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作者: 甲斐てつろう
#4
『ヒーローに、ならなきゃ。』
快がゼノメサイアに変身した頃。
その影響なのかTWELVEの隊員たちも一斉に記憶を取り戻した。

「「「「はっ……」」」」

一同はここがかつて抱いた理想の中だと気付いた。
だからゆっくりと立ち上がる。

「どうしたんすか先輩……?」

かつて死なせてしまった後輩が不思議そうに名倉隊長を見上げる。

「すまん、俺の居るべき場所はここじゃない……」

そう言われてキョトンとしている後輩だがその顔はとても見れなかった。

「どういう事っすか……」

「お前を忘れた事はない、でもな」

そして名倉隊長は走り出した。

「過去は過去だ、いつまでも引き摺る訳にはいかない……っ!!」

背後からは後輩の呼び止める声が聞こえるが全て無視して走り抜けた。



映画館の中で陽も真実に気付いた。

「ごめんアモン、一緒に映画みれないや……」

立ち上がった後、アモンに謝り去ろうとする。
すると背後のアモンから声を掛けられた。

「やっと気付いたか、お前の居場所見つけるんだもんな」

その言葉を聞いて少し安心した。

「そうだね、行ってきます」

そのまま映画館を飛び出し走り出した。



再度虚無感を覚えたままレースで優勝していた竜司。
いつものように女の子たちからチヤホヤされているが何処か満たされていなかった。

「……ん?」

すると初めて見るような女の子が。
彼女は小柄で花束を持って竜司の所へやって来る。

「これ、よければ貰って下さい……っ!」

彼女はなんと蘭子だった。
その姿を見て竜司は気付く。

「そっか、やっと気付いたよ」

そして蘭子から花束を受け取り、結婚すると言った仲間の姿を思い浮かべる。

「これが今の俺の理想だ……!」

そして思い切り走り出した。



一方で蘭子はゲーム大会の入場を控えていた。
仲間と共に入り口前で待機しているが考える。

「ごめんみんな、散々迷惑かけといてアレだけどさ……」

そして仲間に謝った。
これが最後のチャンスだと悟って。

「あたしがオペレーターすべきはここじゃないって分かったよ……」

そして振り向き走り出す。
仲間の静止も振り切って。





四人のTWELVE隊員はそれぞれ記憶の中で走っていた。

「お前らいるか⁈」

「隊長⁈」

「ここに居ます!!」

見えているのは自らの記憶だが互いの声はハッキリと聞こえている。
すぐそこに仲間がいるのだ。
しかしやはりルシフェルの声も邪魔してくる。

『待て!お前らもソレでいいのか⁈』

一人ひとりに直接攻撃を仕掛けて行く。
まずは名倉隊長だ。

『せっかく後輩と仲良くなれたのに覚めていいのか?他に誰がお前を認めてくれる⁈』

「ぐっ……」

まるで向かい風が吹くかのように前に進みづらくなってしまう。
次は陽にも同じような攻撃をした。

『見つかるかも分からない居場所を探して親友を捨てていいのか?』

「アモン……っ」

次は竜司へ。

『現実じゃ誰もお前の心なんて見てくれなかったろ』

「言ってくれるじゃねぇか……っ」

最後は蘭子だ。

『今いる奴らもお前のことを褒めてくれたか⁈』

「うぅっ……」

どんどん四人の食らう向かい風が強くなって行く。
既にこれ以上進めそうもない状態だが諦めてはいない。

「っ……⁈」

すると前方に眩い光が見えた。
何者かの手がこちらに向かって伸びている。

『何だ……⁈』

ルシフェルも驚いているがTWELVEにはこの手の正体がすぐに理解できた。

「(そうだ、俺たちの今がある理由……!)」

そして全員がその手を取り光の中へと入り込んで行った。
その先に居たのは四人とも想像していた人物。

「俺を認めて組織に誘ってくれたのは……」

「一緒に居場所を探してくれてるのは……」

「中身を見て選んでくれたのは……」

「ちゃんと褒めてくれたのは……」

その人物の顔を見た瞬間、組織に誘ってもらった時の記憶を思い出す。
名倉隊長はこう言われた。

『君の気持ちは分かってるよ、上手く表せないだけなんだよね』

陽は紛争地域で彼に出会った。
アモンが死に焦燥していた時の事である。

『一緒に来ないかい?居場所を探そう』

竜司はレーサーを引退し本当に何もかも無くなってしまっていた時に声を掛けられた。

『車の腕だけじゃない、君の心が必要なんだ』

そして蘭子はゲーム大会で負けて落ち込んでいた時に出会っている。

『今のチームメイトとは違う、ここに来ればちゃんと褒めてもらえるよ』

酷く焦燥している時にそんな優しい言葉を掛けてくれた人物。
その正体とは。


「「「「新生さんっ!!!」」」」


Connect ONE長官であり彼らを誘い認めてくれている唯一の人物であった。
新生は彼らのイメージの中でゆっくりと力強く頷く。

『なるほどな……』

