第168話 だいだ
「ねぇお爺ちゃん、お姉が拉致られてもう3日だよ? そろそろヤバくない? 警察とか行った方が良くない?」
「そうは言っても蘭が連れ去られたのは別の世界だろうから、こっちからは何も手が出せんのよ… あれきり油小路さんとも連絡つかんし、もぉぶっちゃけお手上げ」
「言ってる場合かよ! 大体お姉はどういう立場なの? うちらの幹部かと思えば魔法少女の仲間だったり、魔族…? と知り合いだったり、もぉワケ分かんないんですけどぉ?!」
増田家の平和で日常的な朝の光景である。蘭の妹の凛であるが、シン悪川興業の内情も含め大事なことは『まぁ追々教えてやるよ』と先送りされており、祖父の繁蔵や姉の蘭の事情などほとんど知らないまま幹部ウタマロんとして良い様に利用されていた。
「お姉だって女の子なんだよ? 着替えも何も持たずに何日もそのままじゃ可哀想じゃん…」
「なぁに、着替えなんぞ別に要らんじゃろ。パンツなんて前後裏表で4日間は穿けるしな」
「いや、そのりくつはおかしい」
研究馬鹿の繁蔵は、どうにも他人に対するデリカシーに大きく欠ける部分がある。凛とて両親が死んでからの長い付き合いだ。祖父の性格をよく理解しているつもりだったが、さすがにこれでは蘭が気の毒すぎるだろう。
かと言って繁蔵の言う通り、所在不明で消息すら掴めない蘭に対して何らかのアクションが取れる訳でも無く、凛は悶々とした日々を過ごさざるを得なかった。
「とりあえずワシらの出来ることは生活のために恐怖エナジーを集める事だけじゃ。ほれ。今日の午後にも出動するからな? 『ウタマロんmk2』の準備をしておけよ」
「はぁい…」
「テレビ見てないで早く寝なさい」と言われた子供と同じテンションで凛は気だるげに返事をした。
☆
「まろーん!!」
本日の襲撃場所は瓢箪岳高校近くの商店街。隣駅の大型モールの出店によって客足が大きく遠のいたものの、近隣住民の好意でひっそりとだが存続している商店街である。
ウタマロんは手に備えられた機関銃モドキでゴキゲンに通行人を襲って着実に恐怖エナジーを集める事に成功していた。
いつもなら幹部に随伴する怪人が今日は見当たらないのは、組織の経済的な事情なのか別の理由があるのかは定かではない。
そして1人頑張るウタマロんを高台から冷ややかに見つめる人物が3人……。
「へぇ、アレが噂の『悪の怪人』なのねぇ…」
「あ、あの… 本当にやるんですか…?」
「可愛い後輩の頼みだもん、イイトコ見せないと!」
3人はいずれも若い女性に見受けられる。3人ともがプロレスラーが使う様なマスクを被り鼻から上の人相を隠している。
更に3人ともが露出の高いハイレグビキニを着用しており、それぞれ赤、黄、青の3色がメインカラーとなっている様だ。傍目には戦隊ヒーローか企画物のアダルトビデオかただの痴女である。
「誰から行く?」
「まずは2号ちゃんが行って弾除けの壁を作るべきじゃないかしら?」
「ええっ?! 私ですか? いやあの、トップバッターはちょっと… そういうのはとも… じゃなくて1号さんの得意技だし…」
「えー? あたし防御技弱いから鉄砲で撃たれるとかイヤなんですけど?」
なにやら揉めているようであるが、その間にもウタマロんは元気に暴れまわって商店街を恐怖に陥れている。
「ちょっと、何やってんスか先輩たち。普通にやりましょうよ普通に」
怪しい3人組の前に呆れ顔で現れたのは綿子であった。つまり綿子の眼の前にいる露出きょ… もとい美少女仮面たちは、綿子の所属する女子レスリング同好会の先輩、炉縁 智子と土岐いのり、そして汀 奈津美である。
