R-15
二十六話 『恋人と友だちの違いって何だろう?』
「恋人と友だちの違いって何だろう?」
昼休みの校庭、日陰でお弁当を食べながら、沙知はそんな疑問を僕に投げかけた。
「急にどうしたの……?」
僕は戸惑いながらも彼女に聞き返す。いきなり恋人と友だちの違いについて聞かれたら誰だって戸惑うだろう。
「いや、頼那くんと恋人関係になって一週間くらい経ったでしょ?」
「うん、そうだね……」
沙知の言葉に僕は頷いた。彼女の言う通り、僕と沙知は恋人同士になってから一週間ほど経っている。
時期は既に六月の中頃。夏の気配を感じ始める時期だが、僕たちの関係にこれといった変化は感じられない。
変化というなら六月に入ったことで衣替えをしたくらいだ。沙知の制服姿も夏服に変わり、元から主張の激しい彼女の胸がより強調されていた。
「毎日、一緒に登下校して、遊んだり、お昼食べたり、放課後も一緒にいるけど……結局、友だちと同じことしてる気がするんだよね……」
沙知の言葉に僕は改めて考えてみる。確かに彼女が言う通り、普通の友人関係と同じようなことをしている気がする。
「まあ、あたしは友だちがいなかったから、これはこれで楽しいし、不満があるわけじゃないんだよね」
沙知はアハハと笑いながら僕にそう言ってきた。
正直、反応に困る。彼女の体質を考えれば、敢えてそういった友人関係を作ろうとしなかったのは、簡単に想像がつく。
「ただ、こうして頼那くんと恋人関係になった以上、あたしとしてはやっぱり恋というものを知りたいってわけなんですよ」
ビシッと僕に指を差しながら沙知はそう言った。その彼女の言葉と態度に僕は思わず笑ってしまう。
「えっと……なんで笑うかな?」
沙知はムっとした表情を浮かべながら僕のことを見た。そんな彼女のリアクションに僕は慌てて謝罪する。
「ごめん、別にバカにしたわけじゃなくて……」
僕の言葉の意味が分からないのか、沙知は首を傾げていた。
そんな姿も可愛らしいと思ってしまうのは、惚れた弱みなのかもしれない。
僕は思っていることを正直に彼女に伝えた。
「沙知が僕との関係を凄く真剣に考えてくれてたのが嬉しくて……」
付き合う前までは一切僕のことを眼中になかった彼女が、こうして考えてくれているだけで嬉しかった。
彼女のその気持ちがとても心に響いたから。
「別に……あたしはいつも通り自分勝手に知りたいことを知ろうとしているだけだよ」
「それが沙知らしいよ、そういう真っ直ぐなところが……」
僕はそう言いながら空を見上げた。そこには雲一つない青空が広がっている。
太陽が眩しくて目を細めると、沙知が不満そうに僕のことを見ていた。
「また一人で自己完結して……まあいいけど、それで話を戻すよ」
沙知は頬を膨らませながら僕にそう言ってくる。そんな彼女に僕は頷くことで返した。
「実際、友だちと恋人ってどんなところが違うんだろ?」
「それは……やっぱり、恋人は友だちより特別な存在で……」
沙知の疑問に僕が答えようとすると彼女はそれを遮ってきた。
「いや、そういうのじゃなくてさ、もっとこう……具体的な違いを知りたいわけよ」
「具体的……?」
そんな彼女の返答に僕は首を傾げて聞き返してしまう。そんな僕の様子に沙知は頷いてみせた。
「そうそう、友だちと恋人、その決定的な違いって何さ?」
「決定的な違い……?」
沙知の言葉に僕は考え込んでしまう。改めて言葉にすると、中々思い浮かばないものだ。
「例えばこの一週間あたしたちがしたことって、結局友だち同士でもできることじゃん?」
沙知はお弁当の唐揚げを摘まみながら僕に言う。
「キスとか、セックスとか、それだってそういったことする友だちとか作る人は普通にいるわけだし」
最後の言葉に僕は苦笑いしてしまう。相変わらずこの辺に関しては彼女はストレートだった。
「ほら、そんな感じで恋人になったからって普通の友だちと変わらないじゃん」
沙知の言いたいことは何となく分かる気がする。
恋人らしいことというのは、何も友だちと出来ることと、変わらないのではないかと。
ある意味、それは僕たちにとって大事なことのような気がする。
友だちと恋人の違い。
その違いを知ることが彼女が恋を知るための一歩なのかもしれない。
けど、実際問題。僕はそれを沙知に教えられるほど、恋愛経験が豊富なわけではない。
「ん~?」
