第180話 せんにゅう
「じゃあ作戦を説明するわ。魔王の城に攻め入る振りをして時間を稼ぎ、その間に囚われている沖田を救出する。救出を確認したら速攻でトンズラ。潜入メンバーはアグエラ、御影、そしてつばめよ」
会議の結果、次の作戦が決まった。潜入メンバーの選考は難航したが、隠密作戦に長けていざとなれば音も無く暗殺の可能なアグエラ、魔法で偽装工作を行えて身体能力も高い御影、そして被救出対象である沖田を最も良く知り最も慕う女つばめ。この3人が適格であろうと判断され選出された。
「残りはユリを中心に魔王城の正面から揺さぶりをかけるわ。大豪院は魔王の隙を突く為に御影に偽装させて後方で待機。いい?」
睦美はユリと大豪院の2人に目を遣る。大豪院はいつもの様に腕を組んで目を閉じ、寝ているのか起きているのか分からないまま押し黙っている。
一方のユリは『私は空気の読めない女です』と書かれたパネルを首から下げてつまらなそうに頷いていた。
ユリの発見してきた避妊具にまともに反応して顔を赤らめたのは久子だけで、御影は相変わらず薄笑いのままだったし、睦美とつばめは馴染みが無さすぎて見慣れぬ四角い梱包物の正体に気が付かなかった。
つばめは『そういった物』の存在を知ってはいたが、どの様な形で梱包保管されるのか知らなかったし、睦美は良くも悪くも純粋培養のお姫様なので、そういった下世話なアイテムとは無縁な生活を送っていたからだ(名前を揶揄すると怒るくらいには存在を知っている)。
結果ユリ自身が悪いわけでは無いのだが、行動と発言のタイミングが悪すぎた為に御影とアンドレからNGが出てしまい、御影が急遽作成したパネルをぶら下げている次第である。御影のお手製で無かったらユリもここまで大人しく反省していなかっただろう。
「油小路の使った《転移門》の後をそのまま追って魔王の真正面に出ても困るから、別途に《転移門》を開く場所を定める為に偵察が必要よ。今、念話で部下の淫魔部隊をここに呼んだわ。そちらのメガネちゃん(野々村)とガリゾーくん(鍬形)も一緒にね。森の中よりは快適で安全でしょう」
続くアグエラの作戦指示に従い、本日はこの屋敷に泊まる事になりそうだ。幸いな事に油小路の部下が蘭と沖田の為に用意した『元の世界』の食料や衣料品が多量にある。数日なら退避していた野々村達を加えても十分に逗留出来るだろう。
つばめ達は屋敷内の多数ある空き部屋に散って、睦美がアグエラから転移魔法のアップデートのレクチャーを受けたり、鍬形がアンドレから剣術の初歩を学んだり、ユリが御影の部屋に夜這いをかけたりと、それぞれの思い出深い夜を過ごした。
☆
「空からの偵察、終了しましたアグエラ様。魔王城から500mほど離れた森の中に丁度いい広さの空き地があります。そこなら奴らの探知魔法に掛からずに転移できるはずです」
淫魔部隊で最も小柄で幼い感じの… 有り体に言ってしまえば『ロリ担当』であるエトが、コウモリの様な背中の翼を収容しながらアグエラに報告する。
すかさずアグエラはエトの額に指を当て目を閉じ、二言ほどの詠唱をする。魔法によってエトの得た情報を己の頭に複製したのだ。
「OK、お疲れ様… よし、エトの記憶の複製は完了したから、こっちはいつでも行けるわよ。そっちの準備はどうなの?」
アグエラの問いに睦美がいつもの余裕の笑みで無言のまま頷く。他の者も同様だ。
一方、鍬形と野々村、更に淫魔部隊の計7人は屋敷の要塞化を命じられていた。といっても大掛かりな事をできる訳でもないので、窓や裏の勝手口の様なメインの玄関以外を、破壊したベッドの板切れ等で封鎖、補強していく程度ではあるが。
