第52話 赤熊部隊
《おい見たか? 高橋が生きてたぞ!》
必殺技『血に染められし闇の一族の知性と残虐と絶望に包まれた華麗なる魔手』によって100を超える米軍の輝甲兵の偏向フィルターを無効化させる事に成功させた俺達は、現在次の命令待ちの状態である。
そこでなんか急に割り込んできた『幽炉同盟』を名乗る奴らの映像、そのスポークスマンを自らやっているのかやらされているのか判然としないが、あの声と眼鏡は紛れも無く縞原重工の高橋だった。
物語が終盤に向けてシリアス路線に固まっていく中、ボケ役が俺1人では回らないと懸念していた最中に、死んだと思われていたもう1人のボケ担当が存命していた、という事実は俺を大いに奮い立たせる物だった。
大体『俺』視点っていつぶりよ? 前にも言ったけど主役は『俺』な。俺ちゃんな?! 俺無くして本作品は回らないのだ、という事をこの機会に周知しておきたい。
「…ええ、驚いたわ。基地の虚空からどうやって生き延びたのかしら? でも何か状況的には敵になっているみたいだけど…」
鈴代ちゃんの声に不信感が籠もる。βの人が亡くなってショックを受けているかと思われた鈴代ちゃんだが、取り乱す事なく現状を認識できているようだ。
香奈さんの時もそうだったけど、目の前で仲間が死んでも鈴代ちゃんは立ち止まらずに進み続ける。
まぁそれが軍人という物なのだろうし、そういうメンタル的な訓練も受けているのだろう。
きっと戦闘中は心を殺しているんだろうなぁ、と思う。そしてそれはとても辛い事なのだとも思う。本当に強い娘だ……。
「状況から考えて、『鎌付き』が乗っ取る以前からシャトルに乗り込んでいたんでしょうね。でもシマノビッチ博士って誰かしら…?」
眉をひそめて考え込む鈴代ちゃん、そういう時は……。
《俺に任せろ! …検索結果としては『ソ大連の脳科学者。理由は書いてないけど当局に逮捕されたが後に逃亡、米連に亡命し幽炉の雛形を作り出した』だってさ。凄えな、幽炉の開発者らしいぞ。あれ? でもこれ60年近く前の記録だな…?》
「同姓同名の別の人かも知れないけど。もし本当にその人だとしたらいつ『はまゆり』と合流したのかしら…? 年齢だって100歳を越えているでしょうに… まさか…?!」
《…『鎌付き』の中の人、って可能性はあるな。何にしても次の目的地がはっきりした訳だ。…しかし高橋の眼鏡からの照り返しがやたらとウザったいな。あいつらしい嫌がらせと言えなくも無いが…》
「でも待って、スピーチしている彼女の首はほとんど動いてないわ。ひょっとしてあの光に何か意味があるのかも…」
鈴代ちゃんが何か頭良いキャラを急に演じ始めた。さすがにそこまでは深い設定は無いわ。だって高橋アホだし。勉強できるみたいだけどアホだし。
…と言おうとしたところで違和感を感じて、件の映像を確認がてら再度見直す。するとあいつの眼鏡からの光が、一定の周期で明滅している事が判明したのだ。
・・・、ーーー、・・・と。むむ…? これってまさか……。
「モールス信号だわ! 『S、O、S』って言ってるのよ。やっぱり高橋大尉は無理やりやらされてたのね…」
《えー、マジか。ただの偶然って事も無くない…?》
「だとしても今一番『幽炉同盟』とやらの情報を持っているのは彼女だわ。放ってはおけないでしょ?」
…まぁそうだな。何にせよ『鎌付き』絡みの事件なら俺達が適任だし、俺達の手で片付けなければならない。
《よし、そうと決まればこんな所で足踏みしてられないな》
「そうね、まずは米ソの包囲網を突破して『幽炉同盟』に乗り込むわよ」
問題はその突破の方法なんだよなぁ……。
まず米軍の輝甲兵部隊は俺が無力化した。天使が受け持った特機はβさんの犠牲はあったものの撃破に成功、と思いきやその奥に同じ化け物が更に8体いたというホラーゲーム並みの絶望展開だった。
国境警備艦隊のアーカムも沈められた。ホラーゲームだとしたら名前が良くなかったんだろうと思う。
それでも特機の軍団に向かって飛んでいった天使。馬鹿なの? マゾなの? と思ったが、『すざく』への砲撃を阻止する為に1人で撹乱戦術を取っている。あの胆力はちょっと真似出来ない。ていうか真似をしようという気すら起こらない。
天使を助けに行った方が良いんじゃね? と鈴代ちゃんに言おうとした瞬間に、幽炉開放らしきエフェクトを纏った『すざく』が、文字通り米艦隊を『飛び越えて』最奥の旗艦と思しき大型戦艦に取り付いた。
「うそ…」
固まる鈴代ちゃん。小隊の皆もほぼ同様だ。俺だってそうだ。そりゃ固まるわ。
そしてアホの子よろしく固まっている俺達に長谷川さんから新たな命令が下った。
「部隊各員へ。こちらは何とか話し合いでケリが付きそうだ。鈴代隊はグラコワ隊の支援に向かえ。満身創痍で飛ぶのがやっとの撃墜王様はさっさと『すざく』に帰って修理と補給を受けやがれ!」
え? 『すざく』と『マサチューセッツ』、戦艦同士が並んでくっついて、如何にも座礁してます、って感じなんだけど話し合いが成立したの? してんの? するものなの?