ルシフェルは何かを察したように並んだ四人に問い詰める。

『お前ら何故過去よりソイツを選ぶ?幸せになれる保証はないんだぞ?』

すると名倉隊長が皆の想いを代弁するように答えた。

「過去は過去、今は今だ」

そのまま他の隊員たちの顔を見て続けた。

「失ったものをいつまでも嘆くんじゃない、その時他に側に居てくれるものに寄り添う事が大切なんだ」

そして背後には愛の海が現れる。

「だろ、お前ら?」

「「「あぁ!」」」

同じ想いを持つ彼らは一斉に愛の海に飛び込んだ。
するとその姿がそれぞれの機体に変わっている。

「TWELVE隊長、名倉雄介!タンク・タイタン、出る!」

「陽・ドゥブジー!ウィング・クロウ、出る!」

「早川竜司!ライド・スネーク、出る!」

「茜 蘭子!キャリー・マザー、サポートするよ!」

そのままゼノメサイアに合流しデモゴルゴンとの決戦に臨んだのだ。





ゼノメサイアと合流したTWELVEは共にデモゴルゴンに立ち向かった。

『ハッ……⁈』

援護射撃をしてもらい自分の他にもTWELVEがこの空間に囚われていた事を知るゼノメサイア。
しかし今は共に目覚めた存在同士、協力する以外の道はない。

「君も居たのか、共に戦うぞ!」

その声が開戦の狼煙となった。

『デヤッ!』

他の何とも例え難い異形の天使のような姿をしたデモゴルゴンに海中で攻撃を仕掛ける。

「ピュォォォンッ……」

一度攻撃して分かった、戦闘力はそこまで高くはない。
このまま押し切れば倒せると言う事だ。

「ピィイイイイッ!!!」

しかし油断は禁物。
両手に付いている穴のような部位から衝撃波を放って来たのだ。

「くっ……」

それでも冷静に対処すれば良い。
一同はオペレーターの蘭子に指示を求めた。

「蘭子ちゃん!指示をくれ!」

そう言われた蘭子はハッとする。

「(そうだ、ここの人達はあたしを見下したりしない……!!)」

彼らを信じる事にした。
持ち前の判断力で指示を出す。

「ウィング・クロウとライド・スネークは両サイドから近付いて衝撃波を撃つ穴を攻撃して!その隙を作るのはタンク・タイタン!ミサイルで注意を逸らして!!」

その的確な指示に一同は頷いた。

「「「了解っ!!」」」

そして蘭子の指示通りに行動。

「多連装ミサイル発射!!」

名倉隊長のミサイルは見事にデモゴルゴンの注意を逸らし他二人に近付く隙を与えた。

「よっしゃ行くぜ!!」

そして一気に近づいたウィング・クロウとライド・スネークがそれぞれ衝撃波の放たれる穴を破壊。
これでヤツはもう同じ衝撃波を放てない。

「今だゼノメサイア!!」

名倉隊長が叫ぶ。
その声をしかと受け止めたゼノメサイアはエネルギーを溜める。
そして一気に解き放った。

『ライトニング・レイ!!!』

神の雷は一直線に進みそのままデモゴルゴンに命中。
大爆発を起こし勝利を収めた。

『やった……』

次の瞬間、夢の主が消えた事で一同の意識は次々と途絶えて行く。
そして次に目を覚ます時は現実世界にいるのだ。





目を覚ますとTWELVEの彼らは軍用車両エリヤの中にいた。
しっかりパーキングエリアに停められている。

「みんな無事か……?」

名倉隊長が声を掛けると一同は返事をする。

「大丈夫です……」

「ちょっと疲れたけどな」

寝起きのような顔をしている彼らの姿を見て蘭子が笑った。

「ってかあんたら!寝ぐせヒドっ!あはは!」

このように楽しそうに笑う蘭子を見たのは初めてかも知れない。

「蘭子ちゃんだって!爆発してるよ!」

楽しそうな声が車両内で響いていた。

「くくくっ……」

運転席にいた名倉隊長も可笑しくて思わず笑ってしまう。

「てか隊長がまともに喋ったの初めて聞いたかも!夢の中だけど!!」

そう言われて少し恥ずかしくなるが仲間との距離が縮まった感じがして悪い気持ちでは無かった。



そして自室で目を覚ました快はゆっくりと起き上がり美宇の部屋へ。
扉をノックしてから部屋に入ると真っ暗な中で布団を被っている姉の姿があった。

「(まだ話したくないか……)」

快と違いまだ気持ちが晴れない姉の気持ちを察して簡単に伝えるだけにする。

「みう姉、俺間違ってたよ」

布団の中に向けて喋る。

「今歩み寄ってくれてる人を大切にすべきだよね。俺もこれから頑張るからさ、見ててよ」

それだけ言い残して扉を閉める。

「…………」

布団をかぶりながら聞いていた美宇は少し穏やかな表情をしていた。

そして快は思う。
今大切なのは瀬川や愛里だと言う事。

「(まずは瀬川と仲直りしないと。そして与方さんも傷付いてるだろうから俺が癒すんだ……)」

そう覚悟を決めてこれからの学校生活を送る事を誓うのだった。

次界から快は自ら人々に歩み寄る事を選ぶ。





つづく
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