智子は『火』を、いのりは『土』を、奈津美は『水』を操作して戦う能力者であり、地球の平和には全く貢献していないがそれなりに強い人たちである。
「マジボラの人達が魔界に行っている間、街の平和を守る役目を任されたからって、そんな変態トリオにならなくても良くないですか?」
綿子のツッコミに意気消沈する3人。特にいのりなどはマスクの上からでも分かるくらいに顔を真っ赤にして、恥ずかしいのか手で顔を覆っている。
「でもさでもさ綿子? せっかく正義の味方できるならこれくらいやんなきゃダメなんじゃないの? せっかく衣装も揃えたんだしさ。『聖服』仕様で高かったんだよ?」
無慈悲な綿子のツッコミに智子… いや赤い衣装の1号が口を尖らせて抗議する。
「いや知らんて。あぁもうとにかくウタマロんなんとかしましょう。変態!」
綿子も呪文を唱えて、魔法少女『プリティコットン』へと変態する。
「あー、綿子も赤い服とかズルい。あたしと色被ってんじゃん。先輩命令、色チェンしてこい!」
「無茶言わないで下さいよ! あーしも色を選んだ訳じゃねーんスよ!」
ツッコミに疲れたのか徐々に口調が荒くなる綿子。そんな綿子にいの… 黄色い衣装の2号が声をかける。
「綿子ちゃん、変身して良いの? 何か良くない事が起きるって聞いてるけど…?」
「…だから早く済ませてーんですよ。もう行きますよ!」
魔法少女を長く続けると『変態』している体が本体になり、人間としての生態が保てなくなる。具体的には遺伝子が変質し人間との間に子供が作れなくなるのだ。
現在進行系で付き合っている彼氏がおり、密かに彼との結婚も視野に入れている綿子としては子供が作れなくなると困るので、今の状況を秒で終わらせてさっさと家に帰りたいのだ。
結局綿子が先陣を切る形で、シン悪川興業vs聖服組+綿子の死闘の幕が切って落とされた。
「そうは言っても蘭が連れ去られたのは別の世界だろうから、こっちからは何も手が出せんのよ… あれきり油小路さんとも連絡つかんし、もぉぶっちゃけお手上げ」
「言ってる場合かよ! 大体お姉はどういう立場なの? うちらの幹部かと思えば魔法少女の仲間だったり、魔族…? と知り合いだったり、もぉワケ分かんないんですけどぉ?!」
増田家の平和で日常的な朝の光景である。蘭の妹の凛であるが、シン悪川興業の内情も含め大事なことは『まぁ追々教えてやるよ』と先送りされており、祖父の繁蔵や姉の蘭の事情などほとんど知らないまま幹部ウタマロんとして良い様に利用されていた。
「お姉だって女の子なんだよ? 着替えも何も持たずに何日もそのままじゃ可哀想じゃん…」
「なぁに、着替えなんぞ別に要らんじゃろ。パンツなんて前後裏表で4日間は穿けるしな」
「いや、そのりくつはおかしい」
研究馬鹿の繁蔵は、どうにも他人に対するデリカシーに大きく欠ける部分がある。凛とて両親が死んでからの長い付き合いだ。祖父の性格をよく理解しているつもりだったが、さすがにこれでは蘭が気の毒すぎるだろう。
かと言って繁蔵の言う通り、所在不明で消息すら掴めない蘭に対して何らかのアクションが取れる訳でも無く、凛は悶々とした日々を過ごさざるを得なかった。
「とりあえずワシらの出来ることは生活のために恐怖エナジーを集める事だけじゃ。ほれ。今日の午後にも出動するからな? 『ウタマロんmk2』の準備をしておけよ」
「はぁい…」
「テレビ見てないで早く寝なさい」と言われた子供と同じテンションで凛は気だるげに返事をした。
☆
「まろーん!!」