僕は唸りながらサンドイッチを片手に考える。でも、どれだけ考えても結局、明確な答えが出ない。
「何と言えばいいか……分からない……」
結局、僕の口から出たのはそんな言葉だった。そんな僕の様子に沙知は笑顔で答える。
「だよね~、あたしも実際わかんないから、こうして聞いてるわけだし」
沙知はそう言うと小さく肩を竦めた。どうやら彼女は恋人と友だちの違いについて真剣に考えてはいたが、答えは出なかったみたいだ。
「なら、分かるまで、とことん追究していくのがあたしじゃん?」
沙知はパンと両手を合わせて笑顔を浮かべながら僕に言う。そんな彼女の笑顔に僕は見惚れてしまった。
「沙知って、本当に前向きだよね」
そんな沙知の笑みに見惚れながらも僕は素直な気持ちを口にした。
今まで彼女はこうして色んなことに一生懸命取り組んできたんだろう。
それはとても凄いことだと思うし、彼女のそういう姿勢に惹かれたんだ。
「ふふん、あたしが恋という難題を見事に解き明かして見せるから、首を洗って待ってるといいよ」
沙知は誇らしげに笑いながら僕にそう言ってくる。そんな彼女を見て僕は思わず吹き出してしまった。
「何がおかしいのかな?」
ムッとした表情で彼女は僕のことを見る。そんな反応を見せる彼女も可愛らしいと思ってしまった。
「別にバカにしたわけじゃないよ……ただ、あたしじゃなくてあたしたちが、でしょ?」
僕がそう言うと沙知は首をコテンと傾げた。そんな彼女の様子に僕は笑みが浮かんでしまう。
「僕も沙知と一緒に恋を知りたいから、だから二人で頑張っていこうね」
僕がそう言うと沙知はポンッと手を叩いて、満面の笑みを浮かべた。
「なるほど!! 助手としてあたしの手伝いをしたいってことだね!!」
何か違うような気がするけど……まあ良いか。
「まあ、ただ……ちゃんと行動に移せるのは、来週以降かな?」
「えっ? 何で? 思い立ったら吉日がモットーの天才巨乳美少女の佐城沙知ちゃんは今すぐにでも恋というものを知りたいんだよ?」
沙知はやる気に満ち溢れた様子で僕に訴えかけてくると、僕との距離を一気に詰めてきた。
フワッと風に乗って彼女の甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐる。
「沙知……近い……」
僕はドキドキしながら沙知のことをやんわりと押し返す。すると彼女は素直に引き下がってくれた。
「何で来週以降からなの?」
ちょっと不貞腐れた様子で沙知は僕に聞いてくる。そんな彼女に僕は頬をかきながら理由を言った。
「来週から期末テストがあるでしょ? だから来週までテスト勉強しないと」
もうなんだかんだ早いもので、期末テストも目前に迫っていた。
前回の中間で二位だったからもう赤点の心配はないけど、この調子を期末までキープしたいと思っている。
「あ~……テスト……テスト!?」
僕の言葉を聞いた沙知はふと何かを思い出したように声をあげた。そんな彼女の反応に僕は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、前回あたし、頼那くんにテストの順位で負けてるじゃん!!」
「負けてるって言っても前回は一点差でしょ?」
そう、沙知は前回のテストでは僕と僅差で三位だった。マジの接戦で僕も必死だったんだから。
「嫌だ!! 前回負けたままなんて!!」
沙知はそんなことを言いながら、僕の肩を掴んで大きく揺らしてくる。そのせいで頭がぐわんぐわんと揺れてしまった。
「ちょ、ちょっと、沙知……止めて……」
「絶対あたしが勝つもん!!」
何か子どもみたいなことを言っている沙知。これが沙々さんから聞いた沙知の負けず嫌いなところか……。
「そもそも僕が沙知に勝てたのは沙々さんとの勉強会があったからで……」
「そんなこと知ってるもん!! あたしは頼那くんとお姉ちゃんに負けっぱなしなのが嫌なの!!」
「それは分かるけど……どうする気?」
僕がそう聞き返すと、沙知は僕の身体を揺らすのを止めた。
「テストで勝負だよ!! あたしが勝ったら、何でも言うことをひとつ聞くこと!!」
またテストで勝負をするのか。前回のテストで僕が沙知よりも順位が高かったから、彼女はこんなにも必死なのだろう。
「別に構わないけど、もし、そうじゃなかったら?」
