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作者: 甲斐てつろう
#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
これから自分が配属されると言われたTWELVEの面々とこんな所で初対面をしてしまった瀬川。
正直どのような対応をすれば良いのか分からなかった。
ただでさえ急だと言うのにそれだけでなく父親が参謀だという話まで出て来て混乱は増すばかり。

「親父、参謀だったのかよ……」

組織内でもかなり上の立場の人物だったと知り余計に父親の事が分からなくなってしまった。

「親父は何がしたいんだ?ってかここって何なんだよ、何をする所なんだ?訳分かんねぇって……っ!!」

突如として世界に現れた凶悪な罪獣と戦うための防衛組織だと思っていたがそう単純な話では無さそうだ、それは先程の新生長官の話からも薄々感じてはいたが。

「参謀の息子さんが何でここに……?」

悩む瀬川を他所に竜司が問う。
すると参謀こと瀬川の父は答えた。

「新たなTWELVEの隊員だ、よろしく頼むぞ」

彼らもそこで初めて新たな仲間だと伝えられる。

「えぇ!この子が⁈確かに新メンバーが来るとは聞いてたけど……」

「まだ学生さん……?」

竜司と陽は驚きながらも瀬川の方を改めて見た。
その戸惑い様を見て無理もないと感じてしまったのだ。

「えっと、瀬川くんで良いのか……?もしかして何も聞かされてなかった感じ……?」

何とか歩み寄ろうと戸惑う瀬川に声を掛ける竜司。

「そうですよ、何の説明も無しにいきなり連れて来られて……」

そしてある事に気が付き父親に問う。

「母さんから無理やり俺の親権奪ったのはこのためか?」

それは両親が離婚した際、母親が獲得するはずだった親権を無理やり奪った理由だった。
余計に父親が不審に思えてしまう。

「お前は選ばれし者だったからな、私の元に置いておく他なかったんだ。元妻の反発は想定外だったが世界のためだ、理解して欲しい」

至って真面目だと言う表情で悪気もなく告げる父親に瀬川は余計に腹が立ってしまった。

「こんな大事なら最初から言ってくれよ、今更言われたって失っちまった信頼は戻らねぇって……!!」

話を聞けば聞くほど父親の事が嫌いになっていく。

「せっかく歩み寄ろうと思ったのにこんなのねぇよ……っ!」

「「……っ」」

瀬川の歩み寄るという言葉を聞いてTWELVEの一同は反応した。
名倉隊長が会見で話した事と同じ事を言っていたためである。

「抗矢、黙っていた理由だがな……」

父親もそこまで言いかけて黙ってしまう。
何か言いづらい事情でもあるのだろうか。
するとそこへ新生長官が現れた。

「良くない状況だね、ゆっくり話す機会を与えられればと思ったが余計に悪化させてしまったようだ……」

新生長官は父親とのやり取りで完全に生気を失ってしまった瀬川を見て哀れんだ。

「おいで、後は我々と共に詳しい話をしよう」

そう言う新生長官に案内され瀬川はTWELVE隊員たちと共に父親と別れ説明を受けるのだった。
あまりに気力がないためもう拒否する事もしなかったのである。





瀬川は新生長官とConnect ONEに着いて行く。
一同はそのまま兵器格納庫へ向かった。

「君の入隊手続きはもう済んでいるのだが本当に良いかい?」

心配そうに尋ねる新生長官。
瀬川は魂の抜けた様な顔で答える。

「良いっすよ別に、どうせ無理やりにでもやらせるんだから」

全てがどうでも良くなってしまい受け入れる事となった。
厳密には心では受け入れきれていないが流れに身を任せてしまっている状態だ。

「なぁ、この子俺たちとは大分違うな」

竜司がコソコソと陽に耳打ちする。

「僕らみたいに居場所を求めてる感じでは無さそうだよね……」

その竜司と陽の会話は瀬川にも聞こえてしまっていたが彼はもうどうでも良いため聞き流していた。

「(また面倒なのが増えるの?せっかく少しは纏まって来た所なのに……)」

一方で蘭子はそのような事を考えてしまっている。
水筒に入った自作のコーヒーを啜りながら文句を心の中で唱えていた。

「着いたよ、兵器格納庫だ」

そして辿り着いた先の扉を新生長官がカードを使い開けると驚くべき光景が広がっていた。

「……!!」

気力の抜けていた瀬川も流石に少し反応してしまう。
SFチックな設備が全面に備わった彼らTWELVEの兵器を格納している巨大な部屋を思わず見渡してしまう。

「はぁ……」

しかしSF好きな瀬川でもこの光景に大したリアクションが出来ないほど弱っていた。

「こうやって機体を外側から見るのは俺らも入隊した時以来だな」

「好きに入らせてもらえないからね」

竜司と陽がそう言っている。
その時点でTWELVEという立場がこの組織の中では弱いものだというのが少し伝わった。
余計に瀬川はモヤモヤを強めてしまう。

「お、先に来てたみたいだ」

新生長官がある人物を見つけて反応する。
視線の先にいたのはこの技術を生み出した技術主任である時止とTWELVE隊長の名倉がいた。

「おーい継一!お、彼が瀬川参謀の息子さん?」

明らかに他の者より明るい雰囲気の時止主任と真逆に大柄だが寡黙な名倉隊長。
しかしその二人を見ても何の反応もない瀬川。
流石に驚かれた。

「あれ、なんか機嫌悪い?」

時止主任が言うと新生長官が答えた。

「父親との関係があまり良くない噂、本当だったみたいだよ……」

「あー、あの人お堅いからな……」

すると瀬川が口を開く。

「お堅いとかそーゆーんじゃないっすよ……」

その言葉に底知れぬ闇を感じた時止主任。
これ以上詮索するのは止めた。

「じ、じゃあ気を取り直してTWELVE新入隊員恒例の格納庫ツアー兼、説明会を始めようか……っ!!」

手を叩いて何とか場を明るくしようと振る舞う時止主任によってツアーが始まった。





歩きながら解説をする時止主任に着いて行く一同。

「ウィング・クロウ、ライド・スネーク、タンク・タイタン、キャリー・マザー。何故これらの操縦に君らのような素人も同然の部外者が選ばれたのか、それは機体の動力源に原因がある」

