R-15
三十五話『それじゃあ、行こっか』
クルクルと回り続けている沙知。元々身体が弱いのにそんなに動き回って大丈夫なのか心配になる。
でも、それと同じくらい気になることが僕にはあった。
彼女がいま着ている服。あれには見覚えがあった。いや、見覚えがあるどころではない。
あの服は僕が沙々さんの買い物に付き合っていたときに買っていた服だ。
しかも僕に好みの服を聞いて、その上で沙々さんが試着をしていた。
「沙々さんにプレゼントして貰ったってどういうこと?」
僕が訊ねると、沙知はクルクルと回るのを止めて、僕の方を見る。ただ回りすぎたのか、若干ふらついていた。
「おっとと……セーフ」
「大丈夫?」
僕は沙知のことを支えてやる。すると、彼女はお礼を言ってから続ける。
「うん、平気、それよりもこの服のことでしょ?」
「うん」
沙知の問いかけに僕は小さく頷く。すると、彼女はちょっと恥ずかしそうに答えた。
「あたし……実は外出用の服を全然持ってないから……」
沙知の言葉を聞いて、何となく察した。
きっと沙知は今までずっと家に籠りきりの生活を送っていた。外に出るとしても学校か病院に行く程度。
そのため遊びに行くための服を必要とせず、必要最低限の服しか持っていなかったのだろう。
「でも、さすがにパジャマや制服で行くのもあれだし……」
「まあ、言いたいことは分かるよ」
確かに沙知が言いたいことはよく分かる。沙知からすれば外出は特別な出来事だ。
そのため外に出るのならちゃんとした服を着て、外出をしたいと思うのは当然のこと。
それに僕も沙知の可愛い格好を見てみたいって気持ちは滅茶苦茶ある。
「だから、頼那くんに映画に誘われた週の日曜日に、お姉ちゃんに頼んで服を買ってきて貰ったの」
なるほど、そういうことだったのか。あの日、沙々さんがショッピングモールで買い物していたのは、沙知のためだったのか。
やたらと服やメイク用品を買い漁っていたのは、このためだったのかとやっと納得する。
結構な量があったから女の子はこんなにも色々と必要なんだと驚いたのを覚えている。
でも……いくら何でもあの荷物は多すぎな気がしたが、これで納得がいった。
となると……。僕は今沙知の着ている服にもう一度目を通す。
あれは沙々さんに自分の好みを聞いて、沙々さんが沙知に買ってきたものだ。
つまりそれは……。
僕の彼女が自分の好みの服を、着ているという状況。
「……!?」
そのことに気付いた瞬間、僕の胸は高鳴っていく。そして同時に沙知が着ている服に思わず見惚れてしまうのだった。
僕の好きな人が僕のプレゼントしたヘアピンを着けて、自分の好みの服を着て僕の前にいる。
それによく見れば、沙知の髪型もいつもと違う。
いつもは長くて綺麗な黒髪をポニーテールで結んでいるけど、今日の彼女は違う。
髪を全体的にふわっとした感じで巻いていて、その髪には僕がプレゼントしたヘアピンが着けられている。
「可愛い……」
思わずそう呟いてしまう。それくらい今の沙知は僕にとって可愛く見えた。
「え? ホントに?」
僕が思わず漏らした言葉に、沙知も反応する。
「う、うん……すごく似合ってる……」
「フフフ、お姉ちゃんのテクニックにかかればこれくらい楽勝だよ」
まあ、あたしの元がいいからなんだけど、と沙知は自信に満ちた顔でそう言っていた。
まあ確かに沙知が可愛いのは事実だが、それでも僕が思わず漏らしてしまった言葉に嘘はない。
ただその上で沙々さんのコーディネートが沙知の魅力を更に引き出している。
正直言って……今の沙知をずっと見ていたいと思ってしまっている自分がいる。
こんな風に沙知を可愛くコーディネートしてくれた沙々さんには足を向けられない。
というかあの人、僕たちに対して、お節介のレベルが過ぎじゃないか。もうそれはお節介ではなく世話焼きのレベルだ。
完全に姉御肌、いやお姉さん気質全開だ。もう心の中では姉御と呼ばせてもらおう。
そう心に決めたとき、沙知が改めて僕の顔を見上げる。
「ねえ、頼那くん」
「ん?」
「あたしに欲情した?」
「へっ!?」
突然の沙知の言葉に僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。いきなり何を言い出すんだこの子は?