「もし、仮にあたしが勝てなかったら頼那くんの言うことを何でも聞くよ!!」
僕の質問に沙知はそう返答してくる。そこまでして僕と勝負したいのか。それに勝てなかったらか……。
「分かった、その勝負に乗ってあげるよ」
僕は素直に彼女の提案を受け入れることにした。正直、前回みたいなモチベもなかったからちょうどいい。
「へぇ~、頼那くん、あたしにしてほしいことでもあるのかな? 例えばエッチなこととか?」
「あ、あるわけないって!!」
沙知の言葉に僕は顔を真っ赤にして全力で否定する。僕の反応を見て沙知はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「最近おっぱいばっかり見てるもんね~」
「だから、違うって!!」
「ウソだ~、衣替えしてから一日に二、三十回はあたしのおっぱい見てるよね?」
「そんなには見てないから!!」
「見ていることは否定しないんだね」
「うっ……それは……」
確かに否定はしていない。だけど、僕はそこまで見てないと思うし、チラッとくらいは見てるかもだけど……。
「あ~頼那くんのエッチ~、そんなに見たいなら素直に言えば見せてあげるよ?」
「えっ……それは……」
沙知のその言葉に僕は思わずドキッとしてしまう。彼女のその大きな胸に興味がないと言えばウソになるし、正直、見てみたい気持ちも少しはある。
すると、沙知はそんな僕の様子を察したのか、自分の胸を下から持ち上げるように掴むと僕に見せつけてきた。
「ほら、Fカップのおっぱいだよ? 触りたくない?」
ポンポンと跳ねるようして胸をアピールしてくる沙知。僕はそんな彼女から思わず視線を反らしてしまう。
「頼那くんのエッチ~、顔赤いよ~」
そう言いながら彼女は僕の頬をツンツンと突いてくる。おかげで顔がより赤くなりそうだ。
「あ~もう!! この話は終わり!! それよりも沙知は僕に何をお願いしたいの!?」
これ以上、彼女のペースに付き合うとまずいと僕の直感が言っている。そのため僕は強引に話を変えることにした。
「え~、そうだね~……この前、作ったあたしの新発明のモルモ……試してもらおうかな~?」
「今モルモットって、言ったよね!?」
「気のせいだよ」
「いや、言ったよね!?」
「言ってないよ~」
滅茶苦茶惚けてくる沙知。これはガチでモルモットにさせられるんじゃないかと思った。
沙知のことだ。マジでやりかねない。そんな恐怖が僕を襲う。
次のテスト、負けるわけには行かないな……。
「こうなったら……また沙々さんにお願いして、次のテストの勉強会を……」
「それは絶対ダメ!!」
僕がモルモットにされないために沙々さんの名前を出した瞬間、沙知が凄い剣幕で否定してきた。
「お姉ちゃんに頼るのはダメ!!」
沙知の必死な様子に僕は動揺してしまう。けど、普通に考えれば、彼女持ちの僕が彼女以外の異性と勉強会をするのはやっぱり駄目な気がする。
ましては沙知にそっくりな沙々さんなら尚更だ。
「う、うん……分かった」
僕は沙知に気圧されてしまい思わず頷いてしまう。しかし、これでかなり困ったことになってしまった。
沙々さんに頼れないとなると、沙知に勝てる見込みは万が一にもない。
このままでは沙知の実験のモルモット確定だ。さて、どうしたものか……。
「頼那くん、あたしも鬼じゃないよ? だからね?」
そんな僕の不安を察知したのか沙知は僕に優しい笑みを浮かべてそう言ってきた。
「あたしが頼那くんと一緒にテスト勉強会してあげる」
「へっ? 沙知と?」
予想外の提案に僕は戸惑ってしまう。そんな僕を見て沙知は深く頷いた。
「うん、あたしが頼那くんと一緒に勉強会してあげるよ」
「けど、今回テストで勝負とか言っているのに?」
「うん、別に頼那くんに教えたところで、本気を出したあたしが負けるわけないからね」
沙知はそう言いながら僕にドヤ顔を向けてくる。正直、ムカつくくらいのドヤ顔だ。
そんな沙知に僕はちょっとイラッときてしまうが、それも可愛いと思えてしまうから本当に彼女に惚れ込んでしまったんだなと思う。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな?」
僕はちょっと冗談っぽくそんなことを言ってみる。すると沙知は得意げな顔になった。
「うんうん、素直なのは良いことだよ~」