活き活きと語る時止主任は少し他の隊員たちの空気と違って浮いていた。

「我らが動力源、それは"ライフ・シュトローム"という概念だ」

初めて聞くワードだが今の瀬川にいちいち反応している気力はない。

「創世教の研究で存在が明らかになった"生命を構築する存在"、我々一人ひとりの内にも流れているんだ」

瀬川の顔を確認しながらも説明は止めなかった。

「概念的な存在だから確認は出来ないんだけどね、人が言う魂というものに近いイメージかな。でも我々創世教研究の長年の成果により……」

少し溜めてから格好付けて胸を張りながら言った。


「遂に物質化する事に成功したんだ!!」


両手を広げて声高らかに言うが反応は薄い。
TWELVE隊員や新生長官は既に聞いており瀬川は反応出来るような状態でないからである。

「……世紀の大発見なんだけどな」

薄いリアクションに少しショックを受けながらも気を取り直した時止主任。

「そのライフ・シュトロームを動力源として罪獣に対抗できる兵器を作った訳だけど問題があってね、普通の人間には扱えない所だ」

ある大きなコンピュータの前で立ち止まりデータを見せる。
そのデータには瀬川をはじめとしたTWELVEの隊員たちの生命データが記されていた。

「そこで君らに白羽の矢が立ったって訳。君らのライフ・シュトローム内の"インディゴ濃度"って数値が他とちょっと違うんだよ」

ビシッと決めたように言う時止主任だが他の隊員たちは少し引いていた。


「んん〜、まぁ簡単に言うと"特殊なエネルギーで動く兵器を扱えるのは選ばれし者の君たちだけ"って事。それさえ分かってれば良い」


今話した事を簡潔にまとめた。
すると話を嫌々聞いていた竜司が瀬川に小声で話しかける。

「俺らも殆ど分かってないから大丈夫だぞ」

優しい言葉を掛けてもらうが瀬川は初めから理解する気など無かった。
ただ流れに逆らわず乗るだけ。
全てがどうでも良く感じておりただ虚空を見つめていた。

「……?」

するとスマホが震えているのに気付く。
気だるげに確認すると着信画面には快の名前が書かれていた。

「……ちょっと電話出て来て良いすか」

そう尋ねる瀬川に着信画面を見て何かを察した新生長官が答えた。

「引き留めてしまってごめんね、友達も心配してるだろうから出ておいでよ」

着信画面を見て友達だと分かったのだろうか。
しかし今の瀬川にそこまで考えている余裕などなく急いで格納庫を出て快からの電話に応答するのだった。





廊下に出てなるべく電波の良い所を探し快からの電話に応答する瀬川。

「もしもし……?」

電話越しでは快が心配そうな声をしていた。

『大丈夫?あれから結構時間経つけど……』

「まぁ、あんま良い状況じゃねーな……」

瀬川の憂鬱そうな声を聞いて快はより心配になる。
自分も鬱を患っているため声色から何となく心情が察せられたのだ。

『教会の事とか強制された感じ……?』

「近いけどちょっと説明しづらいんだよな……」

濁した言い方をする瀬川に疑問を抱く快。
瀬川も不安だったのだ。

「言っても信じてくれるかどうか……」

Connect ONEと父親の創世教が繋がっていて自分がTWELVEの隊員に選ばれたなど信じてもらえないだろう。