指令に対して「チッ」と舌打ちをしながらも、天使は素直に『すざく』に帰投して行く。見れば天使の30式は左腕と右足を欠損していた。
特機の軍団を相手に『それだけ』で済んでいるのが天使の天使たる所以だな。
そして俺の疑問を他所に、鈴代隊はソ大連方面に転向し加速する。既にグラコロ隊は混戦状態になっていて、多勢に無勢で押し切られそうだ。グラコロ大尉は大声で『自分たちは味方だ!』と通信を送っているが、ソ大連艦隊の反応も米軍同様に梨の礫だった。
かと言ってソ大連所属のグラコロ隊が大規模な反撃をする訳にもいかない。彼等は現役のソ大連軍人なのだから、味方に銃を向けたら問答無用で反逆者だ。
俺達『すざく』の部隊も形式上はソ大連の義勇兵なのだから、ソ大連艦隊とやり合うのは当然ながらダメだ。
しかし、無抵抗のまま大勢から撃たれる恐怖はどれほどの物だろう? 呼びかけも懇願も全て無視されて、かつての仲間から殺意を向けられる……。
《なぁ鈴代ちゃん、次の相手はロシア軍だ。あいつらに見えているグラコロ隊が『虫』か『輝甲兵』なのかで大きく対応が変わってくるぜ…?》
「そうね… 米軍みたいにフィルター解除だけで大人しくなってくれる事を祈るわ」
鈴代ちゃんの額に冷や汗が浮いている。ここで殲滅戦になったら寡兵の俺達には勝ち目は無い。
まずは俺は俺の仕事をする。その後でまだ面倒事が残るようなら、その時は鈴代様に丸投げ… お任せしてしまおう。
「αより各機へ。αは先刻同様ソ大連部隊へハッキングを仕掛けます。その間の援護を頼みます!」
鈴代ちゃんの指令に4つの「了解!」の声が返ってくる。みんな気を付けてな、もうこれ以上は減らないで欲しいものだ。
《よっしゃ、行きますよ! くらえ俺の必殺技『血に染め(後略)』!!》
「ねぇ、それ言わないとダメなの…?」
…外野がうるさいが気にしてはいけない。
グラコロ隊と戦闘を始めているソ大連部隊に突入し、ハッキングを仕掛けていく。経験を積んでレベルの上がった俺は、既に一度に10機を3秒で料理できる様になっていた。アーカム隊のハッキングに掛かった時間と手間を考えると20倍以上の効率向上を遂げている。俺ちゃんやはり天才。
グラコロ隊は既にこの戦いで2機が撃墜されていた。俺達の到着がもう少し早ければ救えた命があったかも知れないが今は気にしていたらダメだ。今はとにかくご冥福を祈りたい。
「テレーザさん、後は私達が引き継ぎます。『すざく』に帰還して修理と補給を受けて下さい!」
「…助かるわミユキ。アンタたち、『すざく』に戻りな。殿は私が務めるから」
グラコロ姐さんが男前でカッコイイ。援護の為にグラコロ姐さんを襲う敵を優先的にハッキングしていくと、幸運な事にハッキングの手応えはあった。
ソ大連パイロットらにしてみれば目の前の虫が、東亜における零式的な立ち位置に居る特機の『鎌付き』が突如目の前に現れるのだから、そりゃ目玉が飛び出るほど驚いただろうな。愉快愉快。
だがしかし、これはつまりソ大連の偉いさん連中の考えは、グラコロ隊も虫に見える様に手を加えて『すざく』ごと俺達を消そうとしていたって事だ。
…これは何を意味するんだ? グラコロ姐さんはソ大連のエースじゃないのか? マジで『秘密を知った者は消せ』的な采配なのか? その秘密ってのは『幽炉の中に人が居る』なのか『他国の輝甲兵を虫に見せて、お互い戦わせていた』なのか、はたまたその両方なのか、或いは他にも何か彼らの機嫌を損ねる事をしでかしていたのか…?