そんな感じで、沙知とよく分からない勝負とテスト勉強会が決まったのだった。
昼休みの校庭、日陰でお弁当を食べながら、沙知はそんな疑問を僕に投げかけた。
「急にどうしたの……?」
僕は戸惑いながらも彼女に聞き返す。いきなり恋人と友だちの違いについて聞かれたら誰だって戸惑うだろう。
「いや、頼那くんと恋人関係になって一週間くらい経ったでしょ?」
「うん、そうだね……」
沙知の言葉に僕は頷いた。彼女の言う通り、僕と沙知は恋人同士になってから一週間ほど経っている。
時期は既に六月の中頃。夏の気配を感じ始める時期だが、僕たちの関係にこれといった変化は感じられない。
変化というなら六月に入ったことで衣替えをしたくらいだ。沙知の制服姿も夏服に変わり、元から主張の激しい彼女の胸がより強調されていた。
「毎日、一緒に登下校して、遊んだり、お昼食べたり、放課後も一緒にいるけど……結局、友だちと同じことしてる気がするんだよね……」
沙知の言葉に僕は改めて考えてみる。確かに彼女が言う通り、普通の友人関係と同じようなことをしている気がする。
「まあ、あたしは友だちがいなかったから、これはこれで楽しいし、不満があるわけじゃないんだよね」
沙知はアハハと笑いながら僕にそう言ってきた。
正直、反応に困る。彼女の体質を考えれば、敢えてそういった友人関係を作ろうとしなかったのは、簡単に想像がつく。
「ただ、こうして頼那くんと恋人関係になった以上、あたしとしてはやっぱり恋というものを知りたいってわけなんですよ」
ビシッと僕に指を差しながら沙知はそう言った。その彼女の言葉と態度に僕は思わず笑ってしまう。
「えっと……なんで笑うかな?」
沙知はムっとした表情を浮かべながら僕のことを見た。そんな彼女のリアクションに僕は慌てて謝罪する。
「ごめん、別にバカにしたわけじゃなくて……」
僕の言葉の意味が分からないのか、沙知は首を傾げていた。
そんな姿も可愛らしいと思ってしまうのは、惚れた弱みなのかもしれない。
僕は思っていることを正直に彼女に伝えた。
「沙知が僕との関係を凄く真剣に考えてくれてたのが嬉しくて……」
付き合う前までは一切僕のことを眼中になかった彼女が、こうして考えてくれているだけで嬉しかった。
彼女のその気持ちがとても心に響いたから。
「別に……あたしはいつも通り自分勝手に知りたいことを知ろうとしているだけだよ」
「それが沙知らしいよ、そういう真っ直ぐなところが……」
僕はそう言いながら空を見上げた。そこには雲一つない青空が広がっている。
太陽が眩しくて目を細めると、沙知が不満そうに僕のことを見ていた。
「また一人で自己完結して……まあいいけど、それで話を戻すよ」
沙知は頬を膨らませながら僕にそう言ってくる。そんな彼女に僕は頷くことで返した。
「実際、友だちと恋人ってどんなところが違うんだろ?」
「それは……やっぱり、恋人は友だちより特別な存在で……」
沙知の疑問に僕が答えようとすると彼女はそれを遮ってきた。
「いや、そういうのじゃなくてさ、もっとこう……具体的な違いを知りたいわけよ」
「具体的……?」
そんな彼女の返答に僕は首を傾げて聞き返してしまう。そんな僕の様子に沙知は頷いてみせた。
「そうそう、友だちと恋人、その決定的な違いって何さ?」
「決定的な違い……?」
沙知の言葉に僕は考え込んでしまう。改めて言葉にすると、中々思い浮かばないものだ。
「例えばこの一週間あたしたちがしたことって、結局友だち同士でもできることじゃん?」
沙知はお弁当の唐揚げを摘まみながら僕に言う。
「キスとか、セックスとか、それだってそういったことする友だちとか作る人は普通にいるわけだし」
最後の言葉に僕は苦笑いしてしまう。相変わらずこの辺に関しては彼女はストレートだった。
「ほら、そんな感じで恋人になったからって普通の友だちと変わらないじゃん」
沙知の言いたいことは何となく分かる気がする。
恋人らしいことというのは、何も友だちと出来ることと、変わらないのではないかと。
ある意味、それは僕たちにとって大事なことのような気がする。
友だちと恋人の違い。
その違いを知ることが彼女が恋を知るための一歩なのかもしれない。
けど、実際問題。僕はそれを沙知に教えられるほど、恋愛経験が豊富なわけではない。
「ん~?」
僕は唸りながらサンドイッチを片手に考える。でも、どれだけ考えても結局、明確な答えが出ない。
