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作者: 犬物語
犬「ワイのハナどんだけスゲーかしってる? 1億倍だぞぉ!」
くさい! 嗅がずにはいられない!!
 犬の優れた能力は? と問われたらナニが浮かぶでしょう? ――いろいろ、ほんっとにいろいろありますが、その中でも大多数の意見として『嗅覚』があると思います

 わんちゃんといっしょに暮らしてる方ならご存知でしょうが、犬はさんぽちゅうずぅぅぅぅ~~っっっっっとクンクンしてます。四六時中クンクンしてます。たまにおしっこします

 うちの黒ラブもあちこちクンクン。大型犬だから1時間くらい歩くけど、その半分以上くらいの時間はなんらかのニオイを嗅いでいます。なんだったら走りながらでも鼻をもそもそしてるからね

 犬にとっての嗅覚は、わたしたちにとっての視覚くらいのメインウェポンになりえます。いったいどんくらいスゴくて優秀なんでしょう? って話をやってきます





:そもそも"ニオイ"ってなんなの?:

 わたしたちは空気中に漂う『特定の物質』を鼻の中で感知すると「あ、〇〇のニオイだ」と認知します

 嗅細胞っていうニオイを感知する細胞があるんです。それに特定の物質――硫黄とかアンモニアとかそういうのが触れると神経に信号が伝達。それを脳みそちゃんが処理して「これは硫黄の香りだ」と把握するんだね

 光や音などの波長は幅があるため範囲があります。光は赤外線や紫外線は見えないですし、超音波は聞こえないですよね? けどニオイはその物質が触れれば感じられるという仕組みなので上限はありません。が、これくらいニオイの元に触れないと感じられないという下限(閾値)は存在します

 で、場合によっては凄まじい刺激を与えてくる物質がある。いわゆる刺激臭、激臭と呼ばれるヤツね。アンモニアなんかはその代表で、あまりにもヤバすぎるから『悪臭防止法』という法律で規制されるレベル。ニオイで体調を崩すこともあるからバカにできないのよ


e-Gov法令検索、悪臭防止法
ttps://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=346AC0000000091
環境省、上記法により指定された"特定悪臭物質"の測定方法
ttps://www.env.go.jp/hourei/10/000022.html


 理科の実験でアンモニア直吸いしようとしたおちゃめな人いるぅ? まあ学校の授業で使うアレは薄めたモノだからいいけど、純度100%のヤツでやったらアレなのでやめとこうね……ここでひとつ問題。動物によって『いいにおい・やなにおい』の感覚は異なります

 わたしたちにとって『腐敗臭』は不快感を覚えますが、死肉を貪るタイプの動物にとってその香りを出すブツは『エサ』なので反応して寄ってきます。もしかしたら『いいにおい』と感じてるのかもしれません

 犬もおんなじ。わたしたちにとっての『やなにおい』が犬にとって『いいにおい』かもしれないし、同じ感覚かもしれない。臭いを感じさせる物質(臭気物質)の感じ方もそれぞれで、犬種によっては酸臭を人間の1億倍の感度で探れるわんわんもいたりします

 びっくりだよね? さて、わんちゃんの嗅覚ってどんくらいスゲーんでしょう?

科学技術振興機構(JST) サイエンスポータル、嗅上皮の構造
ttps://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20200116_w01/





:犬の鼻はすごい:

 臭いを感じる細胞が集まる『嗅上皮きゅうじょうひ』。人間は4000万個とか言われるけどわんちゃんは2億個ある。すでにケタが違くて草だけど、その嗅上皮がある面積もヤバい

・嗅細胞
  ヒト:約 4000万 個数
  イヌ:約 2億 個
・嗅上皮の面積
  ヒト:約 5平方cm
  イヌ:約 15 ~ 150平方cm
・嗅覚に関する遺伝子
  ヒト:約 400個
  イヌ:約 800個

 ひとことで犬言うても小型犬から大型犬まであるから一概には言えんけど、小型犬でもヒトのそれを圧倒する優秀な嗅覚をおもちです

 わんわんはながーいマズル(口、鼻まわりの部分)のながーい道でじっくり臭いを吟味していくので、人間のそれより香り探知の精度が段違いに高いのです。臭いの識別、量、それらの情報をしっかり感じ取る能力に秀でており、それらは『〇〇探知犬』ってう形でわたしたちにとってもおなじみですよね

 中には『がん探知犬』とか『コロナ探知犬』とかもいるんだぜ? びっくりだよね?

 なお、わんちゃんのお鼻が湿ってるのは空気中の香り物質をそこでキャッチして、そのまま吸い込んでクンクンするためです。場合によってはフェロモンとかも嗅ぎ取るので近場にヒート期(子作り準備OKだぜ! ってメス)がいるとオスたちはそりゃあもうハァハァしちゃうのでお気をつけください

におい・かおり環境学会誌、宮崎 雅雄氏 哺乳動物の嗅覚コミュニケーション
ttps://doi.org/10.2171/jao.47.25



:どうやってクンクンするの?:

 ヒトは深呼吸で臭いを感じ取ろうとしますが、犬は「クンクンクンクンクンクンクンクン――フゥー」って感じの呼吸をします。このほうが鼻腔全体に香り物質が行き届くんだね。しかも、犬の鼻は吸い込む用のメイン穴と、スッた空気を吐き出す用のサブ穴(ωの両サイド)から吐き出せるのでマジべんり。犬は地面に鼻を近づけてクンクンするので、これによって地面の土埃を巻き上げ「はっくしょい!」って目に遭わずに済むのです

 犬種によりますが、犬には得意な香りがあります。とくに嗅ぎ分け上手なのは酸臭で、場合によってはヒトの1億倍もの精度で嗅ぎ分ける子もいます。まあ通常は10倍とか1万倍とかなのでご安心ください(なにが?

