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作者: 犬物語
【ヨーロッパの歴史】べつにジャガイモもトマトも出していいじゃん?【前編】
ジャガトマ警察なんてワードがあると聞いて
 むかーしから日本で流行しているファンタジー・・・・・・RPGといえば、中世ヨーロッパかつ剣と魔法の世界でした

 古くは『指輪物語』から続く系譜でしょうか。この作品にインスピレーションを覚えた作家さんたちがいろんなファンタジー系ノベルを書いた結果、日本では指輪物語の系譜からはじめらい『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』などの中世ヨーロッパな世界観の作品が広がっていき、ゲームでも『ドラゴンクエスト』に『ファイナルファンタジー』などの作品が流行したので、まあ日本でファンタジー言うたら中世ヨーロッパ風味な感じになっていったのでしょう

 ファンタジー[ Fantasy = 幻想・空想 ]的な意味ですから、たとえばヨーロッパじゃなくても中東とかエジプト周辺とか、なんだったらアジア系統のファンタジーがあってもいいはずです。が、日本でファンタジー言うたらもう『中世ヨーロッパ風味』な世界観になっていますね

 アジア系ファンタジーだと"非日常感"ってのが無いのでしょう。言うてエジプト系や中東系はなじみ薄いし、日本人がむかしっから身近に感じられて、なおかつ非日常感というか異世界感というか、まあそんな感じ・・・・・なファンタジーこそヨーロッパ。けど現代を舞台にすると"ファンタジー感"が無いからちょっと昔、つまり中世が頭言葉について中世ヨーロッパ風味。まあ、これは個人の感想でしかないのでなんとも言えんから、より詳しく知りたいって方は専門家の著書を参照しておいてください

 なんやかんや書いてるけど、とりあえず『日本で売れるファンタジーは中世ヨーロッパ風なんだからそういうの・・・・・を書くしかない』ってのが書いてる側が思うこと、なのでしょう、たぶん、きっとしらんけど。で、ここからが問題

 みんなファンタジーと言えば『中世・・ヨーロッパ風』ってことを想定してるわけです。ラノベを読み始めたばかりの方はともかく、ある程度ラノベやWeb小説を読んでった方はもう上記の図式はおなじみになっていることでしょう。ってことで、世界観はまさに中世ヨーロッパを舞台にしているワケなのですが――ちょっとまってください


「中世ヨーロッパなのになんで"ジャガイモ"や"トマト"があるんだ!!」

「いやァ! 中世ヨーロッパなのにスプーンやフォークを使ってる!!」

「バカなッ! ――中世ヨーロッパなのにトイレがあるだとッ!!」

「ははは、中世ヨーロッパの一般人がふつーに文字を読み書きできてるよ」


 ――そのほかいろーんなツッコミがあるそうですね。まあ言いたいことはわかるけど、じゃあファンタジー作品の根本にある剣と魔法はいいのか的な感じになっちゃうけどそれ語り始めたらファンタジー・・・・・・じゃなくなっちゃうからやめとこ(メソラシ ――いやでも、さ? たとえばこんなツッコミあったらどうだろうね?


「魔法ってなんだよwww手から火が出るわけねーじゃんwww」

「ドラゴンってwwwおまwwwアタマおかしーんじゃねーの? そんな生き物どうやって空飛ぶんだよwww」


 まあ、こういうツッコミがないけどジャガトマ警察的な方々がいらっしゃるのは、ひとえにリアル感・・・・というモノを人間がもっているからなんですよね

 ちょっと脱線しますが、人間は心理学で『認知バイアス』と呼ばれる脳の勘違いというか、まあ勝手に処理しちゃういろいろな機能があります。ヒトは理性をもって考えているようで実は理性的じゃない。上記のナーロッパ論争なんかはまさにソレで、剣と魔法を否定しないワリにジャガイモやトマトはツッコミをいれる。これフツーに考えたらいろいろとアレ・・だってことに気づくはずですよね

 よくわからないって方、逆に「ドラゴンってwww」となってしまう作品はどんなでしょう? と考えてみましょう。たとえば刑事ドラマものとして有名な『相棒』や『十津川警部シリーズ』などにドラゴンが登場して、杉下右京が「ドラゴンですか、今の季節珍しい。本来なら冬、標高が高い地域に生息しているはずですが妙ですねぇ」なんて言い出したらそりゃあもう草はえ散らかしますわよ。相棒の亀山薫もドン引きしちゃうじゃん?