「何と言えばいいか……分からない……」
結局、僕の口から出たのはそんな言葉だった。そんな僕の様子に沙知は笑顔で答える。
「だよね~、あたしも実際わかんないから、こうして聞いてるわけだし」
沙知はそう言うと小さく肩を竦めた。どうやら彼女は恋人と友だちの違いについて真剣に考えてはいたが、答えは出なかったみたいだ。
「なら、分かるまで、とことん追究していくのがあたしじゃん?」
沙知はパンと両手を合わせて笑顔を浮かべながら僕に言う。そんな彼女の笑顔に僕は見惚れてしまった。
「沙知って、本当に前向きだよね」
そんな沙知の笑みに見惚れながらも僕は素直な気持ちを口にした。
今まで彼女はこうして色んなことに一生懸命取り組んできたんだろう。
それはとても凄いことだと思うし、彼女のそういう姿勢に惹かれたんだ。
「ふふん、あたしが恋という難題を見事に解き明かして見せるから、首を洗って待ってるといいよ」
沙知は誇らしげに笑いながら僕にそう言ってくる。そんな彼女を見て僕は思わず吹き出してしまった。
「何がおかしいのかな?」
ムッとした表情で彼女は僕のことを見る。そんな反応を見せる彼女も可愛らしいと思ってしまった。
「別にバカにしたわけじゃないよ……ただ、あたしじゃなくてあたしたちが、でしょ?」
僕がそう言うと沙知は首をコテンと傾げた。そんな彼女の様子に僕は笑みが浮かんでしまう。
「僕も沙知と一緒に恋を知りたいから、だから二人で頑張っていこうね」
僕がそう言うと沙知はポンッと手を叩いて、満面の笑みを浮かべた。
「なるほど!! 助手としてあたしの手伝いをしたいってことだね!!」
何か違うような気がするけど……まあ良いか。
「まあ、ただ……ちゃんと行動に移せるのは、来週以降かな?」
「えっ? 何で? 思い立ったら吉日がモットーの天才巨乳美少女の佐城沙知ちゃんは今すぐにでも恋というものを知りたいんだよ?」
沙知はやる気に満ち溢れた様子で僕に訴えかけてくると、僕との距離を一気に詰めてきた。
フワッと風に乗って彼女の甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐる。
「沙知……近い……」
僕はドキドキしながら沙知のことをやんわりと押し返す。すると彼女は素直に引き下がってくれた。
「何で来週以降からなの?」
ちょっと不貞腐れた様子で沙知は僕に聞いてくる。そんな彼女に僕は頬をかきながら理由を言った。
「来週から期末テストがあるでしょ? だから来週までテスト勉強しないと」
もうなんだかんだ早いもので、期末テストも目前に迫っていた。
前回の中間で二位だったからもう赤点の心配はないけど、この調子を期末までキープしたいと思っている。
「あ~……テスト……テスト!?」
僕の言葉を聞いた沙知はふと何かを思い出したように声をあげた。そんな彼女の反応に僕は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、前回あたし、頼那くんにテストの順位で負けてるじゃん!!」
「負けてるって言っても前回は一点差でしょ?」
そう、沙知は前回のテストでは僕と僅差で三位だった。マジの接戦で僕も必死だったんだから。
「嫌だ!! 前回負けたままなんて!!」
沙知はそんなことを言いながら、僕の肩を掴んで大きく揺らしてくる。そのせいで頭がぐわんぐわんと揺れてしまった。
「ちょ、ちょっと、沙知……止めて……」
「絶対あたしが勝つもん!!」
何か子どもみたいなことを言っている沙知。これが沙々さんから聞いた沙知の負けず嫌いなところか……。
「そもそも僕が沙知に勝てたのは沙々さんとの勉強会があったからで……」
「そんなこと知ってるもん!! あたしは頼那くんとお姉ちゃんに負けっぱなしなのが嫌なの!!」
「それは分かるけど……どうする気?」
僕がそう聞き返すと、沙知は僕の身体を揺らすのを止めた。
「テストで勝負だよ!! あたしが勝ったら、何でも言うことをひとつ聞くこと!!」
またテストで勝負をするのか。前回のテストで僕が沙知よりも順位が高かったから、彼女はこんなにも必死なのだろう。
「別に構わないけど、もし、そうじゃなかったら?」
「もし、仮にあたしが勝てなかったら頼那くんの言うことを何でも聞くよ!!」