もし何か不測の事態が起きた時に、この屋敷に集合しようと決定したのだ。簡単に魔族相手に陥落してしまうようでは避難所として使えなくなってしまう。やはり守りを固めるのは必至であった。
「じゃあ、この内の何人かは生きて再び会えない可能性があるけど、悔いの無いようにいきましょう…」
アグエラの言葉が『行きましょう』なのか『生きましょう』なのかは判然としないが、次が恐らくは最後の戦いだ。
つばめは緊張で唾を飲み込む。今度こそ敵の魔の手から囚われた沖田を奪回しなければならない。
☆
エトの観測した偵察ポイントに転移し、潜入組と囮組とで分かれる。大豪院は御影の魔法でユリの世界の王国兵士の虚像を被せた。傍目からは大豪院のシルエットは残っておらず、ただのモブ兵士に見える。
尤も大豪院自身の発する強力な気は御影にも如何ともしがたく、大豪院と一戦交えた魔王であるならば、近くに来たら瞬時に見破られてしまうであろう。それでも一瞬でも隙を突ければ勝機が見えるかも知れない。
そんな博打と変わらない、作戦とも呼べない様な稚拙な虚飾だが、そんな小細工に頼らざるを得ないほどあの魔王は強大であった。
「あの… アグエラさん、1つ聞いても良いですか? なぜ魔族である貴女が沖田くんを助ける手助けをしてくれるんですか? いや、向こうの魔王やその手下が嫌いなのは知ってますけど、それだけじゃないような…?」
睦美らと別れて御影を含む3人で行動し始めてすぐ、つばめがアグエラに質問をした。
つばめとしては真意の掴めない相手と行動を共にする不安があったために、あくまで確認のつもりでアグエラに問うたのであるが、アグエラからの返答はつばめの予想を遥かに超えるものであった。
「そうねぇ… 話を聞く限りその沖田くんってイケメンなんでしょ? 恩を売って一晩だけで良いからお相手して貰おうかなぁって思ったのよ…」
会議の結果、次の作戦が決まった。潜入メンバーの選考は難航したが、隠密作戦に長けていざとなれば音も無く暗殺の可能なアグエラ、魔法で偽装工作を行えて身体能力も高い御影、そして被救出対象である沖田を最も良く知り最も慕う女つばめ。この3人が適格であろうと判断され選出された。
「残りはユリを中心に魔王城の正面から揺さぶりをかけるわ。大豪院は魔王の隙を突く為に御影に偽装させて後方で待機。いい?」
睦美はユリと大豪院の2人に目を遣る。大豪院はいつもの様に腕を組んで目を閉じ、寝ているのか起きているのか分からないまま押し黙っている。
一方のユリは『私は空気の読めない女です』と書かれたパネルを首から下げてつまらなそうに頷いていた。
ユリの発見してきた避妊具にまともに反応して顔を赤らめたのは久子だけで、御影は相変わらず薄笑いのままだったし、睦美とつばめは馴染みが無さすぎて見慣れぬ四角い梱包物の正体に気が付かなかった。
つばめは『そういった物』の存在を知ってはいたが、どの様な形で梱包保管されるのか知らなかったし、睦美は良くも悪くも純粋培養のお姫様なので、そういった下世話なアイテムとは無縁な生活を送っていたからだ(名前を揶揄すると怒るくらいには存在を知っている)。
結果ユリ自身が悪いわけでは無いのだが、行動と発言のタイミングが悪すぎた為に御影とアンドレからNGが出てしまい、御影が急遽作成したパネルをぶら下げている次第である。御影のお手製で無かったらユリもここまで大人しく反省していなかっただろう。