しかし快は歩み寄ろうとした。

『お前はいっつも俺が悩んでる時は助けてくれた、なんか恥ずかしいけどさ……俺も力になれないかな?』

困った時はお互い様と言わんばかりに瀬川の悩みを聞いてあげようとする快。

「確かにそうだけどさ、今回ばかりはぶっ飛んでるから……」

『ぶっ飛んだ経験は割としてるつもりだよ、罪獣騒ぎにも巻き込まれまくってるし』

「あぁそうだったな……」

そこまで説得されてまた少し悩む瀬川。
しばらく沈黙が訪れた後、ようやく話す事を決心する。

「信じてくれよ……?俺さ、実は……」

呼吸を整え真実を話す覚悟を決めて口を開く。


「Connect ONEのTWELVEに選ばれたんだ……」


そして再び訪れる沈黙。
快は何を思ったのか全く声を発さなくなった。

「え、どうした……?」

不安が高まり反応を促すと快はようやく声を出す。

『いや、そういうこと言ってる場合じゃなくてさ。マジで心配してるんだけど……』

まるでデジャヴのように瀬川の言った事を信じられない快。
そんな言葉を返された瀬川は心外で思わず焦り反論してしまう。

「いや本当なんだよ!創世教とConnect ONEって繋がってたみたいでさ、親父が参謀だったんだ……!!」

しかし益々信じられないというような反応を見せる快。

『……あの時の事、そんなに嫌だった?』

「あの時って……?」

『俺がゼノメサイアだって言った話だよ。もしかして今それの仕返ししてる……?』

そう言われてようやく瀬川は初めてゼノメサイアや罪獣が出現した翌日の快とのやり取りを思い出した。
そこで瀬川は巻き込まれた当事者である快の発言を軽くあしらってしまっていたのだ。

「あの時はさっ……流石に信じられなかったから」

『こっちだって今信じられないよ、だってお前憧れてたじゃんか。そんな都合よく高校生が組織に……』

快の言う事も否定出来ない。
しかしこの行き場のないストレスをぶつける場所が見つからずどうすれば良いか分からなかった。

「俺だって訳分かんねぇよ!嫌な親父に突然呼び出されたと思ったら罪獣と戦えって無茶ぶりされるし!憧れてた組織も実際見てみたらずっとギスギスしててよ、思ってたんと違った……!」

間違いにもそのストレスを電話越しの快にぶつけてしまった。

「親父も俺のこと神の仔羊だか言って都合いいように見てる気しかしねぇし、一日で何回裏切られれば良いんだよ……っ!!」

大嫌いな父親とその宗教。
自分の憧れていたものがそれに侵されているとすら思えてしまったのだ。

「ふざけんなよ、どうすりゃ良いんだよ……!」

そこまで言ってようやく言い過ぎてしまった事に気付いた瀬川。

「あ、ごめん……」

慌てて謝るが快はしばらく黙っていた。
そしてようやく口を開く。

『お互い頭を冷やそう、そしてもっかい話そうよ……』

今は通話を終えるべきだと判断したのだ。

「そうだな、ごめん切るよ……」

そして瀬川は電話を切り歯を食いしばる。

「あぁークソッ!!」

思い切り壁を殴りストレスを発散しようとしたがその程度でイライラが収まるはずが無かった。





つづく
つづきます
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