僕の質問に沙知はそう返答してくる。そこまでして僕と勝負したいのか。それに勝てなかったらか……。
「分かった、その勝負に乗ってあげるよ」
僕は素直に彼女の提案を受け入れることにした。正直、前回みたいなモチベもなかったからちょうどいい。
「へぇ~、頼那くん、あたしにしてほしいことでもあるのかな? 例えばエッチなこととか?」
「あ、あるわけないって!!」
沙知の言葉に僕は顔を真っ赤にして全力で否定する。僕の反応を見て沙知はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「最近おっぱいばっかり見てるもんね~」
「だから、違うって!!」
「ウソだ~、衣替えしてから一日に二、三十回はあたしのおっぱい見てるよね?」
「そんなには見てないから!!」
「見ていることは否定しないんだね」
「うっ……それは……」
確かに否定はしていない。だけど、僕はそこまで見てないと思うし、チラッとくらいは見てるかもだけど……。
「あ~頼那くんのエッチ~、そんなに見たいなら素直に言えば見せてあげるよ?」
「えっ……それは……」
沙知のその言葉に僕は思わずドキッとしてしまう。彼女のその大きな胸に興味がないと言えばウソになるし、正直、見てみたい気持ちも少しはある。
すると、沙知はそんな僕の様子を察したのか、自分の胸を下から持ち上げるように掴むと僕に見せつけてきた。
「ほら、Fカップのおっぱいだよ? 触りたくない?」
ポンポンと跳ねるようして胸をアピールしてくる沙知。僕はそんな彼女から思わず視線を反らしてしまう。
「頼那くんのエッチ~、顔赤いよ~」
そう言いながら彼女は僕の頬をツンツンと突いてくる。おかげで顔がより赤くなりそうだ。
「あ~もう!! この話は終わり!! それよりも沙知は僕に何をお願いしたいの!?」
これ以上、彼女のペースに付き合うとまずいと僕の直感が言っている。そのため僕は強引に話を変えることにした。
「え~、そうだね~……この前、作ったあたしの新発明のモルモ……試してもらおうかな~?」
「今モルモットって、言ったよね!?」
「気のせいだよ」
「いや、言ったよね!?」
「言ってないよ~」
滅茶苦茶惚けてくる沙知。これはガチでモルモットにさせられるんじゃないかと思った。
沙知のことだ。マジでやりかねない。そんな恐怖が僕を襲う。
次のテスト、負けるわけには行かないな……。
「こうなったら……また沙々さんにお願いして、次のテストの勉強会を……」
「それは絶対ダメ!!」
僕がモルモットにされないために沙々さんの名前を出した瞬間、沙知が凄い剣幕で否定してきた。
「お姉ちゃんに頼るのはダメ!!」
沙知の必死な様子に僕は動揺してしまう。けど、普通に考えれば、彼女持ちの僕が彼女以外の異性と勉強会をするのはやっぱり駄目な気がする。
ましては沙知にそっくりな沙々さんなら尚更だ。
「う、うん……分かった」
僕は沙知に気圧されてしまい思わず頷いてしまう。しかし、これでかなり困ったことになってしまった。
沙々さんに頼れないとなると、沙知に勝てる見込みは万が一にもない。
このままでは沙知の実験のモルモット確定だ。さて、どうしたものか……。
「頼那くん、あたしも鬼じゃないよ? だからね?」
そんな僕の不安を察知したのか沙知は僕に優しい笑みを浮かべてそう言ってきた。
「あたしが頼那くんと一緒にテスト勉強会してあげる」
「へっ? 沙知と?」
予想外の提案に僕は戸惑ってしまう。そんな僕を見て沙知は深く頷いた。
「うん、あたしが頼那くんと一緒に勉強会してあげるよ」
「けど、今回テストで勝負とか言っているのに?」
「うん、別に頼那くんに教えたところで、本気を出したあたしが負けるわけないからね」
沙知はそう言いながら僕にドヤ顔を向けてくる。正直、ムカつくくらいのドヤ顔だ。
そんな沙知に僕はちょっとイラッときてしまうが、それも可愛いと思えてしまうから本当に彼女に惚れ込んでしまったんだなと思う。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな?」
僕はちょっと冗談っぽくそんなことを言ってみる。すると沙知は得意げな顔になった。
「うんうん、素直なのは良いことだよ~」
そんな感じで、沙知とよく分からない勝負とテスト勉強会が決まったのだった。