第六一話 長崎
弥勒、巳代、渋川の三人は、五条や鷲頭に連れられ、長崎へ観光へ赴く。
一週間後の土曜日、弥勒ら五人は長崎へ向けて出発していた。弥勒、巳代、渋川は同じ車両に乗っていた。
弥勒らは、大友の正体に近づいているという実感があった。だからこそ、警戒を強めた。真相に近づけば近づく程、敵にそれを悟られた時、命を狙われる可能性が高くなる。
それは、福岡県知事や小野佳奈美福岡県警察本部長の様にである。
「俺達の家を出発した車両は、運転手のみで誰も乗せていない。皇家と有馬家からの車は、囮だ。更に警備用車両をわざとらしく数台並べて編隊を組ませている。襲われた際の生存率を高める風にな。渋川家も同様に数台の車を走らせているが、俺達は渋川家の一つの車両にお邪魔させてもらってる訳だ。一つに固まってる訳が無いという、敵の思考の裏を突くんだ」
「それくらいしないと危ないよね、巳代。でも僕達はまだ一度も、襲われたことは無い……。まるで……」
「思い込みで奇怪な行動をしている……統合失調症の様な感じだといいたいのか。傍から見ればそうだろうな。怪異だ惟神だ、陰謀論だと……だがそれは本当のことだ。備えあれば憂いなしってやつだな」
巳代はそういって外を見た。長崎を目指すあいだ、渋川は退屈そうだった。
「ひたすら、森と山、畑だね」
「仕方ないよ渋川さん。長崎は都会じゃないから、そこに至る道も田舎になってしまうよ」
「日向と余り変わらないなんて」
嘆く渋川を巳代は笑い、そして「シティガールに成りきれてないな。シティガールなら田舎に憧れるものだ」といった。
三人を乗せた車両を含む全ての車が高速道路を抜け、長崎の市道に入った。正面と左右に伸びる道のいずれも、坂道であった。
「何も無い景色でも、これで地元とは違う田舎だってことが分かるな、渋川」
「観光気分がなくなって丁度いいわ。役目を果たしましょう、有馬君」
三人は目的地に到着した。そこには、五条の友人である厚東陽菜(ことうひな)がいた。彼女は長崎出身らしく、観光の案内をしてくれるらしかった。
「弥勒君とは会ったことがあるよ。同じクラスだし」
「厚東さんって長崎出身だったんだね。でも厚東氏って……山口県に拠点があるんじゃ?」
「まぁ、本流はそうなんじゃないかな。でも私は分家も分家だし……直系に著名人も居ないからね。なんで惟神学園に在籍してるのか分からないくらいには、末端の貴族家系よ」
「そっか……一族に著名人が居ても、家系が遠のいて血が薄まれば、その分財産も誉(ほまれ)も減っていくんだ。それは……僕なら耐えられないな」
そういって弥勒は、自分が体たらくになれば、誉ある皇の家名に傷がつくと考えた。それは皇室(こうしつ)や帝にも泥を塗ることになる。弥勒は身が竦(すく)む思いがした。
「ま、私はそれで良かったけどねぇ。自由は大切だよ。否が応でも背負わなくちゃいけない重荷と、選択した結果自ら背負う重荷じゃ意味が違うじゃない?」
そういって、厚東は笑った。
彼女もまた五条とは系統が異なる、美人だった。弥勒には、彼女らの違いをどう形容すべきか、分からなかった。
だが巳代にはその違いがハッキリと分かっていた。五条は万人受けする別嬪さんタイプで、厚東は万人受けするが一部の人からは熱烈なファンが生まれそうな、圧倒的可愛い系だった。
小柄で、小さな顔。しかしとにかく大きく常に潤んだ瞳は、まるで幼子の様な可愛らしさを残していた。しかしただの童顔ではなく、黒く長いまつ毛や真っ赤で色っぽい唇からは、ティーンエイジャーの若々しさと美しさが、醸し出されていた。
「有馬君だっけ。前にどこかで会った?」
細くアーチの様になっている眉毛を額に寄せながら、厚東は尋ねた。
