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作者: 甲斐てつろう
#2
『ヒーローに、ならなきゃ。』
遂に修学旅行当日。
二年生の一同は旅先である大阪へ向かうため羽田空港へ来ていた。

「これから飛行機乗って関西空港に向かうぞ、それからバスで大阪のホテルに向かって荷物を下ろせー」

担任が生徒たちの前で事前の確認を行いそれぞれに搭乗券を配る。
席番号を見るとどうやら快と愛里は隣の席のようだった。

「よかった、快くんと隣で……」

少し寂しそうに言う彼女を見てその言葉の裏に隠れた真意を理解してしまいその寂しさが伝わる快だった。



そして席に着いた後、飛行機は無事離陸。
東京の空を後にした。
しばらく飛んだ後、飛行は安定し一同は落ち着いたのか談笑を始めた。

「雲の上にいるよー」

「全然下見えないね」

そのような会話を繰り広げているクラスメイト達を羨ましそうに見つめる愛里。
快はその横顔を眺めていた。

「っ……」

何とか愛里に話しかけたいが緊張が少しあり中々話しかける事が出来ない。
すると愛里はそれに気付き逆に声を掛けた。

「私たちでお話しする?」

寂しそうな顔を一瞬で優しい笑顔に作り替え快に微笑んだ。

「うんっ、そうだね……」

彼女に恋をしているのは既に自覚している。
だからこそ緊張し顔が赤くなってしまっていた。

「……えっと」

しかしいざ話そうとなると緊張から話題が浮かばない。
何とか頭をフル回転させて話を振る。

「でも良かったね、お互いこうして話せる人はいるから……」

それが正しい話題なのかは分からなかったがとりあえずそれしか思い浮かばなかったので恐る恐る口に出してみる。

「うん、快くんがいてくれて良かった。じゃないと私本当に独りぼっちになっちゃってたもん」

やはり少し寂しそうな反応をしたため快は話題を間違えてしまったと反省した。
今からでも巻き返す方法を更に必死に考える。

「それはこっちだって……っ!あの時プリント届けに来てくれた時から俺と関わってくれて嬉しいよ」

ゼノメサイアになる前日の時の話だ、パニック発作を起こし学校を休んでしまった快にプリントを届けに来てくれた。
今思えばその時から快は愛里を意識していたのだろう。

「そう?……えへへ、遠くまで届けに来た甲斐があったなぁ」

照れくさそうに笑う愛里だが快はその言葉に少し違和感を覚えた。

「遠く?ああいうのって家近い人が帰るついでに寄るとかじゃないの?」

「……っ!」

「事情知ってる瀬川が来るもんだと思ってたからさ、休んだのバレて怒られたよ」

そして快は気になった事を問う。

「わざわざ家遠いのに来てくれたの……?」

「…………」

そう問うと愛里は少し顔を曇らせて黙った。
快は予想外の反応に戸惑ってしまう。

「えっと、俺なんかマズいこと言った……?」

すると愛里は顔を赤らめて言った。

「ううん違うの、ただちょっと恥ずかしいっていうか……」

「?」

「自分で志願したの、快くん家に届けますって」

尚更わけが分からなかった。

「本当に何で……?」

すると愛里は少し申し訳なさそうに言った。

「気を悪くしないでね……?快くん寂しそうにしてたから声かけてあげたくなったの、英美ちゃんを見習ってね……」

そう言われてポカンとしてしまう。

「英美ちゃんよく独りでいる子に声かけてた、私もそんな人になりたいなと思ったの」

そして愛里は快に謝った。

「ごめんね、前に私のやり方で快くんのヒーローになったって言ってくれたけど全部英美ちゃんの真似だったの……」

そのまま機内にいる他のクラスメイト達を見渡して続けた。

「だから今回も上手く行かなかったんだよね、英美ちゃんだから出来た事だったんだ……」

いつかの快と同じように卑屈になってしまっている。
自業自得で今回の結果を招いてしまったのだと言わんばかりに。
英美の真似事を皆がウザがっていると思っているようだ。