「だって、あたしが可愛くてセクシーだから見惚れているんでしょ?」
「い、いや……そ、それは……」
沙知の指摘に僕は言葉を濁す。そして言い返す言葉もないから思わず顔を逸らしてしまう。
そんな僕の様子を見たからか、沙知はクスクスと笑う。
「頼那くんって本当に正直だね」
「うぐ……」
ホント、自分の正直さにうんざりしてしまう。だけど、それが僕という人間なんだ。
だから隠すこともできないし、誤魔化すことも苦手だ。
沙知に嘘はつきたくないし、自分を偽るような真似もしたくない。
だけど、自分でも分かる。いま僕がどんな表情をしているのかを……。きっと僕の顔は真っ赤になっているだろう。
そんな僕を見て沙知は笑顔のまま、言葉を続ける。
「それじゃあ、行こっか」
そう言って沙知は、いつものようにセグウェイの準備し始めた。
「えっ?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。だが、すぐに今日の本来の目的を思い出した。
そうだ、今日の本命は映画に遊びに行くことだ。だから、ここで時間を取るわけにはいかない。
「お待たせ~」
沙知は準備を終えたのかセグウェイに跨がる。そしてゆっくりとセグウェイを発進させた。
「ほら、置いていくよ」
そんな沙知の笑顔につられるように僕も慌てて準備をし駆け出した。そしていつものように沙知の隣を歩いていく。
まずは沙知の家から最寄りの駅まで向かい、そこから電車に乗って映画館のあるショッピングモールに向かう。
沙知の体力の温存のために駅まではセグウェイに乗っていく。
今日の待ち合わせも現地や駅ではなく、沙知の家にしたのも彼女が体調を崩したときにすぐに対応できるようにだ。
体調を崩さないことが一番だけど、何があるかは分からない。その辺はしっかりと気を引き締めておきたい。
僕を信じて沙知を任せてくれた姉御の厚意も無下にはしたくない。
そして何よりも沙知には一番楽しんで欲しいと思っているから。
彼女にとって今日が最高の日になることを祈りながら、僕たちの初めてのデートが始まるのだった。
でも、それと同じくらい気になることが僕にはあった。
彼女がいま着ている服。あれには見覚えがあった。いや、見覚えがあるどころではない。
あの服は僕が沙々さんの買い物に付き合っていたときに買っていた服だ。
しかも僕に好みの服を聞いて、その上で沙々さんが試着をしていた。
「沙々さんにプレゼントして貰ったってどういうこと?」
僕が訊ねると、沙知はクルクルと回るのを止めて、僕の方を見る。ただ回りすぎたのか、若干ふらついていた。
「おっとと……セーフ」
「大丈夫?」
僕は沙知のことを支えてやる。すると、彼女はお礼を言ってから続ける。
「うん、平気、それよりもこの服のことでしょ?」
「うん」
沙知の問いかけに僕は小さく頷く。すると、彼女はちょっと恥ずかしそうに答えた。
「あたし……実は外出用の服を全然持ってないから……」
沙知の言葉を聞いて、何となく察した。
きっと沙知は今までずっと家に籠りきりの生活を送っていた。外に出るとしても学校か病院に行く程度。
そのため遊びに行くための服を必要とせず、必要最低限の服しか持っていなかったのだろう。
「でも、さすがにパジャマや制服で行くのもあれだし……」
「まあ、言いたいことは分かるよ」
確かに沙知が言いたいことはよく分かる。沙知からすれば外出は特別な出来事だ。
そのため外に出るのならちゃんとした服を着て、外出をしたいと思うのは当然のこと。
それに僕も沙知の可愛い格好を見てみたいって気持ちは滅茶苦茶ある。
「だから、頼那くんに映画に誘われた週の日曜日に、お姉ちゃんに頼んで服を買ってきて貰ったの」
なるほど、そういうことだったのか。あの日、沙々さんがショッピングモールで買い物していたのは、沙知のためだったのか。
やたらと服やメイク用品を買い漁っていたのは、このためだったのかとやっと納得する。
結構な量があったから女の子はこんなにも色々と必要なんだと驚いたのを覚えている。
でも……いくら何でもあの荷物は多すぎな気がしたが、これで納得がいった。