それに対し巳代は、切長の目を細くして微笑み、「剣道の大会で二年前にな。皆可愛い奴がいるって騒いでたのが、懐かしくってな」といった。
弥勒らは、大友の正体に近づいているという実感があった。だからこそ、警戒を強めた。真相に近づけば近づく程、敵にそれを悟られた時、命を狙われる可能性が高くなる。
それは、福岡県知事や小野佳奈美福岡県警察本部長の様にである。
「俺達の家を出発した車両は、運転手のみで誰も乗せていない。皇家と有馬家からの車は、囮だ。更に警備用車両をわざとらしく数台並べて編隊を組ませている。襲われた際の生存率を高める風にな。渋川家も同様に数台の車を走らせているが、俺達は渋川家の一つの車両にお邪魔させてもらってる訳だ。一つに固まってる訳が無いという、敵の思考の裏を突くんだ」
「それくらいしないと危ないよね、巳代。でも僕達はまだ一度も、襲われたことは無い……。まるで……」
「思い込みで奇怪な行動をしている……統合失調症の様な感じだといいたいのか。傍から見ればそうだろうな。怪異だ惟神だ、陰謀論だと……だがそれは本当のことだ。備えあれば憂いなしってやつだな」
巳代はそういって外を見た。長崎を目指すあいだ、渋川は退屈そうだった。
「ひたすら、森と山、畑だね」
「仕方ないよ渋川さん。長崎は都会じゃないから、そこに至る道も田舎になってしまうよ」
「日向と余り変わらないなんて」
嘆く渋川を巳代は笑い、そして「シティガールに成りきれてないな。シティガールなら田舎に憧れるものだ」といった。
三人を乗せた車両を含む全ての車が高速道路を抜け、長崎の市道に入った。正面と左右に伸びる道のいずれも、坂道であった。
「何も無い景色でも、これで地元とは違う田舎だってことが分かるな、渋川」
「観光気分がなくなって丁度いいわ。役目を果たしましょう、有馬君」
三人は目的地に到着した。そこには、五条の友人である厚東陽菜(ことうひな)がいた。彼女は長崎出身らしく、観光の案内をしてくれるらしかった。
「弥勒君とは会ったことがあるよ。同じクラスだし」
「厚東さんって長崎出身だったんだね。でも厚東氏って……山口県に拠点があるんじゃ?」
「まぁ、本流はそうなんじゃないかな。でも私は分家も分家だし……直系に著名人も居ないからね。なんで惟神学園に在籍してるのか分からないくらいには、末端の貴族家系よ」
「そっか……一族に著名人が居ても、家系が遠のいて血が薄まれば、その分財産も誉(ほまれ)も減っていくんだ。それは……僕なら耐えられないな」
そういって弥勒は、自分が体たらくになれば、誉ある皇の家名に傷がつくと考えた。それは皇室(こうしつ)や帝にも泥を塗ることになる。弥勒は身が竦(すく)む思いがした。
「ま、私はそれで良かったけどねぇ。自由は大切だよ。否が応でも背負わなくちゃいけない重荷と、選択した結果自ら背負う重荷じゃ意味が違うじゃない?」
そういって、厚東は笑った。
彼女もまた五条とは系統が異なる、美人だった。弥勒には、彼女らの違いをどう形容すべきか、分からなかった。
だが巳代にはその違いがハッキリと分かっていた。五条は万人受けする別嬪さんタイプで、厚東は万人受けするが一部の人からは熱烈なファンが生まれそうな、圧倒的可愛い系だった。
小柄で、小さな顔。しかしとにかく大きく常に潤んだ瞳は、まるで幼子の様な可愛らしさを残していた。しかしただの童顔ではなく、黒く長いまつ毛や真っ赤で色っぽい唇からは、ティーンエイジャーの若々しさと美しさが、醸し出されていた。
「有馬君だっけ。前にどこかで会った?」
細くアーチの様になっている眉毛を額に寄せながら、厚東は尋ねた。
それに対し巳代は、切長の目を細くして微笑み、「剣道の大会で二年前にな。皆可愛い奴がいるって騒いでたのが、懐かしくってな」といった。