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作者: ちありや
第187話 ちしゅ
 大豪院の全身から放たれた『勇者の光』は瞬く間に周囲を浄化し、バララが展開した糸の陣を消滅させた。それに伴い糸に拘束されていた睦美やユリ達も自由を取り戻す。

 マジボラ勢には優しく暖かい光であったが、傍らの魔族四天王には毒の光であった様である。
 ドレフォザは20m程上方に滞空していたが、大豪院の光に幻惑されて目を覆っていたし、バララに至っては『糸の切れた人形』の様にその場で崩折れ倒れ伏してしまった。

「大豪院くん、転生した訳でもないのに『勇者の光』を纏えるなんて、さすがアグエラの言う通り出鱈目にスペシャルな子なんだなぁ…」

 ユリの驚きはとても言葉では言い表せない。本来『魔王』に対抗できる『勇者』は、勇者となるべく神に導かれて生を受けた人物のみが名乗る事を許される称号だ。
 
 元々大豪院は天上の神によって『こいつを死後勇者として転生させよう。魔王ギルの脅威が喫緊だからなるべく早く殺してしまえ』という思惑の元に幼少時から命を狙われ続けていた存在である。
 言わば大豪院は未だ『勇者予備軍』であって『勇者』では無かった訳だ。

「睦美さま、大豪院君のあの優しい目は絶対にガイラム様でしたよね? ガイラム様の魂が大豪院君の中で目覚めたのでしょうか…?」

 久子が睦美に問いかける。もし本当にそうであれば、前世である『勇者』ガイラムの力が大豪院に継承されたと考えれば腑に落ちない話でもない。

「やはり大豪院くんは…」

「…話は後よ、2人とも!」

 久子とアンドレが大豪院の中の魂の正体に想いを馳せていた頃、睦美だけはバララの立っていた場所を見つめて警戒を解いていなかった。

「あー、もうムカつくぅ! 『この娘』お気に入りだったのにぃ!」

 声と同時に地面に大穴が空き、その中から現れたのは軽トラック程の大きさを持つ巨大な蜘蛛の怪物だった。
 これこそがバララの本体。人形を使って敵を撹乱し、死角からの攻撃を旨とする魔物。
 
 ドレフォザと組むようになってから蜘蛛の姿を現す事は少なくなったが、自慢の『糸の陣』を大豪院に破られた怒りは、バララの人形使いとしてのプライドを破壊していた。

「なるほど、人形だったから首を落としても死ななかったのね…」

 睦美の呟きを受けてバララが呵々大笑する。

「そうよっ! もうあたしが本気になった以上、遊びはお仕舞いっ! あたしの本体から放たれる糸の強度は今までの10倍よっ! あんたらまとめ…」

「いやぁぁぁっ! クモ嫌いぃぃっ!!」

 バララのセリフの途中でユリが叫び声を上げる。その抱え込んだ両の手には何やら光るエネルギー体が包まれていた。
 そのまま両手をバララに突き出したユリから超高圧のビーム(ドッズリリィスパイラル)は回転しながらバララの体を易々と貫き、かつて魔王軍四天王だったバララは一瞬にして物言わぬしかばねと成り果てた。

「リリィショット! リリィショット! リリィショット!」

 顔面蒼白で錯乱状態のユリは淡々とバララの残骸に技を撃ち込み、破片を更に細かく破砕していく。

「なんと御嬢がいとも簡単に… むう、ここは一旦退いて魔王様にご報告をしなければ…」

 睦美達の遥か上空から戦況を見ていたドレフォザだが、まさかのバララの一方的な敗北にこちらもユリに劣らず顔色を青くしていた。
 そしてきびすを返した様に魔王城へと飛び去ろうとするドレフォザの頭がいきなり爆ぜた。

「…………」

 大豪院の投げた石が距離にして100mはあろうドレフォザの頭部に直撃、魔法による防壁をあっさりと破りドレフォザを滅する。
 頭を失ったドレフォザの首から炎が立ち昇り全身を焼く。その炎に巻かれながら落ちていくドレフォザの死体は、地面に落下する前に燃え尽きていった。
 
 実にこの数分の間で魔王軍四天王のうち、実に3人が討ち取られた事になる。

 ☆

「はぁ… とにかくヤっちまった事はもうしょうがないから、今後の方針だけ決めてね?!」

 錯乱から復帰し、冷静さを取り戻したユリが睦美達を睨み付けながら場を仕切る。

「そんな事を言ったってしょうがないじゃない。臨機応変よ臨機応変」
「そうですよ。ここは魔界、何が起こるが分からないんです!」
「君主を守るのが近衛の務めですから」
「…………」

 最後の大豪院を除いて、思い思いにユリに反論するマジボラ一行。

「お前らシャラぁップ! 大体作戦を考えたの睦美さんでしょ? 本人が暴走してどうするんですか?! それに大豪院くんだって勝手に飛び出して…」

 ユリの言葉に全員の視線が大豪院に向く。大豪院は相変わらず目を閉じ腕を組んで「我関せず」といった態度を取っていた。

「そういえば大豪院くん、かなり様子が違っていましたけど、何か心境の変化でもあったのですか…?」

 アンドレが大豪院に対して探る様な言葉をかける。彼の様子を見る限り今は紛れもなく『大豪院覇皇帝かいざあ』であって『ガイラム王子』では無さそうだ。
 まさか大豪院に直接「貴方はガイラム王子ですか?」と聞くわけにもいかず、変な間になってしまっていた。

「……分からん、あまりよく覚えていない。頭の中に睦美あんたの叫び声が聞こえた様な気がしてから、魔法使いに石を投げるまでの記憶があまり無い…」

 そう呟いて拳を握る大豪院。その拳には間違いなく暖かな『勇者の光』が宿っていた。
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