▼詳細検索を開く
作者: 鈴奈
1
「消えた!」
「どこに行った⁉」
 
 警備員たちが懸命に走る。どうやら、ジャックが消えたらしい。
 死神本社に所属する死神は、人間に死神の存在がバレないよう、細心の注意を払う。ジャックははぐれ死神だから――というわけではなく、ただ単に阿呆でデリカシーがない男ゆえに、唐突に消えるといった摩訶不思議現象を起こしやがったのである。
 今後絶対、こっちの世界でジャックと関わるまい。私のキャリアが脅かされかねない。
 
 皇は体を離し、「人の多いところに行きましょう。周りの目がある程度あった方が安全なので」と言った。

 部活動の屋台の近くにある、特設の飲食コーナーの一席に座った。皇が持ってきた水筒を取り出し、湯気の立つお茶をコポコポとカップに注いだ。
 
「どうぞ。ほうじ茶です」

 香ばしい香り。渋みのある、ほっこりとした濃い味。
 ほっと落ち着いた。
 これが、ジャパニーズ・ほうじ茶……。はじめて飲んだ。美味しい。
 飲みながら、皇はジャックのことを根掘り葉掘り聞いてきた。私の答えたことをサラサラとメモに取り、「警察に届けた方がいいと思います」と言った。

「それから、一つ質問させてください。
 あの人がキルコさんの恋人ではないことは分かったのですが……。
 キルコさんは現在、恋人はいますか? すみません。今更こんな確認をして」

「いません」

「そうですか。では、過去の恋愛経験についてお聞きしてもいいですか? 過去に恋人は? 好きな人でもいいのですが」

「恋愛感情として誰かを好きになったことはありません。恋は軽薄なもの。汚らわしい感情です」

「なにか、そう考える理由や経緯があったんですか?」

「あの男をはじめ、私に近づいてくる男たちがそうでした。自分の欲望の捌け口にするために、私を手に入れようと下心丸出しの言動をする。そういった言動が私を軽んじていることに気付きもしないで。本当に、愚かです」

 恋は下心、愛は真心なのだと、いつかの「ひおさんぽ」で緋王様が言っていた。
 そんなことに気付く緋王様の知的さに胸キュンし、漢字文化の素晴らしさに尊敬の念を抱いたから、よく覚えている。
 まさにその通りだと思う。
 そして、下心の塊である恋は、もはや害悪であるとさえ思う。
 一途に無償の愛を注ぐ推しへの愛こそ、最も崇高で素晴らしいものなのだ。

        ✦ ✦ ✦


 んっふふふ……。
 早速、スマホで皇を大量に撮らせてもらった……!
 愛する自室で、黒いソファに寝そべりながら、私はスマホの画面に見入っていた。
 カメラ目線、どこか遠くを見ている横顔、慣れないピース、無表情で完璧な角度の指ハート、そして微笑と指ハート! 笑顔がぎこちなくて可愛い! 萌え!
 指を画面の上で滑らせるだけで、いろんな皇が次々に出てくるのが幸せでならない! 顎のラインが綺麗すぎて。これをつまみに酒が飲める!
 ツーショットも撮ったが、皇だけの写真を眺める方が幸福度が高い。消してしまおうかと思ったが、なんだか惜しい気もする。表示の順番を変えられたらいいのに。

「キリィ〜〜〜〜!!」

 ……ジャック。いい気分の時に、のこのこと……。
 
 ジャックは、「相っ変わらず、足の踏み場がねえなぁ」と言いながら、床に散らばる日本酒の瓶を蹴り散らし、私にずかずか近づいてきた。

「近づかないで」

「これを見ろ! ジャパニーズ・土下座!!」

「死んで」

「そんなぁ……。
 じゃあ、また欲しいもの言えよ! なんでも持ってきてやる! だから、機嫌直してくれよ、キリィ~!」

「何をしても、私を汚らわしく触ったことは一生許さない」

「好きな相手の体なんて、見たいし触りたいし、むしゃぶり尽くしたいだろ、普通? キリィも本当は俺の体に触りたいって思ってるくせによぉ……。
 ほら、いいぜ? 素直になって触れよ、この筋肉を! 愛するキリィにならいくらでも」

