第五四話 一瞬の刃
店内へ入ってきた男達に対し、周布は先手必勝で動く。
「誰か……私に包丁を……!」
周布(すふ)の言葉に反応したのは巳代だった。
「手伝いますよ。俺は有馬です。皇(すめらぎ)の守り人です」
「有馬秘書のご子息か……厨房の奥の木箱にいいものが入っている。使いなさい。弥勒君、君は女の子達と奥で伏せて」
巳代は周布(すふ)へ中華包丁を渡し、自らは木箱に入っていた刃物を取った。それは、刀だった。巳代は刀が奥へ隠されていたことから、これが惟神の社会から離脱して生きるということなのだと、察した。当に還俗だ。神通力という秘密を共有する、村よりも小さな社会から逃れて余所者になろうとする背教者に対する制裁に、周布(すふ)が常に警戒してきたのだと悟った。
周布(すふ)は静かに鍵を開けた。閉めたままであれば、外から発砲され、流れ弾で弥勒達が怪我を負う可能性があるからだ。
扉が静かに開く。ライトが店内に入り、スーツ姿の男が数人、ゆっくりと足を進め侵入してきた。
「不用心な店だな……」
「潜んでるかもしれん。気を付けるんだ」
周布(すふ)は、警戒する男らの目線が自分に向く前に、包丁を男の体に突き刺した。
もう一人の男が反射的に周布(すふ)を見て、銃口を向けた。その直後、周布(すふ)の背後に隠れていた巳代が飛び出し、逆袈裟斬りで銃を弾いた。
巳代は男を斬るべきか迷った。状況が理解出来ず、加害することを躊躇したのだ。
しかし倒れた男が胸ポケットから小さなリボルバーを取り出し、巳代へ向けた。
巳代は剣を振ろうにも、間に合いそうになかった。「殺される……!」と圧倒的なストレスを感じた瞬間、背後にいた周布(すふ)の凄まじい膂力で巳代は吹き飛ばされ、周布(すふ)は神速で包丁を男へ突き刺した。
男は、即死だった。
「躊躇うな。正当防衛だ」
事態が沈静化し、弥勒らは周布(すふ)の「もう安全だ」という一言で顔を出した。
苦悶の表情のまま不自然な姿勢のまま倒れる男がいた。その隣には、流血しながら悶え苦しむ男が、虫の息になりながらも懸命に這って逃げようとしていた。
数十秒前に、巳代と周布(すふ)から放たれた強いストレスを感じ取っていた弥勒は、その理由を察した。
「どうするんですか……周布(すふ)さん」
「パトカーの音も聞こえだしてきたし、事情を話すさ。しかしこいつ……コルトエージェントとはな。以前もこの銃で狙われたことがある。こいつら山内組だ」
「周布(すふ)さんを狙うって……それはつまり、惟神を離れたから……ですか? それは……えっとつまり……」
「違うだろうな。身内が私をここまで付け狙う訳があるまい。わざわざ暴力団なんて用いず、怪異で殺しにくる筈だ」
「では一体なに者が……。もしかして……!」
弥勒の脳裏に、大友修造の名前が浮かんだ。腑に落ちる理由などないが、そう思ってしまった。
「心当たりがあるのか。だが詳しいことは後日聞こう、まずはこっちの相手だ」
周布(すふ)はそういって、扉の向こうの警官を迎える為に明かりを点けた。
周布(すふ)の言葉に反応したのは巳代だった。
「手伝いますよ。俺は有馬です。皇(すめらぎ)の守り人です」
「有馬秘書のご子息か……厨房の奥の木箱にいいものが入っている。使いなさい。弥勒君、君は女の子達と奥で伏せて」
巳代は周布(すふ)へ中華包丁を渡し、自らは木箱に入っていた刃物を取った。それは、刀だった。巳代は刀が奥へ隠されていたことから、これが惟神の社会から離脱して生きるということなのだと、察した。当に還俗だ。神通力という秘密を共有する、村よりも小さな社会から逃れて余所者になろうとする背教者に対する制裁に、周布(すふ)が常に警戒してきたのだと悟った。
周布(すふ)は静かに鍵を開けた。閉めたままであれば、外から発砲され、流れ弾で弥勒達が怪我を負う可能性があるからだ。
扉が静かに開く。ライトが店内に入り、スーツ姿の男が数人、ゆっくりと足を進め侵入してきた。
「不用心な店だな……」
「潜んでるかもしれん。気を付けるんだ」
周布(すふ)は、警戒する男らの目線が自分に向く前に、包丁を男の体に突き刺した。
もう一人の男が反射的に周布(すふ)を見て、銃口を向けた。その直後、周布(すふ)の背後に隠れていた巳代が飛び出し、逆袈裟斬りで銃を弾いた。
巳代は男を斬るべきか迷った。状況が理解出来ず、加害することを躊躇したのだ。
しかし倒れた男が胸ポケットから小さなリボルバーを取り出し、巳代へ向けた。
巳代は剣を振ろうにも、間に合いそうになかった。「殺される……!」と圧倒的なストレスを感じた瞬間、背後にいた周布(すふ)の凄まじい膂力で巳代は吹き飛ばされ、周布(すふ)は神速で包丁を男へ突き刺した。
男は、即死だった。
「躊躇うな。正当防衛だ」
事態が沈静化し、弥勒らは周布(すふ)の「もう安全だ」という一言で顔を出した。
苦悶の表情のまま不自然な姿勢のまま倒れる男がいた。その隣には、流血しながら悶え苦しむ男が、虫の息になりながらも懸命に這って逃げようとしていた。
数十秒前に、巳代と周布(すふ)から放たれた強いストレスを感じ取っていた弥勒は、その理由を察した。
「どうするんですか……周布(すふ)さん」
「パトカーの音も聞こえだしてきたし、事情を話すさ。しかしこいつ……コルトエージェントとはな。以前もこの銃で狙われたことがある。こいつら山内組だ」
「周布(すふ)さんを狙うって……それはつまり、惟神を離れたから……ですか? それは……えっとつまり……」
「違うだろうな。身内が私をここまで付け狙う訳があるまい。わざわざ暴力団なんて用いず、怪異で殺しにくる筈だ」
「では一体なに者が……。もしかして……!」
弥勒の脳裏に、大友修造の名前が浮かんだ。腑に落ちる理由などないが、そう思ってしまった。
「心当たりがあるのか。だが詳しいことは後日聞こう、まずはこっちの相手だ」
周布(すふ)はそういって、扉の向こうの警官を迎える為に明かりを点けた。
逆袈裟斬り……右下から左上に剣を振り上げる斬り方。