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作者: 神無城 衛
*5*
4月23日 グリニッジ標準時0時(東京時間22日9時)

前日は船務科と飛行隊のアップデートに終日立ち合い、今日は港を出て近くの訓練宙域で調整を兼ねた演習を行うことになっていた。休暇を終えた船は滞りなく出港し、訓練のために許可された近くの宙域に出た。ヤマト方面の情報収集に出ているクルーは東京時間13時頃に戻る予定で、戻り次第報告の受領と今後の行動について決めることになる。
艦橋にいるセシリアは空間戦闘機が離艦し、手始めのタッチアンドゴーを繰り返すのを見ていた。
「こちらコリント、同期したレーダーシステムに問題無いようです」
「引き続き瑞雲Ⅱとともに索敵、戦闘訓練に移ってください」

 フォーメンションは瑞雲Ⅱが先行し、検知したソノブイに武装と連動したレーザーを当てるハンターキラー訓練だった。
 しばらくすると瑞雲Ⅱから連絡が来た。
「船長、宙域にソノブイ以外の反応があります。偵察機です」
『この宙域には私たち以外いないはず…』
「反応消失、宙域を離れたようです」
詳細を調べようとしたところで謎の識別信号は消えてしまった。残っているログによると不明機はアダルヘイムでもシリウス独立政府軍でもなく、所属を隠した最新の空間偵察機「スティングレーMk.2」だった。
機体形状はアカエイに似ているこの偵察機は肉厚でレーダー反射を軽減する塗装を施された翼に対艦ミサイルや偵察機材を抱えて飛べる機体で、長く伸びたテールのレーダーに機材を連携させればかなり詳細な情報を拾うことができる。
攻撃を仕掛けてくる意図はなさそうだが、あまりいい気持ちのする話ではない。
「全空間戦闘機に通達、訓練を中止し艦に戻ってください」
 念ために訓練は一時中断することにした。

 トラブルはありながらも午前中に予定していた訓練は満足な結果を得られた。軽く昼食を摂ると午後の会議に出る。

 船に戻ったクルーが集めた情報によると、アダルヘイムの宙域封鎖はやはりもたついていて完全ではない上、アダルヘイムの擁するスペシャルフォースの傭兵団であるターミネイトファイブ(ロートヒュンフリッター)の動員はない、噂程度の話によるとターミネイトファイブの諜報部がアダルヘイムの上層部の理不尽な人件費カット対して抗議したこと、ターミネイトファイブがこの作戦に於いてギルド法に定める「ピースオーダー契約」(シビリアンコントロール下での軍事行動を定めた規約)にも反すると抗議したことがアダルヘイム上層部に受け入れられなかったことでアダルヘイムから離反したということだ。そうしてスペシャルフォースを失ったアダルヘイムは動かせる戦力が減り、今は正規軍の中でも末端のフリゲート艦隊が動いているだけだという。
 噂が本当だとすればアシハラ星系への出入りは想定より楽になるが、不確かな情報に楽観的になることは危険なので、とにかくあまり時間をかけるべきではないだろう。
 自分たちの状況を確認すると、船は万全に体制を整えていて、船もクルーもベストコンディションである。

「目標アシハラ星系方面ゲート、亜光速エンジン最大出力にて発進」

 グリニッジ標準時4月26日22時、シリウス星系最外縁の軌道上、ナイアガラ号はアシハラ星系に向けて進発した。
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