「気持ち悪い。死んで」

「とか言って、俺のやったスマホ、嬉しそうに使ってんだよなぁ……。ほんと、可愛い女だぜ。俺のやったもんも飾りまくって…………って、あ⁉
 あいつ! キリィの隣にいた野郎! なんで写真飾ってんだ⁉
 も……もしかして、キリィ…………! あ、あああああ、あの男を!?!?」
 
「うるさい」

 床の上に散らばっていた空き瓶とつまみのゴミがゆらりと浮かぶ。そして、一斉にジャックの方に向いた。

「去れ!」

 ゴミたちがジャックに勢いよく飛びかかる。

「ギィヤァアアアアアアアアア!!!!!」

 ジャックは一目散に逃げ出した。ゴミは永遠にジャックを追っていった。

 ふぅ。サッパリした。久しぶりに掃除ができた。
 さて、「ひおさんぽ」を観て、心も掃除をするとしよう。

         ✦ ✦ ✦


 火曜日。
 月曜日が文化祭の代休だったために、久しぶりに生皇を見ることができた。
 うちわを掲げ、『顔みせて!』といつものように素顔を拝む。メガネを取り、前髪を掻き上げる皇に今日も萌えた。朝のハデスの電話攻撃によるストレスが半分減った。
 さて、今日はなんのファンサを頼もうか。
 毎回同じだと貴重感が薄れるので、このごろは新しいものを取り入れているのだが、やり尽くした感がある。
 まだやっていないもの…………。緋王様のライブの時に見かけたものを一つ一つ思い出す。
 脳裏にすごいものが浮かんで、思わず、クワッと目が開いた。

『脱いで!』

 あのうちわはすごかった。
 過激。だが……分かる。
 拝みたい。拝み倒したい。
 衣装をはだけさせ、美しき肉体を魅せる緋王様のライブ映像に一体何度悲鳴をあげたことか!
 この前のライブでは叫びすぎて頭が真っ白になった……!
 推しの体は世界一美しいっ!!
 私はジャックみたいなムキムキした体は大嫌いだが、緋王様のようないわゆるジャパニーズ・細マッチョは大大大大大好物である。
 控えめな筋肉こそ美! 細マッチョイズ造形美!
 
 皇の体も、美しいのだろうか……。
 ハグをした時、なかなか引き締まっている感じはした。だが、ただ細身なだけかもしれない。
 見たい。気になる。でも、『脱いで!』と要求するなんて、そんな下心を晒す下品なことはしたくない。
 そういえば、あと三週間ほどでプールの授業があるという。そこで拝めるのを待とう。
 だとすると、今日は何を要求しようか……。

 ……ん? 
 そうだ。皇の体の一部分で、素晴らしく美しい部位があるではないか。しかも、そこを見せろと言ったところで『脱いで!』よりも下心感がない!
 私ははやる胸に動かされるようにノートにサラサラと要求を書いた。
 そして、ちょうどこちらを振り向いた皇に、ノートを見せた。
 
『鎖骨見せて!』

 皇はポカン、とした。はてな顔のまま、シャツのボタンをぷちぷちと外す。
 そして、ちらっと襟をめくった。

 ぐふっ! よだれが……! 
 体の底から萌えが込み上がる。口を押さえて慌てて呑み込む。
 
 …………はぁ。
 ご馳走様です……。

        ✦ ✦ ✦

 昼休みのはじめに文化祭関連の集まりがあるとかで、私は先に屋上に向かった。
 フェンスから下を眺めながら、今日はどうやって皇を殺そうかと、ぼんやり思案を巡らせる。

「よぉ、キリィ!」

 背後からの声に驚き振り向く。我が校の制服を纏ったジャックが眼に映る。
 ガシャン!
 ジャックの両手が、私の逃げ場をなくすように、乱暴にフェンスを掴む。
 ジャパニーズ・壁ドン、両手バージョンだ……。
 なんてことだ……。日本の素晴らしきサブカル文化から生まれた萌えシチュエーションのはずなのに……!
 萌えない! まったく萌えない! 嫌悪感しかない!! 心臓の奥がゾワゾワする!

