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作者: 神無城 衛
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グリニッジ標準時5月26日9時

 連合艦隊の先遣隊は反乱軍の潜伏する赤色巨星にワープしたと連絡があった。
今回のナイアガラ号の編成はルイーサ率いる本隊とともにあり、難攻不落とされる機動要塞「ヨトゥンヘイム」に籠城を決め込んでいる反乱軍を制圧することにある。

ギルドとユニオンから派遣されてきたアフリカ系ユニオン民の「勇将」アンダーソン元帥と復帰した新アダルヘイム(アダルヘイム正規軍)と社の軍門に戻ったロート・ヒュンフリッター改めフィア・エンデ(フィアードフォー)総司令官エルフリーデ、要塞の運用に詳しいオスヴァルト上級大将によると、反乱軍の狙いは時間稼ぎによって連合軍を疲弊させて無条件降伏に持ち込ませない戦術だろうと推察された。

 一方ギルド軍本隊にいるセシリアはヤマトにいた。
「つまり我々は早期決戦を望み、反乱軍は最後まで抵抗すると…」
 ルイーサが険しい顔で告げた。
 司令部から本隊への命令下達を待つ間、セシリアと老虎、ルイーサの三者はナイアガラ号の食堂で会議していた。
 セシリアと老虎はギルドの軍門の下で行動するに過ぎず、ルイーサも離反組の代表に過ぎない立場であり、特に医療系の技術者であって軍事的なことはあまり分からないので、今回はできるだけ死傷者を出したくないという意向をCEOに復帰した父を通じて強く要望しただけで、三者とも上の命令に従うことしかできないのだ。
 そんな三人は同じ戦線に並ぶことから、認識のすり合わせのためにこうして顔をそろえた。
 老虎の旗艦、カネタ級多用途戦術戦艦である柏陽号はくようごうは約1,800メートルあり、並んだナイアガラ号は老虎の船の半分以下の大きさで、ナイアガラ号(戦艦から装甲巡洋艦になった)が小さく見える。実際地球軍も全長約1,000メートルの海防艦、グランドオリンポス級戦艦を新造し、外洋派遣艦隊向けのエベレスト級巡洋戦艦が現在の規格で装甲巡洋艦扱いのナイアガラ号の全長700メートルに並ぶ
ここで話し合われたのは、自分たちの働きでいかに彼我の犠牲を少なくするのかについてだった。
「俺が今持っている情報によると、反乱軍の指揮官はエックハルトという男らしい」
「…最悪な状況ですね」
 老虎の情報にルイーサはさらに顔をしかめた。
「最悪というのは?」
 セシリアが尋ねる。
「彼とは幼い頃から知っている仲です。彼はとても部下想いである一方、責任感が強く、亡くなった反乱軍のCEOに登用されている恩に縛られています。優秀な指揮官ではありますが、多分今回の分の悪い戦闘では自分を犠牲にしても私たちの艦隊に大打撃を与える戦術をとるでしょう。もしそうなれば、追い詰められた反乱軍を仲裁できる者がいなくなり、反乱軍の態度はさらに硬化し、戦争が長引いてさらに犠牲が増えることは想像に難くないのです」
「その硬派なエックハルトを懐柔してこちらに引き込めれば、あるいは要塞の戦闘力をそっくり無血で溶かせるかもしれないわね、ルイーサの方から秘密裏に連絡できないかしら」
「望みは薄いけれどやってみるわ。ちょうど通信端末に昔使っていたメールアドレスがあるから」

「報告します、コマンドポストより連絡、ギルド軍本隊は直ちに戦闘準備の上、ヨトゥンヘイムへのジャンプに備えよとのことです」
 クルーが急を知らせ、会議は解散となった。
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