#2
『ヒーローに、ならなきゃ。』
『現実はこんなに上手く行かない、分かってるでしょ……?』
愛の海の中で謎の声が響いていた。
『甘い夢に縋ってちゃダメだよ、いつかは前を向かないと……!!』
しかしその声はハッキリとは届かない。
夢を見ているそれぞれに聞こえてはいるが小さな幻聴程度である。
「また幻聴か……」
夢の中で快は両親と共に食卓を囲んでいる。
幸せそうな笑顔が絶え間なく浮かんでいた。
「大丈夫?ちょっと休んだら?」
幻聴を耳にした快を心配しながら両親は休む事を提案する。
「そうだね、ちょっとそうさせてもらうよ」
そう言いながら自室に戻る快に父親は言った。
「いつもヒーロー頑張ってくれてるからな、たまには休んでくれよ」
何処までも快にとって都合の良い事を言ってくれる父親。
そんな彼に感謝の言葉を告げてから快は自室に入りベッドに横になった。
「……誰なの?」
そして天に向かって話し掛ける。
返事が来るかは分からなかったが幻聴の正体が知りたいため何となく話してみる事にしたのだ。
すると。
『聞こえてた……!お願い目を覚まして!』
明らかに快の言葉に反応したような言動を見せた。
「目を覚ますって……?」
『この世界は現実じゃない!都合の良い夢を見てるだけなの!』
まだ少し雑音が混じっているが何となく言っている事は分かった。
「…………」
しかし快にとってはあくまで幻聴。
無視して布団をかぶった。
「……夢くらい見させてくれよ、ここまで辛かったんだからさ」
果たしてこの快の言葉はどんな心境から放たれたものなのだろうか。
ここが夢だと理解しているようにも思えれば冗談のように幻聴をあしらっているようにも聞こえる。
☆
快の言う通り甘い夢を見ていたい者たち。
名倉隊長は部下と共に多くの命を救った英雄として表彰されていた。
「ここに表彰する」
賞状を受け取り敬礼した後カメラに撮られる二人。
新聞にも乗り二人は絶好調だった。
その新聞を見ながら語り合っている。
「俺たち英雄っすよ!」
「これで俺も認められる……」
安堵するように息を吐く名倉隊長。
その後に部下が続けた。
「これだけ多くの命を救えて感無量です」
彼のその言葉を聞いた名倉隊長は反応を見せた。
「そうか、お前は人を助けたいんだったな」
無意識にそんな言葉が出た。
すると部下はこう返す。
「先輩は違うんですか?」
「……っ!」
逆に問われてしまい狼狽える名倉隊長。
「俺は……」
そこで謎の幻聴が聞こえる。
『思い出して、ここは夢の中!時々本当の貴方が見えるでしょ?』
その声の正体も言っている意味も分からず頭を抱えてしまう。
「(何だ?俺は何を考えている……?)」
何か頭の中にある大切なものがスッポリ抜けてしまっているような感覚が幻聴によりもたらされる。
・
・
・
一方で他の者たちにも謎の声は聞こえていた。
『お願い、現実を見て!』
その声を聞いて悩んでいた陽はアモンと共に映画館に入っていた。
まだ上映前のためなのか他に人はいない。
「おい陽、どうしたボーッとして?」
「あっ、ごめん……」
気を取り直して陽はアモンと二人で映画を見るのを楽しもうとする。
しかしまだ上映まで時間があるようで話す機会があった。
「なぁ、お前は今が満足か?」
「どういう事……?」
突然アモンがスクリーンの方を向いたまま意味深な事を言い出した。
「紛争終わらせてこうして二人だけの世界を夢見てる。見ろよ、周り誰も居ねぇぞ。世界を貸切状態だ」
確かにここに来るまで他の誰も目に入っていない。
「だって他の人は怖いから。今まで僕に優しくしてくれたのは君だけなんだ……」
過去の辛さを思い浮かべながら何処か自分に嘘をつくような雰囲気で語る陽。