 ってことで、ファンタジーを読む際人の心には『リアル感さえあればいい』というモノがあります。ツッコミを入れられるのはその人のリアル感が許さなかった、もしくは作者がうまい感じにリアル感を演出できなかった的な課題があると思われるって感じですね

 以上、個人の感想をちょっとだけ書きました。ってなことで、上記のような空想というか妄想をしていたとき「そーいや、わたしあまりヨーロッパの歴史知らないなぁ」的な感慨を覚えたので、本日はジャガトマ警察センパイを見習って、正しいジャガイモとトマトの歴史について、じゃなくて中世ヨーロッパの歴史をザッと・・・調べてみようかなと思います。え? なんでザッとかって? ――まあ、読めばわかります





:ひとことで"中世"と言われても:

 そもそも中世ヨーロッパだからね。まああの世界観は『ナーロッパ』だからねっていうことで決着がつくと思うのでここではもう切り上げましょう。次に「じゃあ実際の中世ヨーロッパはどうだったの?」的な話にスポットオンだぜ

 ひとことで中世ヨーロッパと括られていますがその年代は5世紀ごろから15世紀ごろ、つまり1000年間くらいのひろーい範囲を指してますので本来たくさんのなろうファンタジーバリエーションがあってもいいはずなのです。アナタが知らない中世ヨーロッパ風作品があるかもしれませんね

 中世は英語で書くと[ Medieval ]。それまで隆盛を極めたローマ帝国が内乱やら侵略やらで崩壊し、各種侵略してきた民族によって支配されるか、あるいは単純に独立するかであっちこっちの国に分かれていきました

 中世にはいった5世紀ごろ、まずはもともとあったローマと侵略してきた部族の文化が入り交じるところからスタートしました。それによってより混乱したのかと問われるとそうでなく、逆に軍隊やら何やら費用がかかるモノを必要としなくなったから税金が少なくなったぜヒャッハー的な地域もあったらようですね。中世初期は戦国時代っつーか、まああっちこっちで支配したされたが繰り返される時代です。ちなみにローマはしっかり『ビザンツ帝国(東ローマ帝国)』という名前で現在のトルコあたりで生き残ってます。んで7世紀までに復興していって、あちこちでまだ生存してたキリスト教の文化もここではしっかり残っていたので濃厚な関係を築いていくことになります。そもそも国教だしね

 一方、西側っていうかみんなが考える『ヨーロッパ』は毎年のように国の名前が変化していく感じ。いちおう中心に『フランク王国』がありつつも、やっぱり小国がちらほらあってなんちゃらゴート王国的な国もあるしてワケワカメ、ちなみにイギリスはちっちゃい土地のなかたくさんの国に分かれました。一説では150とか言われてるけどどんだけだよ初期ポケモンの数並じゃねーか

 とりあえず中世ヨーロッパ初期はもうしっちゃかめっちゃか大騒ぎの大乱闘スマッシュブラザーズして、文化やらラテン語教育やら学問やらの価値観がほぼぶっ壊されたというイメージでよろしく。その代わり何があったかってと音楽とか芸術とか、あと美徳やら勇気名誉うんぬん的なあれ。読み書きは必須スキルではないけど音楽はどこでも浸透している感じ。女性軽視というか、文化的に男性がリーダーシップを発揮していく時代でもありましたね。ただしみんなだいすきヴァイキングは女性が船を指揮していた模様

 ちなみに、この時代からすでに東には『フン族』という遊牧民が存在しており、着々と西側へ侵略するチャンスを伺っていました



:宗教同士の争いマジ不毛:

 上記のような大混乱ですから文明は停滞どころか衰退する一方でした。さらに、キリスト教と異なる宗教があちこちで出没しており、これは『ゾロアスター教』と書けばピンとくる方がいるかもしれませんね。学校の歴史の授業とかでも登場した由緒正しき? 宗教です。そしてこの時代にはあのイスラム教も誕生しました