「離れて、気持ち悪い!」

 足で蹴り飛ばしてやりたかったが、こいつの分厚い筋肉に効くはずがない。靴が汚れるのもいやだ。

「そう言うなって。お前の仕事、手伝いに来たんだぜ?
 皇 秀英。あいつ、標的なんだろ?」

 私のいない間に私の部屋に入って資料を盗み見たのか。

「必要ない」

「東洋支部の死神たちが十年間逃し続けた標的、だっけか? さすがのキリィでも手こずってんだろ? 仕事を受けた日から三ヶ月も経ってるじゃねぇか。いつものキリィなら、一瞬でかたをつけるのによぉ。キリィ一人じゃ難しいってことだろ?
 俺があいつを引き付けておいてやる。その隙に魂を回収しろ。俺が手伝ったことは報告しなければいい。手柄は全部キリィのものにすればいい。俺はお前のためならなんでもできるぜ。愛してるからな」

「結構。私一人でできる。余計な手出ししないで」

「いいから一回やってみようぜ? 絶対うまくやってやるからよ。
 あーキリィの体がやわらかくて、やるやる言ってたらムラムラしてきたぜ……
 なぁ、絶対うまくやってやるから、先に一発ヤらせろよ。断り続けてきたことを後悔するくらい、めちゃくちゃに愛してやるぜ、キリィ」

 舐め腐って。
 体の底から、怒りの雷が湧き上がる。
 黒焦げにしてやる――!
 と、思ったその時だった。

「キルコさんから、離れろ」

 皇の手が、ジャックの肩を掴んでいた。

「来たな」

 ジャックはフェンスから手を離すと、肩にある手を振り払い、皇と向き合った。

「制服を着て侵入してきたのか」

「黙れ人間。俺と、決闘しろ!」

 決闘?
 それが「引きつけておく」の意味だったのか?
 馬鹿すぎる……。

 皇は、表情一つ変えず、蔑むような目でジャックを見ていた。

「理由を端的にどうぞ」

「人間ごときが俺に指図するな。キリィのためにお前を殺す。それだけだ!」

 皇は首を傾げた。だが、話が通じないと察して諦めたのだろう。
 冷静にジャックを見据えた。
 
「じゃあ、好きにかかってきてくれていい。僕は護身しかしない。ただし、僕が勝ったら、二度とキルコさんに近づくな」

「人間ごときが俺に勝てるわけねぇだろ。お前は死ぬ。今、ここでな!」

 ジャックはブレザーと白いシャツを脱ぎ捨てた。
 パンパンに膨らんだ筋肉が太陽の光に照らされる。おえっ、気持ち悪い。
 190㎝をゆうに超える屈強な筋肉男に見下ろされる、180㎝の細身の皇。
 一見、体格差だけで勝敗が分かるようなビジュアルである。
 
 皇は、メガネを取り、ポケットに入れた。
 前髪から透ける目が、鋭く、ジャックを睨んだ。

 か…………かっこいい…………っ!
 真面目な顔に怖さを加えたような戦闘モードの表情! いいっ……! いつものやわらかい皇とのギャップがたまらない……っ! 萌えっ!!

「死ね!!」

 ジャックがこぶしを唸らせ、皇に殴りかかった!
 皇は動かない。こぶしが、皇の美しい顔面に迫る。
 あと1mmで触れてしまう――と思った、その時。
 皇が、体を斜め前に逸らし、ジャックの手首を捉え、ぐるんとジャックを投げ飛ばした!

「…………はっ⁉」

 背中を打ちつけられたジャックは、わけが分からないという顔をしていた。
 皇は冷たく見下ろしたまま、ジャックから手を離し立ち上がる。
 かっこいい……!