「……そうか」
その瞳に映るスクリーンはまだ何の像も映してはいなかった。
・
・
・
相変わらず竜司はレースで優勝し美女たちと肩を組んで記念写真を撮影していた。
「イェーイ!」
そして他の選手も交えて高級そうなバーを貸し切り酒を飲んでいた時。
「どうした?最近女の子に対応悪くね?」
レーサー仲間の一人が近寄る女の子を拒絶していた。
その事を問うと意外な返事が来たのである。
「俺、結婚するんだ。他の女の子とは遊ばないって決めた、だから今日でここに参加するのも最後な」
結婚。
その言葉を聞いて竜司は目を見張る。
「レーサーとしての腕だけじゃない、きちんと俺の内面を愛してくれる人と出会えたんだ」
更にその言葉は竜司の心を抉る。
何故かは分からない、ただ無性に胸に空いた虚無感が全身にまで広がり悪寒すら感じた。
「俺はどうすんだろうな……」
淡い夢の中のはずだと言うのに何故か虚しさが心を襲っていた。
・
・
・
一方蘭子はゲームの大会の決勝戦の控室に居た。
「はむはむっ、よし」
ドーナツとコーヒーを口に含んで準備を整える。
しかしそんな時に例の幻聴が聞こえた。
『虚しさに気付いて、貴方たちはもうきっかけに出会っているのに!』
先程から聞こえ続ける幻聴に蘭子は頭を悩ませていた。
「ウザっ、何なのこの声……」
頭を抱えていると仲間が心配そうに声を掛けて来る。
「大丈夫か蘭子?もし辛いんなら今回は休んでて良いぞ……」
休憩を諭して来る仲間の言葉に蘭子は思わず声を荒げた。
「ダメ!あたしの存在意義を証明しないと、今度こそ!!」
しかし仲間はその言葉に疑問を覚える。
「"今度こそ"ってどういう事だ……?」
「え……?」
そこで蘭子は違和感に気付いた。
勝ち続けていると言うのにこの胸にはポッカリと穴が空いているような感覚があるのだ。
「何で……?何でこんなに辛いの……?」
訳も分からず涙が溢れて来る。
理由は不明だが心の穴がそうさせるのだろうか。
☆
一方ここは巨大な聖杯の聳える闇のような咲希の部屋。
パソコンからデモゴルゴンが見せる夢の中をチェックしていた。
「マズいね、ヤツが邪魔してる」
ヤツとは幻聴の事だろうか。
「ルシフェル、アンタ行ってくれる?」
ソファに座っているルシフェルに協力を要請した。
しかし明らかに嫌そうな顔をするルシフェル。
「はぁ?何でまたアイツと会わなきゃ行けねーんだよ、せっかく今回は違うヤツで済んだと思ってたのにぃ!」
悪態を吐きまくる。
しかし咲希は何とか説得しようとした。
「でも今のヤツに前みたいな力は無いでしょ?ほら、リベンジするチャンスだよ」
そう言われて渋々ルシフェルは立ち上がる。
「だー!分かったよ!クソッ、最悪な気分だ……」
その手足は震えていた。
咲希はそれを嘲笑するように言った。
「大天使さまが震えてるとはね」
「うるせぇ!これは武者震いだ……」
そしてルシフェルは覚悟を決める。
「はぁぁっ!!」
そのまま意識を飛ばし自身の精神をデモゴルゴンの中に転送した。
・
・
・
そしてここは愛の海の中。
デモゴルゴンからルシフェルの意識が現れる。
『ふぃー、罪獣に取り憑くのはまた変な感じするな』
見上げると彼の恐れる存在が居た。
『よぉ、久しぶりじゃねーか』
彼の話しかけた先にいる者。
それは快の精神だった。
精神世界の快が身につけているゼノメサイアに変身するためのグレイスフィアに話しかけている。
『…………』
するとそのグレイスフィアから声が聞こえた。
『ルシフェル、邪魔しないでよ……』
まさに今快たちの聞いている幻聴の声だった。
それはルシフェルの意識に反応しそちらに声を発したのだった。
