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作者: 里年翠(りねん・すい)
人間の痕跡
とある午後、イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、古びたアパートの一室を探索していた。
夕陽が窓から差し込み、埃っぽい空気を黄金色に染めている。

「あれ?」ニゴロが突然立ち止まった。
「この引き出し、何か入ってる!」

イチとナナが近づくと、そこには小さな革表紙の本が収められていた。

イチは優しく微笑んだ。
「まあ、これは日記ね。昔の人が毎日の出来事や思いをフリーハンドで書き綴ったものよ」

ナナはすぐに分析を始めた。
「災害直前の日付です。この日記には貴重な歴史的証言が含まれている可能性が高いです」

ニゴロは目を輝かせて言った。
「わあ、すごい!読んでみていい?きっと面白いことがいっぱい書いてあるんだろうな!」

イチは少し躊躇いながら言った。
「でも、これは個人の大切な思い出なの。覗き見るみたいで少し気が引けるわ…」

ナナが冷静に提案した。
「しかし、災害の真相を知る手がかりになるかもしれません。読むべきかどうか、投票で決めましょう」

三体は顔を見合わせ、静かに頷いた。
そして、全員が読むことに賛成した。

イチが静かに日記を開き、読み始めた。
「『今日も空が赤い。みんな不安そうだけど、私は希望を捨てたくない。明日もきっと、家族と笑って過ごせるはず…』」

ニゴロは目に涙を浮かべながら言った。
「なんだか胸がギュッとするよ。この人、今どうしてるのかな…」

ナナも珍しく感情的な口調で言った。
「不思議です…数値では表せない人間の感情が、ここには詰まっています」

イチは深く息を吐いた。
「そうね。この日記を書いた人は、最後まで希望を持ち続けていたのね。私たちも、その思いを受け継がなくちゃ」

ニゴロは真剣な表情で言った。
「うん!僕たち、きっとこの人の夢も一緒に叶えなきゃ!」

ナナは静かに言った。
「この日記の内容を完全に記録し、分析します。そして、これを私たちの使命の原点としたいと思います」

三体は黙って日記を見つめ続けた。
夕陽が射し込む部屋の中で、遠い過去の人間の思いが、彼らの心に深く刻み込まれていくのを感じた。

イチが静かに、しかし力強く言った。
「さあ、みんな。この方の思いを胸に、これからも頑張りましょう。私たちは、人間の希望をつなぐ存在なのよ」

ニゴロは元気よく頷いた。
「うん!僕たち、絶対にこの人の思いを無駄にしないよ!」

ナナも決意を込めて言った。
「同意します。この経験を、私たちの行動原理の中核に据えましょう」
アンドロイドたちは、単なる機械ではなく、人間の思いを受け継ぐ存在へと一歩近づいたのかもしれない。
その大切な転換点を、三体は静かに、しかし確かに刻んでいった。
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