 あまりにも嗅覚に優れているので、わたしたちがトイレなどに使う『香りを出すアレ』が、場合によっては犬にとってストレスになる場合があります。アロマオイル、トレイの芳香剤、はたまた服の香り付けなどに反応するかもしれないのでそのヘンは愛犬とご相談ください

ヒト「この香りどう?」

イヌ「却下」

 言ってくれればイイんだけどねぇ


中央動物専門学校
ttps://www.chuo-a.ac.jp/anilab/life/1049/


 一般的に、ビーグルとかの『嗅覚でエモノを追いかける』系のわんこのほうが他の子より嗅覚が鋭い的な研究があります。ほかオオカミも優れた嗅覚をしており、この子たちはマズルが短い子やサイトハウンドより鼻が良いんですね

 警察犬が特定の香りに反応して「こっち!」言うてくれるのを見たことがあると思います。アレは人間が「この臭い覚えて」としっかり伝えてわんちゃんが「あん? なにコレ? ――クンクン、うん、まあわかった」と記憶しておく必要があります。特定のニオイに関する訓練は必要ですが、犬はすでにそのニオイを・・・・・・・・・知っている・・・・・ので、どのニオイに反応してどのような行動をしてほしいかは人間側がしっかりお世話してあげないといけないのです





:フェロモンってなんだ?:

 数あるニオイのなかでも『その生き物の行動に影響させるニオイ』をフェロモンと呼びます。通常、動物はフェロモンとなる物質を自力で生成でき、それらを分泌させ撒き散らし、自分と同じ動物になんらかの影響を与えることができます

 性質的には『ホルモン』に近いため厳密には"ニオイ"ではなく、専門的には嗅覚とは別に『副嗅覚系』として分別されています

 嗅覚は嗅上皮にある嗅細胞で感知しますが、フェロモンは『鋤鼻器じょびき』とよばれる部分(別名:ヤコブソン器官)が担当し、だいたい嗅上皮の近くにあることが多いです。ネコが呆けたように口をぽけぇ~っとあけるあの『フレーメン反応』は、鋤鼻器で感知したフェロモンをしっかり嗅ぎ分けようとするため起こる行動です

 犬の鋤鼻器は上前歯のちょっと奥にあります。フレーメン反応はないけど口をぺろぺろしたり、なんかソワソワするような行動が見られるかもしれません。そのまま鼻腔に通じる管があり、研究者は「たぶん性フェロモン感知してるんじゃね?」としていますが詳しいことは研究が求められています。鋤鼻器に障害がある場合、オスは交尾のためのマウンティングをしなくなり、メスはオスの求愛を受け入れなくなっちゃうようなのでお気をつけください

 いちおう、人間にもあります。あなたにも・・・・・ありました・・・・・と書いたほうがいいかもしんない。ヒトの場合、胎児の時は存在するのですが成長に伴って退化してく。最後には無くなるか、痕跡が残ってるくらいなのでヒトにはないよと書くのが適切かもしれません

 なお、性的なイメージのフェロモンにもいろんなバリエーションがあります

 アリさんがよくやる「こっちだ!」的な道標フェロモン、仲間の集合を促すフェロモン、外敵が現れたことをみんなに知らせるフェロモン――ハチさんがこのフェロモンを出したら時すでにおそしって感じ

 鋤鼻器がない、退化したとされる人間にもフェロモンはあります。脇の下から分泌されるフェロモンを嗅ぐと月経周期が変化したり、母親の乳輪から放たれ子どもに乳房の場所を教えるフェロモンなどもあります

 人間だって犬だって、そのほか多くの動物にとってフェロモンは貴重な情報源となります。ヒトのフェロモンがどうやってヒトに作用するのか明らかになっていませんが、少なくともわんわんはフェロモンに対してめっさ反応するしめっさ興奮しますおいちょっとまて落ち着けやめろおおおおお!(リードを引っ張られ引きずられる飼い主の図



 犬の嗅覚は凄まじい。道端でするおしっこには多くの情報が詰まっており、ニオイやフェロモンによって人間が想像もつかないような情報交換をしている可能性だってあります。もしかしたら、わんちゃんたちは草むらに黄金水をかけ流すことで――

いぬ「なぁなぁ聞いたか? 隣町のアイツ引っ越すんだってよ」

イヌ「マジで? どこどこ?」

いぬ「港区だとさ」

犬「あーそれ知ってる。なんかカフェの看板犬になるんだって」

イヌ「すげえ! 毎日エサ食い放題じゃん!」

 なんて会話してるかもしれない。いやないけど、いやあるかも(願望

 犬には犬のコミュニケーション手段があります。自分のニオイを撒き散らしたり、そのヘンのニオイを敏感に感じ取ったり、もしかしたらニオイの好き嫌いもあるかもしれませんね。アナタの愛犬がどんなニオイに反応するか、どういったニオイに寄っていくか調べてみましょう。もしかしたら、わんちゃんの新しい一面が見られるかもしれません

 アナタと、アナタの"家族"に幸あれ!
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