「私の汚い心で歩み寄られてもウザいだけだよね……」

自分の心を汚いとまで言っている。
しかし快には思うことがあった。

「でも俺にはそれで与方さん自身の優しさが伝わったよ……?」

「ホントに……?」

「汚くなんかないよ、ただ伝え方が合ってないだけなんだ……」

「どういうこと?」

「無理しないで別のやり方でみんなに優しさを伝えようよ」

そして快も英美を思い出していた。

「英美さんも言ってたよ、自分に出来る事をするんだって」

陸上競技大会の時に快の言葉として伝えた事を改めて英美の言葉として伝える。
すると愛里の顔は少し明るくなった気がした。

「ありがとね……っ、私頑張るよ」

そして快は今思った気持ちを伝える事にした。

「俺も手伝うよ、与方さんにはやっぱみんなと仲良くしてて欲しい」

今回の修学旅行では愛里と他の人々の仲を取り戻す事が目標となった。

「今回の旅行も楽しく過ごして欲しいからね」

希望を少しずつ感じ始めていたがここから中々厳しい現実が波乱を起こすなど知る由も無かった。





そして遂に大阪に到着。
自由行動の時間がやって来た。

「それじゃあ解散!」

担任が手を叩いて合図をすると同時に皆は一斉に班で集まり行動を始める。
当然快と愛里も瀬川や委員長のいる班に合流する事となった。

「……うぅ、みんな仲直りしてくれるかな?」

仲直り出来るか緊張している愛里に快は小声で激励する。

「大丈夫、こっちから歩み寄れば向こうも気付いてくれる……!」

前回の経験を言葉にして愛里をサポートする事を誓う。
それと同時に快も瀬川に歩み寄ろうという考えを持っていた。

「よーし、全員揃ったし行くか!」

坊主頭の委員長が仕切って彼と瀬川、咲希ともう一人の女子、そして快と愛里の六人の班が動き出した。



彼らがやって来たのは大阪最大規模の映画を題材にしたテーマパーク。

「これなら映画の話題とかで話せるチャンスあるかもね」

「うんっ、見てるやつ多いからよかった……!」

四人の班員の後ろに着きながら快と愛里はどう話すか考えている。
しかしテーマパークに到着する道中でも全く相手にされていない時点で気付くべきだった。

「平日でもやっぱ混んでるな〜」

「これでも土日よりは空いてるっていうね」

委員長と女子がそう話しておりそこに瀬川と咲希も入って行く。

「最初はどれ乗る?」

「アタシこれがいいな」

既に四人のコミュニティが出来上がってしまっている。
なかなか輪に入る隙が見当たらない。

「えっと、瀬川……!」

快は愛里も話す隙を与えるため、そして何より自分のために瀬川に歩み寄り仲を戻そうと考える。
勇気を出して声を掛けてみるが。

「お、こことか良いんじゃね?」

まるで快の言葉をわざと遮るかのように委員長が持っているパーク内地図の箇所を指差す。

「「賛成ー!」」

完全に快を無視して他の班員たちと楽しそうに会話を始め先へ進んでいく。

「っ……」

置いてかれる快と愛里は明らかな心の距離を感じながら少し後ろを着いて行くのだった。

「大丈夫……?」

「うん、心配しないで」

心配そうに顔を覗いてくる愛里に強がってみせる。
今は彼女のために動いている場面でもある、そんな自分が弱さを見せる訳にはいかないのだ。



班員たちは次々と映画モチーフの乗り物に乗り、着ぐるみを着たキャラクターと写真を撮る。

「いぇーい!」

楽しそうに写真を撮る彼ら。
終わったと思いきや快と愛里の方を向く。

「……二人も撮る?」

つい今までの高いテンションとは異なり突然声のトーンが下がる。
明らかに距離を感じる雰囲気だった。

「いいの……?」

まず二人の気を遣ったような対応をしてくれた事に驚く。

「いいよ全然。何か俺たちだけで楽しそうにするのも申し訳ないし……」

委員長は少し目を逸らしながらそう言って二人にキャラクターの隣に立つ位置を譲る。

「そ、そっか……」

しかし何処か居心地の悪さを感じてしまう。

「じゃあ撮るよ、はいチーズ」

そのまま愛里と二人でキャラクターと写真を撮るが心の底から笑えなかった。
何より辛かった事が一つある。

「(瀬川、お前は見てすらくれないのな……)」

せっかく歩み寄りたいと言うのに瀬川だけは他の班員と違いわざとらしく目を逸らしているのだ。
まるで彼もこの現実から目を背けているかのように。
このままではこちらから歩み寄る気持ちすら削がれてしまいそうである。

