R-15
パパ活じゃないよ
「おっさん! 女子高生を家に入れて、なにをしてたんだよ! その人泣いているじゃん!」
そう言うと、ずかずかと音を立てリビングへ入る航太。
顔を真っ赤にして、セーラー服姿の少女を指差す。
ちゃぶ台を間に挟み、目の前で正座しているのは俺の妹、葵だ。
変なところで彼が乱入してきたため、また誤解されてしまった。
まったく面倒な時に、俺の家へ来たもんだ……。
「航太、待ってくれ。この子はそういうんじゃない。泣いているのも、その……」
「なんだよ!? いやらしいことをして、傷ついたんじゃないのかよ?」
なんで実の妹に、そんなことをするんだよ。
葵も、葵で。俺から未来を振ったことにショックを受けているようだ。
中々泣き止まない。
両手で顔を隠して、しくしく泣いている。
「ひっく……うぇぇん……」
その泣き声を聞いて、更に怒りが増す航太。
「ほら見ろよ! この人、傷ついてるじゃん!」
「ち、違うって。俺じゃなくて……まあ俺のことなんだけど」
「おっさんさ! 作品のためなら、なんでもする最低野郎じゃん!」
「……」
否定はできないか。
~10分後~
涙が枯れたのか、ようやく葵も落ち着いてくれた。
俺はその間、航太に妹の存在をしっかり説明して、彼も納得。
逆に妹の葵に失礼なことをしたと、頭を下げていた。
「へぇ~ 本当にあのキッチンとか、部屋を掃除したの、君なんだ?」
葵にまじまじと見つめられ、緊張してしまう航太。
「あ、あの……はい。オレがやりました」
「すごいねぇ、男の子なのに器用なんだぁ」
「死んだばあちゃんに、色々と習ったんで……」
「ていうか、本当に男の子なんだね? 名前を聞くまで女の子だと思ってたから」
俺を無視して、二人で会話を楽しんでいる。
それは良いのだが、航太のやつ。なぜ葵には敬語なんだよ。
まあ葵は高校生だから、年上だけど。
「ところで翔くん?」
急に話を振られたので、ビクッと震えてしまった。
「なんだ?」
「あのさ……この家に、久しぶりに入って。綺麗に掃除されていることで、驚いて忘れていたんだけど」
そう言って、ゆっくり部屋の壁に指を差す葵。
俺と航太も一緒になって、その指先へ視線を合わせる。
葵が指した方向にはカーテンがあり、一着の衣装がかけてある。
高砂さんが送ってきた資料のひとつ。スクール水着だ。
「あれって、誰の?」
俺と航太は、事前に打ち合わせをしていたわけでもないのに。
同時に同じ行動を選んだ。
それは沈黙だ。
「「……」」
視線を畳に落としているから分からないが、きっと航太も同じ状態のはず。
火が付いたように、頬が熱い。
「ねえ、聞こえてる? 翔くん? あれってさ、中学生ぐらいの水着でしょ?」
原稿を書く時、頭の中で航太にスクール水着を着せるため……とは言えないよな。
※
結局、スクール水着のことは何も答えず。
もう夜も遅いからと、葵を近くのバス停まで送ることにした。
航太は持って来た圧力鍋に、
「豚の角煮が入ってるから、おっさん家のガステーブルで温め直したい」
と、留守番してくれるそうだ。本当に何でもしてくれるな。
タバコをくわえながら、葵と並んで歩く。
すっかり辺りが暗くなったため、女子高生をひとりで歩かせるのは、気が引ける。
特にこの藤の丸という町は、店や街灯が少ないから。
しかし、妹もデカくなったもんだ。
こうして並んで歩くのも久しぶりだけど、あまり身長差を感じない。
「ねぇ、翔くん」
「ん?」
「歩きタバコやめなよ……」
「う、悪い」
注意されるまで、気がつかなかった。
半纏から携帯灰皿を取り出し、火を消す。
それを見た葵が「よろしい」と頷く。
「あのさ、航太くんって。本当に翔くんの友達なの?」
「え……そうだけど」
「悪いけど、そんな風には見えないんだよね」
思わずドキっとしてしまう。
「な、なんでだ?」
「う~ん、うまく表現できないけど。寂しさから翔くんに甘えている感じかな」
「別に良くないか? 子供だし俺に甘えても……」
「そうじゃないんだよ、すごく必死に見えるの。普通の子供らしくない。助けを求めて翔くんにしがみついているような……」
たった一回しか会っていないのに、すごい洞察力だ。
多分、母親の綾さんのことを言いたいのだろう。
しかし葵は、母親に会ってないから、そこまでしか想像できない。
「翔くん、あの子に何かあったら、助けてあげなよ」
「お、おう……」