 イスラム教の創始者『ムハンマド』は6世紀から7世紀に活躍した方ですが、彼は現在のサウジアラビアで誕生しています。それまでにも宗教同士の諍いはあったものの、まだキリスト教が強かったのでそこまで激化してなかったようですが、東ローマ帝国はイスラム教をある程度阻止できた一方、その他の国々はイスラムの勢い止まらず、現在のイタリアなどヨーロッパ圏にある程度勢力拡大した上、南方から地中海を跨いでスペイン方面へとすすみ、そのあたりは着々とイスラム圏になりつつありました。これは「ずっとペルシアと戦争してたからだ」と歴史家は評価してる模様

 中世ヨーロッパ初期の戦争は内乱のほか『イスラム vs キリスト』な感じに見えなくもない。イスラム教が浸透した地域が侵略して、地中海の南をまわってスペイン方面からヨーロッパへ進出。ってかキリスト教自体も「イエス・キリストとはどのような存在か?」についてあーだこーだケンカして『東方教会・西方教会』に分裂している始末です。べつに神のような存在でも人であってもいいじゃんかとどうしてキリストの神性について意見が食い違っただけで異端者として迫害されなきゃアカンのかと。ちなみにビザンツ帝国の国教は『東方正教会』ね

 東ローマはまだキリスト教の勢いがある一方、西側はどんちゃん騒ぎ中だったのでかまってるヒマはなく(イギリス除く)、フランク王国もいちおうキリスト教を重視しておきつつ、人々は教会に訪れることはあまり無かったそうです。ただ各地を巡回する聖職者との交流はあって、そこで神様がどーのこーの的な話を聞いていたそうです。修道院という制度が誕生したのもこの時代ですね。神に対する修行の場というより、どっちかってと地域のコミュニティセンターとかライフラインとかそういう役割を果たすことが多く、地域の中では大きな役割を担っていたようです

 この頃は戦争やら移住やらの煽りで移住が当たり前になったので貿易ネットワークなんてあったものじゃありません。この時代は金貨や銀貨より物々交換が盛んでした。っていうかあっちこっちの国ごとに紙幣があるから相場管理難しそうだよねぇ……そのヘンは支倉凍砂氏によるライトノベル『狼と香辛料』が詳しいのではないでしょうか?



:建築はどんな? あとお国の事情:

 中世ヨーロッパ初期は、ローマの主要として新しい大聖堂が建てられた時代です。ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の形式、つまりビザンチンスタイルの教会建築物は現在でも残っており、いたるところにドーム状のデザインがこしらえられているのが特徴。またキリスト教の十字をもじった平面図に綺羅びやかな装飾、大理石の床などまあ豪華。このあたりは『ビザンチン様式』あたりでググっていただければ幸い。中世ヨーロッパでも初期の世界観を演出するのに最適でしょう

 金細工師によるネックレスなどの装飾品も多く作られ、文明がだいぶぐちゃぐちゃになりつつも、工芸や芸術方面は素晴らしかったのだろうと思います。このほかフランク王国の『カロリング芸術』も特徴的なのでぜひググってみてください

 戦争をバチバチやってくので、この時代はそれなりに重装騎兵が盛んです。ウマに金具の鎧を着せて上に乗る人も鎖帷子だったりするのでおウマさんは苦労しただろうなぁと想像。騎兵は騎乗して戦うのでリーチが長い槍を使うのが一般的でした。主に歩兵を突破していく戦い方を想定していたようですが、ただまあ目立つし騎乗状態なので弓兵の餌食になりやすいようです。とくにこの時代はクロスボウが再評価されたので騎兵にとっては気をつけるべき相手だったのかもしれません。このヘンは『ラングリッサー』ってほんとよくできたゲームだったんだなぁと個人的に思いました

 なお、この時代に『ロングソード』が一般化しています。長さ1メートルにも及ぶ両手持ちの両刃剣ですね。重さもずっしり1キロオーバーものが多いのでしっかり持たなアカンです。銅製の板を重ねた防具などが登場していますので、この時期に焦点を合わせた作品を書きたいって方はぜひご参照いただければ幸い。なおこの時代は純粋な騎兵は少なく、戦う際はウマから降りた模様