「まだだ!」

 ジャックがしつこく立ち上がり、皇に殴りかかる。皇は後退しながらすっすっと避けると、一定の間合いになった瞬間、伸びてきたジャックの腕を思い切り蹴り上げた!
 美!!!!

「くっ……!! まだだこの野郎!!」

 掴み掛かろうと迫るジャックの胸ぐらが皇の細い手に掴まれる。さっと足が払われて、ジャックの背筋は再びコンクリートの地面に打ちつけられた。

「……かっ………………! な、なんだ、てめぇ……! ひょろひょろのくせに、な、なんで……!」

 やはり。この馬鹿のことだ。資料を最後まで読んでいないだろうと思っていたが、その通りだった。

「合気道、空手、柔道、少林寺拳法、剣道、弓道。大体の武道はできますので」

『襲いかかる刺客たちをそれらの武道で倒してしまうため、接近戦は不可。』
 そう資料に書いてあったのに。
 本当に脳みそのない馬鹿な男。反吐が出る。

「それと、それらを完璧にこなすためにある程度の筋肉量は必要だから」

 皇が、ネクタイをとった。
 静かに、シャツのボタンを外す。

「ちゃんと、筋肉はある」

 皇がシャツをめくる。
 中が、見えた。
 控えめながらも確かに存在する、引き締まった、美しき筋肉……!!
 
 あ……あ……あ………………。

 あぁ――――――――――――ッ!?!?!?

 叫びそうになる寸前で、咄嗟に両手で口を覆った。
 
 す、すすすすすすす、皇の、体!!
 はっ、はっ、はっ、はっ……!!
 心臓がドクドクと鳴り響いて息が上がる。
 よよよ、よすぎる……! 最高すぎる!
 好きすぎる――――――――ッ!!

「うるせぇ! 筋肉は、俺の方が上だ――ッ!」

 ジャックが腕を振り上げ、再び皇に襲いかかった。皇は、さっと体を翻してこぶしを避けると、そのまま一回転し、思い切り、しかし華麗に飛び蹴りをした!
 ジャックのみぞおちにクリティカルヒット! ジャックは宙を舞ったかと思うと、ばたりとコンクリートの床に転がった。

 ウィナー、皇!
 ジャパニーズ・武道、最高――!

「僕の勝ちだ」

 キャ――――――! 萌え――――――――――!!

「先の条件通り、二度とキルコさんに近づかないでもらう」

「……っざけんな…………! 俺は2000年、キリィを愛してきた……! キリィのことを何一つしらねぇ人間ごときが、偉ぶってんじゃねえぞ!!
 はっ……! そうだ、一つ教えてやるよ! てめぇがしらねぇキリィの秘密をな!」

 ……待て。何を言う気だ。
 まさか、私が死女神だと明かすつもりか?
 だめだ。そんなことをされたら、私のキャリアが取り返しのつかないことになる……!
 止めなければ!
 私は、天に念じた。たちまち、黒い雲が空を覆った。稲光が黒い雲からパチリと覗く。

「キリィはな……!」

「やめて!」

 雷を落とそうと念じようとした寸前。
 ジャックが、先に口を開いた!

「キリィは…………――――万年、汚部屋女だ!!!!」

 細い雷が、黒い雲からピリリとこぼれた。

「空き瓶と食べ物のゴミで足の踏み場がねぇ! そんな部屋を片付けもせずぐうたらソファに転がってやがる! キリィは、そんな女なんだよ! てめぇに、そんな女が愛せるか? 愛せねぇだろ⁉ はっ!
 キリィを愛せるのは俺だけだ!!!! キリィは俺の女なんだよ! 分かったらとっとと」