愛の海で出会った彼らの心の行方は何処へ向かうのだろうか。
つづく
愛の海の中で謎の声が響いていた。
『甘い夢に縋ってちゃダメだよ、いつかは前を向かないと……!!』
しかしその声はハッキリとは届かない。
夢を見ているそれぞれに聞こえてはいるが小さな幻聴程度である。
「また幻聴か……」
夢の中で快は両親と共に食卓を囲んでいる。
幸せそうな笑顔が絶え間なく浮かんでいた。
「大丈夫?ちょっと休んだら?」
幻聴を耳にした快を心配しながら両親は休む事を提案する。
「そうだね、ちょっとそうさせてもらうよ」
そう言いながら自室に戻る快に父親は言った。
「いつもヒーロー頑張ってくれてるからな、たまには休んでくれよ」
何処までも快にとって都合の良い事を言ってくれる父親。
そんな彼に感謝の言葉を告げてから快は自室に入りベッドに横になった。
「……誰なの?」
そして天に向かって話し掛ける。
返事が来るかは分からなかったが幻聴の正体が知りたいため何となく話してみる事にしたのだ。
すると。
『聞こえてた……!お願い目を覚まして!』
明らかに快の言葉に反応したような言動を見せた。
「目を覚ますって……?」
『この世界は現実じゃない!都合の良い夢を見てるだけなの!』
まだ少し雑音が混じっているが何となく言っている事は分かった。
「…………」
しかし快にとってはあくまで幻聴。
無視して布団をかぶった。
「……夢くらい見させてくれよ、ここまで辛かったんだからさ」
果たしてこの快の言葉はどんな心境から放たれたものなのだろうか。
ここが夢だと理解しているようにも思えれば冗談のように幻聴をあしらっているようにも聞こえる。
☆
快の言う通り甘い夢を見ていたい者たち。
名倉隊長は部下と共に多くの命を救った英雄として表彰されていた。
「ここに表彰する」
賞状を受け取り敬礼した後カメラに撮られる二人。
新聞にも乗り二人は絶好調だった。
その新聞を見ながら語り合っている。
「俺たち英雄っすよ!」
「これで俺も認められる……」
安堵するように息を吐く名倉隊長。
その後に部下が続けた。
「これだけ多くの命を救えて感無量です」
彼のその言葉を聞いた名倉隊長は反応を見せた。
「そうか、お前は人を助けたいんだったな」
無意識にそんな言葉が出た。
すると部下はこう返す。
「先輩は違うんですか?」
「……っ!」
逆に問われてしまい狼狽える名倉隊長。
「俺は……」
そこで謎の幻聴が聞こえる。
『思い出して、ここは夢の中!時々本当の貴方が見えるでしょ?』
その声の正体も言っている意味も分からず頭を抱えてしまう。
「(何だ?俺は何を考えている……?)」
何か頭の中にある大切なものがスッポリ抜けてしまっているような感覚が幻聴によりもたらされる。
・
・
・
一方で他の者たちにも謎の声は聞こえていた。
『お願い、現実を見て!』
その声を聞いて悩んでいた陽はアモンと共に映画館に入っていた。
まだ上映前のためなのか他に人はいない。
「おい陽、どうしたボーッとして?」
「あっ、ごめん……」
気を取り直して陽はアモンと二人で映画を見るのを楽しもうとする。
しかしまだ上映まで時間があるようで話す機会があった。
「なぁ、お前は今が満足か?」
「どういう事……?」
突然アモンがスクリーンの方を向いたまま意味深な事を言い出した。
「紛争終わらせてこうして二人だけの世界を夢見てる。見ろよ、周り誰も居ねぇぞ。世界を貸切状態だ」
確かにここに来るまで他の誰も目に入っていない。
「だって他の人は怖いから。今まで僕に優しくしてくれたのは君だけなんだ……」
過去の辛さを思い浮かべながら何処か自分に嘘をつくような雰囲気で語る陽。
「……そうか」
