R-15
おかしな友達
「おっさん。じゃあキッチンから掃除を始めるね」
「ああ、頼む……」
せっかくセーラー服に着替えてもらったのに、なぜか家の掃除や片づけを頼んでしまった。
航太自身も、ノリで着替えたは良いが。
中身は14歳の男子だから、女の真似など出来ない。
恥ずかしさから、その場で固まっていたので、俺が提案したのだ。
「その格好のまま、ちょっと掃除でもしてくれないか?」と。
頬を赤くして、黙々とキッチンを綺麗に磨く航太。
「んしょっと……」
洗ったボウルを上の戸棚に直そうとした、その時だった。
身長が低いため、背伸びをしている……。
こんな時、俺が彼氏だったら代わってあげるか?
それとも彼の腰を両手で掴み、持ち上げるか。
「もうちょい……」
背伸びをしたので自ずと、セーラー服が上にあがる。
小麦色の肌が垣間見えるかと思ったが、ちゃんと中に下着を着ている。
白いインナー。
それが邪魔で、彼の素肌は見えないのだが。
このシチュエーション……なんだかドキッとしてしまう。
航太はまだ中学生。
そんな幼い彼が一生懸命、俺のために家事を頑張っている。
「イケる」
つい、本音を漏らしてしまう。
確信したのだ。
担当編集の高砂さんから提案された、ロリもの。
航太にセーラー服を着せたことで、ようやくモデルが定まってきた。
要は彼を、女の子に変えてしまえばいい。
あくまでも作品のなかで。
※
その後も航太は家中を掃除したり、片づけてくれた。
俺は黙って、彼の後ろ姿を目で追う。
たまに「ここだ」と思ったところは、航太にお願いして念入りに何度も掃除してもらう。
布巾でちゃぶ台を拭いている彼を見て、使えると確信した。
なぜなら、その後ろ姿がたまらないと思ったから。
スカートの丈は長いが、中腰でこちらに尻を突き出している。
見えるか見えないか……ぐらいのチラリズム。
もちろん彼は男だから、女物の下着などは着ていない。
デニムのショートパンツが少し見えるぐらい。
しかし、これは作品に使えそうだ。
ある日、うちの隣りに引っ越してきた、シングルマザーとその子供。
綾さんをお父さんにして、航太を娘に変えてみよう。
そして友人の少ない女子中学生が、主人公と仲良くなり……。
いやいや、エロマンガなので。そこまで詳細に描く必要はないか。
だが、航太のおかげで、どうにか形になりそうだ。
ひとりで頷いていると、不審に思った航太が眉間に皺を寄せる。
「おっさん……なんかニヤついて、キモい」
「わ、悪い悪い。その辺でもう良いよ、おつかれさま」
「こんなんで本当に良かったの? マンガにできそう?」
セーラー服姿のまま、首を傾げてみせる航太。
上目遣いで距離を詰められるから、なんか変な気持ちになりそう。
「ああ、参考になったよ。現役の女子中学生になんて頼めないからな」
「そうだろ? 困ってるなら、オレに頼めばいいんだよ。友達だし」
「と、友達……か」
普通、男友達にこんなことを頼むか?
※
そろそろ、セーラー服を脱いだらどうだ? と彼に言おうとした瞬間だった。
玄関からチャイムの音が鳴り響く。
その音を聞いて、俺と航太は驚き、身体をビクッと震わせる。
『あの~ すみませぇ~ん、黒崎さん?』
甲高い女の声……航太の母親、綾さんだ。
これはまずいぞ。
今、玄関の鍵は、開けたままだ。
綾さんがドアノブを回せば、女装した航太の姿を目にしてしまう。
そんなところを見られたら、警察に連れられていきそうだ……。
どうしよう?
慌てる俺はその場で、固まってしまう。
その時、航太がヒソヒソ声でこう言った。
「おっさん。オレが着替えてる間に、母ちゃんの相手をしてよ」
「え? でも、玄関を開けたらお前も見られるぞ?」
「開けないまま、扉越しに話したらいいじゃん。オレはここで着替えるから」
「わかった」
母親の綾さんになんて、ウソをつこう。