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作者: 星埜銀杏
第三球、宿敵との邂逅
 …――生きるか、死ぬか、その世界での出来事。

 無論、俺のドラマも常にのるかそるかだ。だが、今、目の前で展開されているソレは俺の世界など、ちっぽけな井の中の蛙だとばかりに喉元にナイフを突きつけてくるエキサイティングな出来事だった。俺の鼻の穴が、ぷくりっと拡がる。

 ロサンゼルス・ドジャースの宿敵、サンフランシスコ・ジャイアンツとの一戦。

 呂慕との対戦を明日に控えた、その日の夜の事。

 カカカ。

 マジかよ。誰が何をやってんだよ? こいつ、面白、過ぎんぜ?

 俺様を差し置き、ど派手な事件が起きてやがる。

 机に置かれた牛乳パックを手に取って一気に飲み干す。喉を乾かせてくれんぜ?

 この面白過ぎる、どえらい熱い展開にはよッ!!

 風呂上がりの俺の長い髪が、ゆらりと焔が燃えるよう立ち上る。

 カカカ。

 V-NEXTのスポーツチャンネルでメジャーリーグの試合中継を視聴していた時、ドームの天井から黄金色でキラキラした物体が、グラウンドの中心へと堕ちてきた。ソレは天使か、それとも悪魔なのか、その定理すらも分からないブツ。

 ククク。

「草野、見てる? 待ちきれずにお披露目だわよ」

 グラウンの中心から、もくもくと立ち上る土煙。

 静まりかえるドーム。

 徐々に土煙が晴れきて、そして現われる黒い影。

「呂慕英雄、見参ッ!」

 ロボットだ。いや、今風に言うならばアンドロイドだ。マジか!

 カカカ。

 そのアンドロイドの背中に乗るのは、ちびっ子でもある眼鏡女郎。……佳織だ。

 お気に入りなのか、相変わらずの赤いスカートを翻して泰然自若な態度で笑む。

「ケケケ。死にさらせ。つまんねぇ、試合してんじゃないわよ?」

 おいおい、どうした? 佳織。キャラが変ってんぞ? ケケケって俺の真似か?

「大谷・ジャイアント馬場、勝負しろ。呂慕は、お前らみたいなカネの亡者には負けん。それとも恐いか? 名もなきモブに倒されて自分の名に傷が付く事がよ」

 だから、なんだよ、そのキャラ。完全に悪役化してんぞ。佳織。

 まあ、アレだろう。人間、不満を、ため込めば、それが爆発する。爆発したあとは察しの通りだ。今の眼鏡女郎のよう暴徒と化して暴言を吐きまくる。もちろん、その後は自業自得で自滅するのが、お決まりのパターンだがな。良いのか?

 眼鏡女郎、そうなってもよ? 引くなら出来るだけ早い方が傷も浅くて済むぞ?

 まあ、俺の事じゃないから知ったこっちゃないと言えば、それまでなんだがな。

 それでも眼鏡女郎とは幼馴染みだから、いくらかは気になるが。

 兎に角。

 俺はモニターの画面を凝視して、念力だ、と目を血走らせて思いっきり見開く。

 カッと!

 すると、

 俺の願いを聞き入れた神龍〔シェンロン〕が、気まぐれにも、そこに現われて願いを叶えてくれる。一つだけ願いを言え、と言われ、ウーロンが、ギャルのパンティおくれ、といって世界を救ったよう俺も俺の世界を救う為の願いを念じた。

 土埃を吹き飛ばす為、空調が強くなったのだろう。ぶあっという重い音が響く。

 そして。

 土埃と共に可愛い赤のスカートがめくれ上がる。

 キャッ!

 また眼鏡女郎は頬をリンゴのようにも赤く染めてから言い放つ。

「く、草野でしょ。この風を巻き起こしたのは?」

 カカカ。

「ど変態」

 てかよ?

 テメェは、今、アメリカだろう? 俺は日本で自宅だぜ。しかも風呂上がり。そんな俺が、そこに風を巻き起こすなんて、それこそ奇跡だぜ。それともアレか。眼鏡女郎、お前は、毎回、赤いスカートを穿いては俺にまくられているが……、

 敢えて、めくられるように赤のスカートを穿いて準備万端、ヨーソローなのか?

 春雨じゃ、濡れて行こう、なんか?

 嫌よ。嫌よ。も好きのうちってか?

 アハハ。

 まあ、そんな下らない事はどうでもいい。極めて果てしなくな。

 さて、じゃ、これから、一体、どんな展開を魅せるのか見せてもらおうか。眼鏡女郎。もちろん、この俺のドラマには欠かせない演出として生きるものなんだろうな。俺様の眼鏡にかなう、ソレなんだろうな。カカカ。佳きにはからえだ。

 そして。

 眼鏡女郎は繰り返した。落ち着き。

「大谷・ジャイアント馬場、勝負しろ。呂慕は、お前らみたいなカネの亡者には負けん。それとも恐いか? 名もなきモブに倒されて自分の名に傷が付く事がよ」

 まるで悪役〔ヒール〕のようにも。
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