「(せっかく大切な事に気づけたのにこれじゃなぁ……)」

このまま先へ進むにつれて快の心は先程の愛里よりも荒んで行くのだった。





そのまま進んで行くと世界的な魔法ファンタジーシリーズのエリアに近付いている事に気付く。
そんな愛里は快にこっそり伝えた。

「私このシリーズ大好きなの、そこでなら上手く話せるかも」

その声を聞いた快は愛里に提案をした。

「じゃあ寄りたいって言ってみるよ」

「本当?ありがと」

少し申し訳なさそうに感謝を表情に浮かべる彼女を見て少し勇気が湧く。

「あ、あの……」

前方で楽しそうに談笑しながら歩いている彼らに声を掛けるがやはり緊張してしまい小さな声しか出なかった。
そのため気付かれず例のエリアに到着した。
すると。

「俺このシリーズ好きなんだ、寄っていい?」

なんと瀬川が先に一同に寄りたい事を申し出た。

「お、いいねぇ」

それに反応した委員長が皆を引き連れて映画のコーナーへ入って行く。
その様子を見て快たちも着いて行った。

「じゃ、じゃあ俺たちも行こっか……」

自分から誘うつもりだったが瀬川のお陰かすんなりと入れてしまったので愛里は良かったろうが快は話しかけるチャンスを活かせず少し不服だった。
しかし快は一つ気になった事がある。

「(瀬川ってこの映画好きだったっけ?)」

瀬川と言えばSFなど科学的に近未来を描いた作品が好きだったはずだ、中世チックな魔法ものなど好む傾向にあるとは思えなかった。



魔法映画シリーズのエリアに入ると愛里は快の隣で目を輝かせていた。
その表情を見た途端、快は瀬川への疑問など忘れて愛里を愛おしく感じるのに心が全て持っていかれた。

「凄い、学園行きの汽車だよ……っ!!」

小声で快の袖を掴みながら興奮気味に発言する愛里。

「写真撮りたい?」

「うん、うんっ!」

映画に出てくる本物そっくりなジオラマに喜びを隠せない愛里。
すると一方で他の班員は。

「俺あんま詳しくないけど再現度すげーんだろうな」

委員長が先導し先へ進んで行く班員たち。
この映画が好きだと言っていた瀬川も汽車には目もくれず進んで行った。

「あ、ちょ……」

そこで快はようやく勇気を振り絞り声をかけた。

「あの!与方さんのために写真撮って良いかな……?」

だんだんと声が弱くなって行くが彼らもギリギリ聞こえたようで顔を見合わせる。

「ん?ま、まぁ良いんじゃね?」

委員長はやはり少し距離を感じる喋り方で返事をしてくる。
その話し方が違和感でやはり少し悲しくなるが写真を撮る許可は得たので良かった。

「じゃあ撮るよー!」

愛里のために写真を撮って行くがその最中にも背後から冷たい視線を感じる。

「……っ」

決してそんな事は無いのだろうが快はネガティブになってしまいどうしても"早くしろ"と言われているように感じてしまった。

「ありがとう、後で写真送ってね」

「もちろん……」

写真を撮り終えた愛里がこちらにやって来て言うが快の喋り方に少し違和感を覚える。
そしてすぐにその答えに気づいた。

「あ……」

楽しそうにはしゃいでいる所を自分を避けている人達に見られていたと思うと急に恥ずかしくなる愛里。

「ご、ごめんなさい……」

咄嗟に謝罪の言葉を口にしてしまった。

「や、何で謝るのさっ!そんな必要ないよ……!」

そう言うが背後にいる班員たちの反応が気になって恐る恐る振り返る。
すると彼らは少し困ったような表情をしていた。

「…………」

それでいて無言なのだ、愛里の謝罪をまるで正当なものとして受け入れているような風に感じる。

「ま、まぁとりあえず進もうかっ……」

委員長が場を切り替えるために気を取り直すが正直心から楽しむ余裕は既に無かった。





つづく
つづきます
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