その瞳に映るスクリーンはまだ何の像も映してはいなかった。
・
・
・
相変わらず竜司はレースで優勝し美女たちと肩を組んで記念写真を撮影していた。
「イェーイ!」
そして他の選手も交えて高級そうなバーを貸し切り酒を飲んでいた時。
「どうした?最近女の子に対応悪くね?」
レーサー仲間の一人が近寄る女の子を拒絶していた。
その事を問うと意外な返事が来たのである。
「俺、結婚するんだ。他の女の子とは遊ばないって決めた、だから今日でここに参加するのも最後な」
結婚。
その言葉を聞いて竜司は目を見張る。
「レーサーとしての腕だけじゃない、きちんと俺の内面を愛してくれる人と出会えたんだ」
更にその言葉は竜司の心を抉る。
何故かは分からない、ただ無性に胸に空いた虚無感が全身にまで広がり悪寒すら感じた。
「俺はどうすんだろうな……」
淡い夢の中のはずだと言うのに何故か虚しさが心を襲っていた。
・
・
・
一方蘭子はゲームの大会の決勝戦の控室に居た。
「はむはむっ、よし」
ドーナツとコーヒーを口に含んで準備を整える。
しかしそんな時に例の幻聴が聞こえた。
『虚しさに気付いて、貴方たちはもうきっかけに出会っているのに!』
先程から聞こえ続ける幻聴に蘭子は頭を悩ませていた。
「ウザっ、何なのこの声……」
頭を抱えていると仲間が心配そうに声を掛けて来る。
「大丈夫か蘭子?もし辛いんなら今回は休んでて良いぞ……」
休憩を諭して来る仲間の言葉に蘭子は思わず声を荒げた。
「ダメ!あたしの存在意義を証明しないと、今度こそ!!」
しかし仲間はその言葉に疑問を覚える。
「"今度こそ"ってどういう事だ……?」
「え……?」
そこで蘭子は違和感に気付いた。
勝ち続けていると言うのにこの胸にはポッカリと穴が空いているような感覚があるのだ。
「何で……?何でこんなに辛いの……?」
訳も分からず涙が溢れて来る。
理由は不明だが心の穴がそうさせるのだろうか。
☆
一方ここは巨大な聖杯の聳える闇のような咲希の部屋。
パソコンからデモゴルゴンが見せる夢の中をチェックしていた。
「マズいね、ヤツが邪魔してる」
ヤツとは幻聴の事だろうか。
「ルシフェル、アンタ行ってくれる?」
ソファに座っているルシフェルに協力を要請した。
しかし明らかに嫌そうな顔をするルシフェル。
「はぁ?何でまたアイツと会わなきゃ行けねーんだよ、せっかく今回は違うヤツで済んだと思ってたのにぃ!」
悪態を吐きまくる。
しかし咲希は何とか説得しようとした。
「でも今のヤツに前みたいな力は無いでしょ?ほら、リベンジするチャンスだよ」
そう言われて渋々ルシフェルは立ち上がる。
「だー!分かったよ!クソッ、最悪な気分だ……」
その手足は震えていた。
咲希はそれを嘲笑するように言った。
「大天使さまが震えてるとはね」
「うるせぇ!これは武者震いだ……」
そしてルシフェルは覚悟を決める。
「はぁぁっ!!」
そのまま意識を飛ばし自身の精神をデモゴルゴンの中に転送した。
・
・
・
そしてここは愛の海の中。
デモゴルゴンからルシフェルの意識が現れる。
『ふぃー、罪獣に取り憑くのはまた変な感じするな』
見上げると彼の恐れる存在が居た。
『よぉ、久しぶりじゃねーか』
彼の話しかけた先にいる者。
それは快の精神だった。
精神世界の快が身につけているゼノメサイアに変身するためのグレイスフィアに話しかけている。
『…………』
するとそのグレイスフィアから声が聞こえた。
『ルシフェル、邪魔しないでよ……』
まさに今快たちの聞いている幻聴の声だった。
それはルシフェルの意識に反応しそちらに声を発したのだった。
愛の海で出会った彼らの心の行方は何処へ向かうのだろうか。
つづく
つづきます