「油小路の使った《転移門》の後をそのまま追って魔王の真正面に出ても困るから、別途に《転移門》を開く場所を定める為に偵察が必要よ。今、念話で部下の淫魔部隊をここに呼んだわ。そちらのメガネちゃん(野々村)とガリゾーくん(鍬形)も一緒にね。森の中よりは快適で安全でしょう」
続くアグエラの作戦指示に従い、本日はこの屋敷に泊まる事になりそうだ。幸いな事に油小路の部下が蘭と沖田の為に用意した『元の世界』の食料や衣料品が多量にある。数日なら退避していた野々村達を加えても十分に逗留出来るだろう。
つばめ達は屋敷内の多数ある空き部屋に散って、睦美がアグエラから転移魔法のアップデートのレクチャーを受けたり、鍬形がアンドレから剣術の初歩を学んだり、ユリが御影の部屋に夜這いをかけたりと、それぞれの思い出深い夜を過ごした。
☆
「空からの偵察、終了しましたアグエラ様。魔王城から500mほど離れた森の中に丁度いい広さの空き地があります。そこなら奴らの探知魔法に掛からずに転移できるはずです」
淫魔部隊で最も小柄で幼い感じの… 有り体に言ってしまえば『ロリ担当』であるエトが、コウモリの様な背中の翼を収容しながらアグエラに報告する。
すかさずアグエラはエトの額に指を当て目を閉じ、二言ほどの詠唱をする。魔法によってエトの得た情報を己の頭に複製したのだ。
「OK、お疲れ様… よし、エトの記憶の複製は完了したから、こっちはいつでも行けるわよ。そっちの準備はどうなの?」
アグエラの問いに睦美がいつもの余裕の笑みで無言のまま頷く。他の者も同様だ。
一方、鍬形と野々村、更に淫魔部隊の計7人は屋敷の要塞化を命じられていた。といっても大掛かりな事をできる訳でもないので、窓や裏の勝手口の様なメインの玄関以外を、破壊したベッドの板切れ等で封鎖、補強していく程度ではあるが。
もし何か不測の事態が起きた時に、この屋敷に集合しようと決定したのだ。簡単に魔族相手に陥落してしまうようでは避難所として使えなくなってしまう。やはり守りを固めるのは必至であった。
「じゃあ、この内の何人かは生きて再び会えない可能性があるけど、悔いの無いようにいきましょう…」
アグエラの言葉が『行きましょう』なのか『生きましょう』なのかは判然としないが、次が恐らくは最後の戦いだ。
つばめは緊張で唾を飲み込む。今度こそ敵の魔の手から囚われた沖田を奪回しなければならない。
☆
エトの観測した偵察ポイントに転移し、潜入組と囮組とで分かれる。大豪院は御影の魔法でユリの世界の王国兵士の虚像を被せた。傍目からは大豪院のシルエットは残っておらず、ただのモブ兵士に見える。
尤も大豪院自身の発する強力な気は御影にも如何ともしがたく、大豪院と一戦交えた魔王であるならば、近くに来たら瞬時に見破られてしまうであろう。それでも一瞬でも隙を突ければ勝機が見えるかも知れない。
そんな博打と変わらない、作戦とも呼べない様な稚拙な虚飾だが、そんな小細工に頼らざるを得ないほどあの魔王は強大であった。
「あの… アグエラさん、1つ聞いても良いですか? なぜ魔族である貴女が沖田くんを助ける手助けをしてくれるんですか? いや、向こうの魔王やその手下が嫌いなのは知ってますけど、それだけじゃないような…?」
睦美らと別れて御影を含む3人で行動し始めてすぐ、つばめがアグエラに質問をした。
つばめとしては真意の掴めない相手と行動を共にする不安があったために、あくまで確認のつもりでアグエラに問うたのであるが、アグエラからの返答はつばめの予想を遥かに超えるものであった。
「そうねぇ… 話を聞く限りその沖田くんってイケメンなんでしょ? 恩を売って一晩だけで良いからお相手して貰おうかなぁって思ったのよ…」