「……愛してない」

 皇が、ポツリと言った。

「はっ! やっぱり……」

「お前は、キルコさんを愛してない」

「あ?」

 皇は、表情一つ変えず、ジャックを見下していた。

「恋愛、母性愛、隣人愛、友人への愛。どの愛の定義にも共通していることがある。相手を尊重することだ。
 キルコさんの苦手な部分を取り上げ貶めるようなことを言う点からも、いやがっているのに無理やり近づいて触る行為からも、尊重の気持ちがあるとは言えない。
 よって、お前は、キルコさんを愛していない。ただの身勝手でキルコさんの尊厳を傷つけているだけだ。キルコさんを傷つける存在がキルコさんのそばにいても、キルコさんの利益になることは一つもない。
 だから二度と、キルコさんに近づくな」

 ――皇…………。

「そもそも、キルコさんはお前が一方的に付きまとってくると言っていた。それにも関わらず、キルコさんの部屋の状況が分かるということは、不法侵入をしたことを明言したということになる。不法侵入は、刑法130条の住居侵入罪だから……」

「ぐだぐだぐだぐだうるせぇ人間!!!! 俺はキリィを愛してんだよ!!!!
 茶番はやめだ! 殺してやる!!」

 ジャックが雄叫びを上げて立ち上がる。
 そして、両こぶしを握りしめた。
 手の甲から、黒い鉤爪のようなものが三本ずつ伸びる。
 これが、ジャックの鎌だった。こぶしで殺すのが好きであるがために、体に埋め込んだのだ。
 その凶器は皇には見えない。
 それでもきっと、皇ならば、ジャックの鎌にやられることはないだろう。ジャックなんかに私のキャリアが奪われることはない。

 ――だが、私の堪忍袋は、とうに切れていた!

 ごろごろと雲が鳴る。ぴかり、ぴかりと稲光がうねる。
 ジャックがこぶしを高く振り上げた瞬間。

 ピカッ!!

 激しい光が雲たちから解き放たれた。
 ジャックの掲げた鉤爪を避雷針として、どでかい怒りの稲妻が落ちた!!

 バリバリバリバリ!!

「ギィアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 悲鳴が空高く響く。
 黒い雲がゆっくりと風に誘われて去る。
 すっきりした青い空が広がった。

 黒焦げのジャックの馬鹿な口を、つま先で踏みつける。

「二度と現れないで」

 ぱちくりとする皇の手を引いて、屋上の出口に向かった。

「う、き、キリィ…………」

 情けない声が聞こえた後、ふと振り向いた皇が、「え?」と言った。

「消えてる……」

 やっぱり。本当に、どうしようもないやつだ。
 消える瞬間を皇に見られなくてよかった。

        ✦ ✦ ✦

 屋上から出ると、皇が、「大丈夫ですか」と呟いた。

「雷で、怪我をしてませんか」

「はい」

「よかったです。それにしても、今日の気候と気流で雷雲が発生するなんて……。上にアンテナがあったのに、あの人に雷が直撃したのも、理由が分かりません。何より、あの人はどこへ……?」

「そんなことより、かっこよかったです。また見せてください」

 私は、ぎゅっと両手を握って話題を逸らした。
 ふふ。さりげなく握手をしてしまった。嬉しい。
 そして、ちらりとはだける服の中を覗いた。
 うっ…………! 遠くから見るよりますますいい…………! うっすら浮かぶ腹筋の筋……! 好きすぎる……!!
 プールの時期が楽しみだ…………!

 ジャックは害悪な男だが、皇の体と格闘シーンを見せてくれたことだけは、素晴らしい功績を上げたと言っていい。
 またやらせよう。

「キルコさん。
 あの人の言っていたことですが、苦手なことは人それぞれ必ずあるので、気にしないでください。僕はキルコさんのどんなところも、全部、尊重します。キルコさんがどんな人でも、全部。
 お部屋の掃除もいつでも手伝うので、言ってください」
 
 ……今はもう綺麗だが。

 それに、神である私の空間に入ることなどできないし、私は神だから苦手なことも欠点もない。
 いろいろ突っ込むところはあったが、飲み込んだ。
 
 皇のまっすぐな気持ちが、ただ嬉しくて尊かった。

 ずっと推そう。
 私は密かに決意した。
Twitter