だとしたら俺達は、今のままだと今後どこに行っても狙われる事になるんじゃないのか? このまま補給らしい補給も受けられずに、ジリ貧になって『すざく』ごと沈められて。
たとえ鈴代ちゃんが見つめ続けてくれても終わりの無いディフェンスは嫌だぞ…?
暗鬱たる気持ちになる。俺達は『鎌付き』を追って倒す。で、その後は…?
…………。
…よし、今はよそう。目の前の状況をひとつひとつ消化していくしか出来る事は無い。俺達には二手先三手先を予想する事は出来ても、実際に手を打てる程にはその手が回らないのだからな。
「…ちっ、親衛隊が来たか… 予定変更、私も残って戦うよ!」
グラコロ姐さんが急に立ち止まり反転する。姐さんの見据える先には新しく現れたソ大連の輝甲兵部隊。
数は24、全て30式だ。何より特徴的なのは、その部隊だけが一様に全身を紅く塗装していた事だ。部隊の奥に円盤頭の丙型が見える。ソ大連にも丙型あったんだな。
「あいつらはソ大連首都防衛の『赤熊部隊』よ。個々の戦力よりもその連携と奇策に気を付けて」
グラコロ姐さんの声の調子から一筋縄ではいかない相手と推し量れる。
割と雑魚っぽかった東亜の近衛隊とは違って、本当に歴戦のエリート部隊なのだろう。
加えて今回は天使も修理中で出てこれない。少なくとも今から5分かそこらで出てくるのは絶望的だ。
「おいおい、テレーザが残るなら俺達だけ帰る訳にもいかねぇよ」
グラコロ姐さんの侠気に当てられたのか、グラコロ隊が反転しようとするが、姐さんの
「命令違反はこの場で射殺するよ? ボルクとタチアナの仲間になりたいのか?!」
という鶴の一声で全機が再び反転、帰投して行った。名前の出た2人は先刻戦死した2人なのだろう。
…何だろう? 俺的に凄く嫌な予感のする敵だ。それこそ天使の戦った『コロッサス』とか言うデカブツよりも危険な匂いのする連中に思えた……。
必殺技『血に染められし闇の一族の知性と残虐と絶望に包まれた華麗なる魔手』によって100を超える米軍の輝甲兵の偏向フィルターを無効化させる事に成功させた俺達は、現在次の命令待ちの状態である。
そこでなんか急に割り込んできた『幽炉同盟』を名乗る奴らの映像、そのスポークスマンを自らやっているのかやらされているのか判然としないが、あの声と眼鏡は紛れも無く縞原重工の高橋だった。
物語が終盤に向けてシリアス路線に固まっていく中、ボケ役が俺1人では回らないと懸念していた最中に、死んだと思われていたもう1人のボケ担当が存命していた、という事実は俺を大いに奮い立たせる物だった。
大体『俺』視点っていつぶりよ? 前にも言ったけど主役は『俺』な。俺ちゃんな?! 俺無くして本作品は回らないのだ、という事をこの機会に周知しておきたい。
「…ええ、驚いたわ。基地の虚空からどうやって生き延びたのかしら? でも何か状況的には敵になっているみたいだけど…」
鈴代ちゃんの声に不信感が籠もる。βの人が亡くなってショックを受けているかと思われた鈴代ちゃんだが、取り乱す事なく現状を認識できているようだ。
香奈さんの時もそうだったけど、目の前で仲間が死んでも鈴代ちゃんは立ち止まらずに進み続ける。
まぁそれが軍人という物なのだろうし、そういうメンタル的な訓練も受けているのだろう。
きっと戦闘中は心を殺しているんだろうなぁ、と思う。そしてそれはとても辛い事なのだとも思う。本当に強い娘だ……。
「状況から考えて、『鎌付き』が乗っ取る以前からシャトルに乗り込んでいたんでしょうね。でもシマノビッチ博士って誰かしら…?」
眉をひそめて考え込む鈴代ちゃん、そういう時は……。
《俺に任せろ! …検索結果としては『ソ大連の脳科学者。理由は書いてないけど当局に逮捕されたが後に逃亡、米連に亡命し幽炉の雛形を作り出した』だってさ。凄えな、幽炉の開発者らしいぞ。あれ? でもこれ60年近く前の記録だな…?》
「同姓同名の別の人かも知れないけど。もし本当にその人だとしたらいつ『はまゆり』と合流したのかしら…? 年齢だって100歳を越えているでしょうに… まさか…?!」
