。
 ……。
 …。


                          to be continued in “part Aki 4/21 am 6:23”







 
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