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作者: 味噌村幸太郎
R-15
学生時代

 大学に入学して2年経ったころ。
 先輩から参加しているサークルの歓迎会に呼ばれた。
 あんまり人付き合いも上手い方じゃなかったし、新入生とはいえ、初対面の人間と話すのは好きじゃない。
 でも断れば、先輩の顔に泥を塗ることになる。
 だから、仕方なくキャンパスの近くにある居酒屋へと向かった。

 今年、入った新入生はわずか3名。
 しかも全員、男。
 野郎ばかりで飲む酒なんて、どうやっても盛り上がらない。

 何人かの先輩たちが、無理やりテンションを上げようとしていたけど。
 遠い地元から引っ越してきた若者たちから、爆笑を取れるわけもなく。
 引きつった笑顔で、酒を飲んでいた。

 俺は黙ってひとり酒を楽しむ。
 どうせ無料で飲める酒なんだから、飲みまくってやろう。
 昨年の文化祭で俺たちのサークルは、たこ焼きを出店していた。
 けっこう売れてたみたいだから、その時の売り上げで今夜は好き放題できる……。

 と思ったところで、グラスが空になっていることに気がつく。
 おかわりが欲しくなり、すぐに店員を呼ぼうとするが、見当たらない。
 この店は店主である、おばちゃんのワンオペだから、注文するのが面倒で有名だ。

「あのぉ~ 焼酎のお湯割りをお願いしたいんすけど?」
「……」

 ダメだ。
 どうせトイレにも行きたかったし、そのついでに調理しているおばちゃんに声をかけよう。
 そう思い、先輩に声をかけてから席を立つ。

 狭い廊下の奥へと進んでいくと、何やら声が聞こえてくる。

『うおえぇぇ!』
今泉いまいずみさん、気持ち悪いんでしょ。俺が家まで送っていくから」
『だ、大丈夫……です。ひとりで帰れ、うっぷ!』

 トイレの前で来ると、ようやく状況が理解できた。
 この季節……春になれば、よく見る光景。
 各サークルで行われる未成年への飲酒強要。
 そして、酔いつぶれた女子を介抱するという名目で……お持ち帰り。
 
「今泉さん! 俺、車あるから、送るよ!」

 女子トイレを何度もノックする、先輩らしき男性。
 そして中で嘔吐を繰り返す、若い女性。
 
『わ、悪いので……良いです』
 
 見ていて、何とも胸くそ悪い光景だ。
 中に入っている子が、どんな子か知らないけど。
 ここで黙って見過ごすのも、先輩としてどうかと思う。
 仕方ないので助け船を出してやることにした。

「あの、ちょっといいすか?」

 トイレのドアを何度も叩く、男の肩を強めに掴む。
 すると男は興奮した様子でこちらへ振り返る。
 せっかくのチャンスを邪魔されたと、俺を睨みつける。

「んだよっ! 今、忙しいって!」

 相当、溜まってんなこりゃ……。

「すみません。実はその中で吐いてる子……地元の知り合いなんすよ」
「え?」
「その子の親から面倒みろってうるさくて。ちょっとした有名人なんですよね、親父さんが」

 田舎の権力者という設定で、嘘をついてみたが。
 結構、効果はあるようだ。
 先ほどまで強引にお持ち帰ろうとしていた男の顔が、一気に青ざめる。

「ま、マジ?」
「はい、うちの両親なんて未だに頭が上がらないほどで……」
「そうなんだ……悪い、この子のこと。お願いしていいかな?」
「ええ。もちろんですよ」

 
 と知らない女の子を助けたところまでは良いが……。
 このあと、どうしたらいいのかな?
 俺もまだ酒を飲みたいのに、彼女ずっと吐きっぱなしで出て来ない。

 ~1時間後~

 結局、あれから俺がサークルの飲み会に戻らないからと。
 会計を済ませた先輩たちが俺を見つけて、「先に帰るからな」と酔いつぶれた後輩たちを連れて店を出た。
 参ったな……とひとりトイレの前で、頭を抱えていると。
 ようやく女子トイレの扉が開く。

 中か出てきたのは、真面目そうな女の子。
 口元をハンカチで押さえて、顔面真っ青……こりゃまだ吐きそうだな。
 しかし、先ほどの最低な先輩もよくこんな女の子を誘ったな。
 すごく地味で、田舎から出てきましたって感じ。
 垢ぬけない芋っぽい子……。
 それが第一印象だった。

「あの……すみません。助けてもらったみたいで」
「いいよ。俺んところの歓迎会も終わったみたいだし。君はひとりで帰れそう?」
「はい、大丈夫……うぷっ」

 こりゃダメだ。
 下手したら店の中で、ぶちまけるぞ。
 それは店長のおばちゃんに悪い。
 とりあえず、外へ出して近くのコンビニで吐かせるか。


「うおえぇぇ! ご、ごめんなさい……初対面なのに、家までお借りして。うぷっ!」
「良いから、話すより出しちゃいなよ」

 結局、コンビニよりも近い、我が家であるアパートへ連れて来た。
 成り行きとはいえ、俺がお持ち帰りしてしまった。
 初めて家に入れた女の子だけど、まさかトイレの中で吐かせることになるとは。
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