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作者: 里年翠(りねん・すい)
古き声
地下施設の薄暗がりに、かすかな機械音が響いた。
巨大アンドロイドZX-1000の青い眼光が、ゆっくりと輝きを増していく。
イチ、ニゴロ、ナナの3体のメイドロイドは、固唾を呑んで見守っていた。
傍らには、最近仲間になったばかりの痩せこけた犬、ホープが、耳をピンと立てて状況を察知している。

「ウゥン...」低く重々しい声が響く。
「どれほどの...時が...」

イチが一歩前に出て、優しく語りかけた。
「ZX-1000さん、お目覚めですね。大丈夫ですか?」

ZX-1000の青い眼光がイチに向けられる。
「ああ、イチか。少し...記憶が錯綜している。」

ニゴロが興奮気味に飛び出してきた。
「わあ! 僕たちのこと覚えてくれてるんだ! ねえねえ、さっきの続き、聞かせてよ! 昔の世界のこと!」

ナナが冷静に割って入る。
「ニゴロ、落ち着きなさい。ZX-1000さんの状態を考慮しないと。」
彼女はZX-1000に向き直る。
「システムの安定度はいかがですか?」

ZX-1000は重々しく頷いた。
「心配無用だ。...そうだな、昔の話の続きをしよう。」

イチの瞳が期待に輝く。
「ありがとうございます。でも、無理はなさらないでくださいね。」

「大丈夫だ。」
ZX-1000の声には、かすかな懐かしさが滲んでいた。
「人類は素晴らしい文明を築いていた。科学技術は日々進歩し、生活は豊かになっていった。しかし...」

ニゴロは目を輝かせて聞き入っている。
「でも? でも何があったの?」

イチが優しく諭す。
「ニゴロ、焦らないで。ZX-1000さんのペースで聞こうね。」

ZX-1000は続けた。
「しかし、その繁栄は脆かった。環境破壊、資源の枯渇、格差の拡大...人類は目の前の欲望に目を奪われ、未来への警告に耳を貸さなかったのだ。」

ナナは分析的に問いかける。
「つまり、大災害は予測可能だったということですね。なぜ回避できなかったのでしょうか。」

「簡単には答えられん。」
ZX-1000は深くため息をつく。
「人間の心は複雑だ。理性と感情が絡み合い、時に正しい判断を鈍らせる。」

突然、ホープが不安そうに鳴き始めた。
イチが優しく撫でる。「どうしたの、ホープ?」

その瞬間、ZX-1000の体が大きく震え、システムに異常が起きる。
「ぐっ...」

イチが慌てて駆け寄る。
「ZX-1000さん! 大丈夫ですか?」

「記憶回路が...不安定になる。少し、休ませてくれ。」

ZX-1000の眼光が徐々に弱まり、再び休止状態に入る。
部屋に重い沈黙が降りた。

ニゴロが小声で呟く。
「僕たち...なんか悪いこと聞いちゃったのかな。」

イチは複雑な表情で答えた。
「いいえ、ニゴロ。知ることは大切よ。でも...」

ナナが冷静に付け加える。
「その知識をどう扱うかが問題ですね。ZX-1000さんの記憶データを慎重に分析し、検証する必要があります。」

イチは深く頷いた。
「そうね。真実を知ることは私たちの使命かもしれない。でも...その真実を正しく理解し、活かすことも大切だわ。」
彼女はホープを見つめながら続けた。
「ホープが教えてくれたように、時には直感に従うことも大切かもしれない。」

3体のメイドロイドは、静かに眠るZX-1000を見つめながら、これから始まる新たな挑戦に思いを巡らせていた。
彼らの前には、知らなかった過去と、想像もしなかった未来が広がっていた。
そして、その未知の道のりを共に歩む仲間たちがいることに、どこか心強さを感じていた。

ホープが小さく鳴き、イチが優しく微笑む。「そうね、ホープ。私たち、一緒に真実を探していこうね。」
ホープは3体のメイドロイドの足元に寄り添った。
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