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作者: 犬物語
【入門向】てんかんってなんなの?【解説】
いっときは全国ニュースで取り上げられた"てんかん"という病気。なんか偏見があるんだなーくらいの意識でいたと思うけど、じゃあ「てんかんってなに?」と聞かれた時こたえられますか?
 脳は身体の"すべて"を司ると書いても過言ではないでしょう

 骨、筋肉、五臓六腑、それらをつつむ皮膚。身体にはそれぞれいろんな役割がありますが、その多くは脳からの命令によって活動しています

 あまり関係なさそうな骨でさえ、脳と密なコミュニケーションをとっていたりします。具体的には"レプチン"という物質が骨形成に深く関わっていたり、脳が損傷してると骨折の治りが遅かったりと様々。全身はそれぞれ深く関係しており、その司令塔であったり重要な器官である部位こそ脳なのです

 そんな脳ですから、ほんのちょっとでもバグを起こすととんでもないことになります。それは日常生活に支障をきたすレベルでもあり、過去にはその差によって差別を受けてきた疾患もあります。本日はそんな疾患のひとつ『てんかん』について書いていきましょう





:てんかんってなんだ?:

 てんかん。漢字で書くと『癲癇』。ちょっとむずかしい文字だけどそれぞれの意味を細かく見てみましょう

・癲(てん)
  気がくるう、みだれる
・癇(かん)
  すぐ興奮する気質

 癲は気が乱れて倒れたりなんだったりする様、そして癇は癇癪 = かんしゃくという言葉のとおり子どもが急に騒いだりする様を表すことばですね。英語では[ Epilepsy ]と呼ばれ、語源のラテン語から『上から襲いかかる』という意味合いになり、まあ突然けいれんしたりする様を上から何かが襲ってきたと解釈したのでしょう

 てんかんは『電気的な神経伝達が乱れて発作を起こす疾患』です。脳内では多くの電気信号が流れており、わたしたちはそれらをうまく調整しながら思考したり、運動したり、他者とコミュニケーションをとったりします。しかし、突然脳の全体もしくは一部の電気活動が過剰になってしまい、それによりけいれんや意識障害などの発作が起こります

・全般てんかん
  両大脳半球に電気的興奮が生じる
・部分てんかん
  特定の部位に電気的興奮が生じる

 この発作は一過性のもので、短ければ一瞬でおわり、長くともうん十秒で元通りの状態に回復することが特徴です。原因によって以下のように分けられています

・症候性
  脳の異常により引き起こされる
  脳卒中、自己免疫、細菌感染などにより起こる
・特発性(素因性)
  原因不明のてんかん

 てんかんは遺伝するのか? と問われると微妙なところです。親にてんかんがある場合、その子どもがてんかんを発症する頻度は4~6%とあり、親がてんかんでない場合と比較したら2~3倍になるようですが、これを「てんかんは遺伝する」と書いていいものかわかりません。また幼少期に発症した突発性てんかんは成人期に症状がおさまることが多いようです

 てんかんはさきほど書いたように『電気的な神経伝達が乱れて発作を起こす疾患』ですが、実はそのてんかんが突発性なのか症候性なのか、部分なのか全般なのかで細かく病名が分かれています。小児期に起こる全般性のてんかんに『小児欠神てんかん』というものがありますが、もしかしたら名前を聞いたことがあるんじゃないでしょうか



:症状と治療:

 てんかんの有病率は100人に1人と、脳神経系疾患のなかではわりと頻度が高い病気だったりします。日本ではだいたい1億人暮らしてるのでつまり100万人くらい患者がいる計算ですね

 以前は幼児期の疾患だと考えられてきたけど、てんかんは上記のような疾患なのでだれもがなりうるものです。てんかんの症状といて主に以下のようなものがあります

・けいれん
  持続的な筋肉の収縮
・手が一瞬動く
  持っているものを落として自覚することが多い
・意識の欠神
  5~10秒ほどぼーっとする

 意識が途切れることもあるので、たとえば『あるニュースを見ていたのに、気づいたらすでに次のニュースを見ていた』というキング・クリムゾン的体験をする場合もあります。脳に関連のある疾患ですから、たとえば精神症状として怒りっぽくなったり説明がまわりくどくなったり、時には幻覚を見ることもあるようです