《…『鎌付き』の中の人、って可能性はあるな。何にしても次の目的地がはっきりした訳だ。…しかし高橋の眼鏡からの照り返しがやたらとウザったいな。あいつらしい嫌がらせと言えなくも無いが…》
「でも待って、スピーチしている彼女の首はほとんど動いてないわ。ひょっとしてあの光に何か意味があるのかも…」
鈴代ちゃんが何か頭良いキャラを急に演じ始めた。さすがにそこまでは深い設定は無いわ。だって高橋アホだし。勉強できるみたいだけどアホだし。
…と言おうとしたところで違和感を感じて、件の映像を確認がてら再度見直す。するとあいつの眼鏡からの光が、一定の周期で明滅している事が判明したのだ。
・・・、ーーー、・・・と。むむ…? これってまさか……。
「モールス信号だわ! 『S、O、S』って言ってるのよ。やっぱり高橋大尉は無理やりやらされてたのね…」
《えー、マジか。ただの偶然って事も無くない…?》
「だとしても今一番『幽炉同盟』とやらの情報を持っているのは彼女だわ。放ってはおけないでしょ?」
…まぁそうだな。何にせよ『鎌付き』絡みの事件なら俺達が適任だし、俺達の手で片付けなければならない。
《よし、そうと決まればこんな所で足踏みしてられないな》
「そうね、まずは米ソの包囲網を突破して『幽炉同盟』に乗り込むわよ」
問題はその突破の方法なんだよなぁ……。
まず米軍の輝甲兵部隊は俺が無力化した。天使が受け持った特機はβさんの犠牲はあったものの撃破に成功、と思いきやその奥に同じ化け物が更に8体いたというホラーゲーム並みの絶望展開だった。
国境警備艦隊のアーカムも沈められた。ホラーゲームだとしたら名前が良くなかったんだろうと思う。
それでも特機の軍団に向かって飛んでいった天使。馬鹿なの? マゾなの? と思ったが、『すざく』への砲撃を阻止する為に1人で撹乱戦術を取っている。あの胆力はちょっと真似出来ない。ていうか真似をしようという気すら起こらない。
天使を助けに行った方が良いんじゃね? と鈴代ちゃんに言おうとした瞬間に、幽炉開放らしきエフェクトを纏った『すざく』が、文字通り米艦隊を『飛び越えて』最奥の旗艦と思しき大型戦艦に取り付いた。
「うそ…」
固まる鈴代ちゃん。小隊の皆もほぼ同様だ。俺だってそうだ。そりゃ固まるわ。
そしてアホの子よろしく固まっている俺達に長谷川さんから新たな命令が下った。
「部隊各員へ。こちらは何とか話し合いでケリが付きそうだ。鈴代隊はグラコワ隊の支援に向かえ。満身創痍で飛ぶのがやっとの撃墜王様はさっさと『すざく』に帰って修理と補給を受けやがれ!」
え? 『すざく』と『マサチューセッツ』、戦艦同士が並んでくっついて、如何にも座礁してます、って感じなんだけど話し合いが成立したの? してんの? するものなの?
指令に対して「チッ」と舌打ちをしながらも、天使は素直に『すざく』に帰投して行く。見れば天使の30式は左腕と右足を欠損していた。
特機の軍団を相手に『それだけ』で済んでいるのが天使の天使たる所以だな。
そして俺の疑問を他所に、鈴代隊はソ大連方面に転向し加速する。既にグラコロ隊は混戦状態になっていて、多勢に無勢で押し切られそうだ。グラコロ大尉は大声で『自分たちは味方だ!』と通信を送っているが、ソ大連艦隊の反応も米軍同様に梨の礫だった。
かと言ってソ大連所属のグラコロ隊が大規模な反撃をする訳にもいかない。彼等は現役のソ大連軍人なのだから、味方に銃を向けたら問答無用で反逆者だ。
俺達『すざく』の部隊も形式上はソ大連の義勇兵なのだから、ソ大連艦隊とやり合うのは当然ながらダメだ。
しかし、無抵抗のまま大勢から撃たれる恐怖はどれほどの物だろう? 呼びかけも懇願も全て無視されて、かつての仲間から殺意を向けられる……。
《なぁ鈴代ちゃん、次の相手はロシア軍だ。あいつらに見えているグラコロ隊が『虫』か『輝甲兵』なのかで大きく対応が変わってくるぜ…?》
「そうね… 米軍みたいにフィルター解除だけで大人しくなってくれる事を祈るわ」
鈴代ちゃんの額に冷や汗が浮いている。ここで殲滅戦になったら寡兵の俺達には勝ち目は無い。