馬「戦場に立たされる身にもなれってんだ」

 西ヨーロッパで最も盛んだったのは『フランク王国』です。今のフランスの原型。一時は帝王を名乗れるほど絶大な土地と権力をもっており、一部の方には『カール大帝』と書けば「ああ、あの国か」とご理解いただけると思います

 いっときはみんながイメージするヨーロッパほぼ全域を支配してたこの国。ふたつの王朝一族によって統治されてたんだけど細かくは書かない。ただこの国では『子の間で国を分割して受け継ぐ』っていう伝統があって、ちょっと(スゴい)諍いがあった後843年に3人の息子がフランク領土を3等分して継承。詳しい話は『ヴェルダン条約』でググっていただくとして、ここからフランク王国の衰退が始まり、真ん中のフランク(Middle Francia)はそうそうに消滅、東フランシアはドイツ(Germany)に改名、最終的に西のフランシアだけが現在のフランスという形として残った流れです。なおドイツは神聖ローマ帝国に大変身した模様



:1000年記はこれからも続く:

 ――ここまでが中世ヨーロッパの初期をざっくり書いた流れです。ここから中世の全盛期『1000 ~ 1300年』につながってくんだけど、なんかまったくイメージした中世と違う感じよね

 中世もど真ん中の中世時代はすでにポーランド、ハンガリー、スウェーデン、ノルウェー、ロシア(キエフ大公国)、デンマーク、フランス、ブルガリアなどわたしたちにとって馴染みのある国が登場していましたが、イタリアやドイツなど多くの国が『神聖ローマ帝国』に呑まれてます

 その他自発的な寄付だった10分の1税が、10世紀ごろから農作物に対する教会への定期的な税になっててキリスト教の精神はドコいった? とツッコミを入れたくなりますが、まあ組織ってのは何かと入り用なのですよ

 神聖ローマ帝国はとても大きな国です。さぞヨーロッパを席巻したのだろうと思うのですが、そのヘンは次回までのお楽しみということでひとつ。今回はこのヘンで区切りにしておきましょう



 ヨーロッパでは古代から家畜や狩猟で穫れる肉、栽培した小麦、ぶどう、りんご、キャベツ、リーキ、ネギ、香辛料、オリーブオイルやハチミツにミルクなど案外種類はありました。どの階級でも穀物を加工した食品が主食となり、肉はもっぱら貴族が食う流れ。なろう界隈で揶揄されるジャガイモ(Potato)は紀元前から南米にあった食材ですがヨーロッパで食われるようになったのは16世紀ごろ、トマトもまた紀元前からメソアメリカ(メキシコからコロンビアあたり)で食われてたけどヨーロッパに上陸したのはやっぱり16世紀ごろです

 どっちも中世時代過ぎに上陸してるので「中世ヨーロッパを舞台にしてジャガイモwwwトマトwww」とか言われてるんだね

 トマト言うたらイタリア料理、イタリア料理言うたらトマトっつーくらいの深い関係だけど、実は歴史自体はそこまで深くないというふしぎ。まあ、人間ターゲットを絞るとその方面にとんでもない進化を遂げるってことです。わたしたちはこれからもなろう系とよばれる『中世ヨーロッパ風』の世界を構築していくでしょう。そのなかで独自の世界を生み出し、もしかしたら「まーだ中世にジャガイモとか言ってるwww」と逆に言われる時代がくるかもしれませんね――っていうかもう言われてる?

 歴史を知ると創作の糧になります。ここで紹介したあれこれが、アナタの創作ライフの一助になれば幸い。もし「すげー役に立った!」とか「わかりやすかった!」などあれば評価とコメントいただければ幸い。それだけでなく「〇〇が足らない!」とか「もっと〇〇して!」的なリクエストもたっぷり受け付けております

 アナタの人生に幸あれ!
ほんとうのとうか、まあしっかりした中世ヨーロッパの世界観を知りたいなら

たとえば『スカイリム』とか『ウィッチャー3』とか『アサシンクリード』シリーズとか、つまり本場のヨーロッパ人が開発したコンテンツに触れてみるといいよ
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