となると……。僕は今沙知の着ている服にもう一度目を通す。
あれは沙々さんに自分の好みを聞いて、沙々さんが沙知に買ってきたものだ。
つまりそれは……。
僕の彼女が自分の好みの服を、着ているという状況。
「……!?」
そのことに気付いた瞬間、僕の胸は高鳴っていく。そして同時に沙知が着ている服に思わず見惚れてしまうのだった。
僕の好きな人が僕のプレゼントしたヘアピンを着けて、自分の好みの服を着て僕の前にいる。
それによく見れば、沙知の髪型もいつもと違う。
いつもは長くて綺麗な黒髪をポニーテールで結んでいるけど、今日の彼女は違う。
髪を全体的にふわっとした感じで巻いていて、その髪には僕がプレゼントしたヘアピンが着けられている。
「可愛い……」
思わずそう呟いてしまう。それくらい今の沙知は僕にとって可愛く見えた。
「え? ホントに?」
僕が思わず漏らした言葉に、沙知も反応する。
「う、うん……すごく似合ってる……」
「フフフ、お姉ちゃんのテクニックにかかればこれくらい楽勝だよ」
まあ、あたしの元がいいからなんだけど、と沙知は自信に満ちた顔でそう言っていた。
まあ確かに沙知が可愛いのは事実だが、それでも僕が思わず漏らしてしまった言葉に嘘はない。
ただその上で沙々さんのコーディネートが沙知の魅力を更に引き出している。
正直言って……今の沙知をずっと見ていたいと思ってしまっている自分がいる。
こんな風に沙知を可愛くコーディネートしてくれた沙々さんには足を向けられない。
というかあの人、僕たちに対して、お節介のレベルが過ぎじゃないか。もうそれはお節介ではなく世話焼きのレベルだ。
完全に姉御肌、いやお姉さん気質全開だ。もう心の中では姉御と呼ばせてもらおう。
そう心に決めたとき、沙知が改めて僕の顔を見上げる。
「ねえ、頼那くん」
「ん?」
「あたしに欲情した?」
「へっ!?」
突然の沙知の言葉に僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。いきなり何を言い出すんだこの子は?
「だって、あたしが可愛くてセクシーだから見惚れているんでしょ?」
「い、いや……そ、それは……」
沙知の指摘に僕は言葉を濁す。そして言い返す言葉もないから思わず顔を逸らしてしまう。
そんな僕の様子を見たからか、沙知はクスクスと笑う。
「頼那くんって本当に正直だね」
「うぐ……」
ホント、自分の正直さにうんざりしてしまう。だけど、それが僕という人間なんだ。
だから隠すこともできないし、誤魔化すことも苦手だ。
沙知に嘘はつきたくないし、自分を偽るような真似もしたくない。
だけど、自分でも分かる。いま僕がどんな表情をしているのかを……。きっと僕の顔は真っ赤になっているだろう。
そんな僕を見て沙知は笑顔のまま、言葉を続ける。
「それじゃあ、行こっか」
そう言って沙知は、いつものようにセグウェイの準備し始めた。
「えっ?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。だが、すぐに今日の本来の目的を思い出した。
そうだ、今日の本命は映画に遊びに行くことだ。だから、ここで時間を取るわけにはいかない。
「お待たせ~」
沙知は準備を終えたのかセグウェイに跨がる。そしてゆっくりとセグウェイを発進させた。
「ほら、置いていくよ」
そんな沙知の笑顔につられるように僕も慌てて準備をし駆け出した。そしていつものように沙知の隣を歩いていく。
まずは沙知の家から最寄りの駅まで向かい、そこから電車に乗って映画館のあるショッピングモールに向かう。
沙知の体力の温存のために駅まではセグウェイに乗っていく。
今日の待ち合わせも現地や駅ではなく、沙知の家にしたのも彼女が体調を崩したときにすぐに対応できるようにだ。
体調を崩さないことが一番だけど、何があるかは分からない。その辺はしっかりと気を引き締めておきたい。
僕を信じて沙知を任せてくれた姉御の厚意も無下にはしたくない。
そして何よりも沙知には一番楽しんで欲しいと思っているから。
彼女にとって今日が最高の日になることを祈りながら、僕たちの初めてのデートが始まるのだった。