本日の襲撃場所は瓢箪岳高校近くの商店街。隣駅の大型モールの出店によって客足が大きく遠のいたものの、近隣住民の好意でひっそりとだが存続している商店街である。
ウタマロんは手に備えられた機関銃モドキでゴキゲンに通行人を襲って着実に恐怖エナジーを集める事に成功していた。
いつもなら幹部に随伴する怪人が今日は見当たらないのは、組織の経済的な事情なのか別の理由があるのかは定かではない。
そして1人頑張るウタマロんを高台から冷ややかに見つめる人物が3人……。
「へぇ、アレが噂の『悪の怪人』なのねぇ…」
「あ、あの… 本当にやるんですか…?」
「可愛い後輩の頼みだもん、イイトコ見せないと!」
3人はいずれも若い女性に見受けられる。3人ともがプロレスラーが使う様なマスクを被り鼻から上の人相を隠している。
更に3人ともが露出の高いハイレグビキニを着用しており、それぞれ赤、黄、青の3色がメインカラーとなっている様だ。傍目には戦隊ヒーローか企画物のアダルトビデオかただの痴女である。
「誰から行く?」
「まずは2号ちゃんが行って弾除けの壁を作るべきじゃないかしら?」
「ええっ?! 私ですか? いやあの、トップバッターはちょっと… そういうのはとも… じゃなくて1号さんの得意技だし…」
「えー? あたし防御技弱いから鉄砲で撃たれるとかイヤなんですけど?」
なにやら揉めているようであるが、その間にもウタマロんは元気に暴れまわって商店街を恐怖に陥れている。
「ちょっと、何やってんスか先輩たち。普通にやりましょうよ普通に」
怪しい3人組の前に呆れ顔で現れたのは綿子であった。つまり綿子の眼の前にいる露出きょ… もとい美少女仮面たちは、綿子の所属する女子レスリング同好会の先輩、炉縁 智子と土岐いのり、そして汀 奈津美である。
智子は『火』を、いのりは『土』を、奈津美は『水』を操作して戦う能力者であり、地球の平和には全く貢献していないがそれなりに強い人たちである。
「マジボラの人達が魔界に行っている間、街の平和を守る役目を任されたからって、そんな変態トリオにならなくても良くないですか?」
綿子のツッコミに意気消沈する3人。特にいのりなどはマスクの上からでも分かるくらいに顔を真っ赤にして、恥ずかしいのか手で顔を覆っている。
「でもさでもさ綿子? せっかく正義の味方できるならこれくらいやんなきゃダメなんじゃないの? せっかく衣装も揃えたんだしさ。『聖服』仕様で高かったんだよ?」
無慈悲な綿子のツッコミに智子… いや赤い衣装の1号が口を尖らせて抗議する。
「いや知らんて。あぁもうとにかくウタマロんなんとかしましょう。変態!」
綿子も呪文を唱えて、魔法少女『プリティコットン』へと変態する。
「あー、綿子も赤い服とかズルい。あたしと色被ってんじゃん。先輩命令、色チェンしてこい!」
「無茶言わないで下さいよ! あーしも色を選んだ訳じゃねーんスよ!」
ツッコミに疲れたのか徐々に口調が荒くなる綿子。そんな綿子にいの… 黄色い衣装の2号が声をかける。
「綿子ちゃん、変身して良いの? 何か良くない事が起きるって聞いてるけど…?」
「…だから早く済ませてーんですよ。もう行きますよ!」
魔法少女を長く続けると『変態』している体が本体になり、人間としての生態が保てなくなる。具体的には遺伝子が変質し人間との間に子供が作れなくなるのだ。
現在進行系で付き合っている彼氏がおり、密かに彼との結婚も視野に入れている綿子としては子供が作れなくなると困るので、今の状況を秒で終わらせてさっさと家に帰りたいのだ。
結局綿子が先陣を切る形で、シン悪川興業vs聖服組+綿子の死闘の幕が切って落とされた。