まずは俺は俺の仕事をする。その後でまだ面倒事が残るようなら、その時は鈴代様に丸投げ… お任せしてしまおう。
「αより各機へ。αは先刻同様ソ大連部隊へハッキングを仕掛けます。その間の援護を頼みます!」
鈴代ちゃんの指令に4つの「了解!」の声が返ってくる。みんな気を付けてな、もうこれ以上は減らないで欲しいものだ。
《よっしゃ、行きますよ! くらえ俺の必殺技『血に染め(後略)』!!》
「ねぇ、それ言わないとダメなの…?」
…外野がうるさいが気にしてはいけない。
グラコロ隊と戦闘を始めているソ大連部隊に突入し、ハッキングを仕掛けていく。経験を積んでレベルの上がった俺は、既に一度に10機を3秒で料理できる様になっていた。アーカム隊のハッキングに掛かった時間と手間を考えると20倍以上の効率向上を遂げている。俺ちゃんやはり天才。
グラコロ隊は既にこの戦いで2機が撃墜されていた。俺達の到着がもう少し早ければ救えた命があったかも知れないが今は気にしていたらダメだ。今はとにかくご冥福を祈りたい。
「テレーザさん、後は私達が引き継ぎます。『すざく』に帰還して修理と補給を受けて下さい!」
「…助かるわミユキ。アンタたち、『すざく』に戻りな。殿は私が務めるから」
グラコロ姐さんが男前でカッコイイ。援護の為にグラコロ姐さんを襲う敵を優先的にハッキングしていくと、幸運な事にハッキングの手応えはあった。
ソ大連パイロットらにしてみれば目の前の虫が、東亜における零式的な立ち位置に居る特機の『鎌付き』が突如目の前に現れるのだから、そりゃ目玉が飛び出るほど驚いただろうな。愉快愉快。
だがしかし、これはつまりソ大連の偉いさん連中の考えは、グラコロ隊も虫に見える様に手を加えて『すざく』ごと俺達を消そうとしていたって事だ。
…これは何を意味するんだ? グラコロ姐さんはソ大連のエースじゃないのか? マジで『秘密を知った者は消せ』的な采配なのか? その秘密ってのは『幽炉の中に人が居る』なのか『他国の輝甲兵を虫に見せて、お互い戦わせていた』なのか、はたまたその両方なのか、或いは他にも何か彼らの機嫌を損ねる事をしでかしていたのか…?
だとしたら俺達は、今のままだと今後どこに行っても狙われる事になるんじゃないのか? このまま補給らしい補給も受けられずに、ジリ貧になって『すざく』ごと沈められて。
たとえ鈴代ちゃんが見つめ続けてくれても終わりの無いディフェンスは嫌だぞ…?
暗鬱たる気持ちになる。俺達は『鎌付き』を追って倒す。で、その後は…?
…………。
…よし、今はよそう。目の前の状況をひとつひとつ消化していくしか出来る事は無い。俺達には二手先三手先を予想する事は出来ても、実際に手を打てる程にはその手が回らないのだからな。
「…ちっ、親衛隊が来たか… 予定変更、私も残って戦うよ!」
グラコロ姐さんが急に立ち止まり反転する。姐さんの見据える先には新しく現れたソ大連の輝甲兵部隊。
数は24、全て30式だ。何より特徴的なのは、その部隊だけが一様に全身を紅く塗装していた事だ。部隊の奥に円盤頭の丙型が見える。ソ大連にも丙型あったんだな。
「あいつらはソ大連首都防衛の『赤熊部隊』よ。個々の戦力よりもその連携と奇策に気を付けて」
グラコロ姐さんの声の調子から一筋縄ではいかない相手と推し量れる。
割と雑魚っぽかった東亜の近衛隊とは違って、本当に歴戦のエリート部隊なのだろう。
加えて今回は天使も修理中で出てこれない。少なくとも今から5分かそこらで出てくるのは絶望的だ。
「おいおい、テレーザが残るなら俺達だけ帰る訳にもいかねぇよ」
グラコロ姐さんの侠気に当てられたのか、グラコロ隊が反転しようとするが、姐さんの
「命令違反はこの場で射殺するよ? ボルクとタチアナの仲間になりたいのか?!」
という鶴の一声で全機が再び反転、帰投して行った。名前の出た2人は先刻戦死した2人なのだろう。
…何だろう? 俺的に凄く嫌な予感のする敵だ。それこそ天使の戦った『コロッサス』とか言うデカブツよりも危険な匂いのする連中に思えた……。