 こういった症状が、日常生活のなかで突発的に出てしまうのです。そういった影響から、てんかん患者は心理的な負担が大きく、他者と積極的に付き合おうとする意識が削がれるでしょう。このさきの人生をこれ・・と向かい合わなければならないという不安からうつ病などを患ってしまうこともあり、治療だけでなく社会のなかで暮らしていくためには多くの支えが求められます



:治療と偏見:

 ひとことでてんかんと言っても多くの種類があり、どこに原因があるかも様々なためいっときは不治の病とされていたようです。しかし、今では投薬や外科的アプローチなどにより寛解――発作をコントロールできる疾患になりつつあります。治療するには原因究明が不可欠ということで、ここでちょっとばかし、原因を深堀りしていきましょう

 突発性てんかんの場合、電気信号を送る元である"神経伝達物質"が絡んできます。これらの物質はおおまかに『興奮/抑制』の2種類あり、それらのバランスで成り立っています。そのなかの興奮性物質『アセチルコリン』があり、本来分解酵素によって分解され回収されるはずのそれが過剰に存在し続けてしまうため興奮してしまう――これは数あるてんかん例のひとつとしてイメージしてください

 投薬治療の場合、基本は上記のような『バランスを見出しているなにか』を調整するお薬が処方されます。ただし場合によっては投薬でどうにもできない物理的な――脳外科で治療が必要なてんかんもあります。この場合どの部分に原因があるのかを把握して、その部分を手術で治療することになるでしょう

 ちなみに、はっきりした原因は不明ながら『ケトン食でてんかん発作が改善する』というふしぎなエビデンスがあります。まあてんかんが改善するのだから神経伝達物質を抑制優位にしてくれるのでしょうけど、ケトン食がなぜてんかん改善に作用するのかはいろいろな説があるということでご理解ください

 一時期、てんかんに関するニュースが世間を騒がせていました。交通事故を起こした運転者はてんかんを患っていたというワードがかなりの頻度で報道され、それと同時にてんかんに関する偏見をなくそうという運動が活発になっていた印象があります

 わたしは直に目にしたわけではありませんが、てんかんはひどい差別に見舞われてきたと言います。てんかんを患っているというだけで採用されなかったり、結婚を反対されたり、いじめを受けたり――もちろん、当事者たちしかわからぬ事情もあるでしょう。ただ『てんかんとはなにか?』を知らずして言うのとしっかり知った上で意見を述べるのでは大きな差があります

 これまで述べてきたとおし、ひとことでてんかんといっても多くの特徴があり個人によって出てくる症状も多種多様です。そういった個々の特徴を把握した上で、双方が納得でした上でお付き合いできるなら良いことですよね

神戸大学医学部附属病院、てんかんセンター
ttps://www.hosp.kobe-u.ac.jp/epilepsy/about/
東京都医学総合研究所
ttps://www.igakuken.or.jp/medical/medical01/01-2.html



 偏見は良くない。まあ持つにしてもしっかり知った上で持つようにしましょう。いやいいのかそれ? ……うん、まあ、それも多様性なのかな?

 あなたの周りにもこういった事情をもっていたり、隠している方がいるかもしれません。もしくはアナタ自身がそうだったりするかもしれない――そういうものをすべてさらけ出して、いっしょに呑みいったりバッティングセンターに通ったりできる友人関係があったら素晴らしいですよね

 ここで書いたあれこれが、アナタの不安をすこしでも削ぐことができたら幸い。ほかにリクエストがありましたら遠慮なく高評価、コメント、感想などどしどし寄せてください。アナタの応援がわたしのエネルギーになります
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