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作者: ちありや
第138話 しょうげき
 空を飛んで睦美の手から逃れてきたウマナミ改こと蘭であったが、どうにも嫌な胸騒ぎが拭いきれず、凛のいるショッピングモールの方へとやって来た。

『なんかもう騒ぎになってる… って凛が来てるんだから当たり前か… あ、あれは野々村さん…?』

 背中で鳥の様に羽ばたいている羽根の動きを止め、自然落下に身を任せる蘭。

変態メタモルフォーゼ…」

 ウマナミ改の姿のままでは混乱に拍車を掛けると判断した蘭は、落ちて回転しながらノワールオーキッドへと変態する。

 50m近く落下して野々村達の眼前に華麗に… いや『ドォン』という着地音と共に結構ワイルドに降り立つ蘭。
 一方の野々村も、かつてつばめが暴漢に襲われた(野々村が襲わせた)時に、ヒーロー然と助けに現れた黒衣の魔法少女を瞬時に思い出す。

『あれ? 今日は増田さんは欠席って聞いてたけど来てくれたんだ… 始めからそんな気はしてたけど、やっぱり正義の心が強い人なんだろうなぁ…』

 蘭の預かり知らぬ所で密かに感動する野々村。 
 野々村は蘭が何かしらの諜報活動を行っているのは知っているが、ウマナミ改である事までは聞いていない。

「今どういう状況か教えてもらえる?」

「はい、駐車場の方で事件になってます。詳細は生憎… アンドレ先生と大豪院くんと御影様が向かっています」

 蘭の問いに野々村は流れる様に返答し駐車場の方向を指差す。

 蘭は「ありがと」とだけ答えて駐車場へと走り出す。『御影“様”って何だろう?』と思いながら。

 ☆

「いやぁーっ!!!」

 ウタマロんに巻き込まれて吹き飛ばされた沖田を目で追いながら、恐怖映画のヒロインの如き叫び声を上げたつばめ。

 沖田に衝突した時のウタマロんの速度が時速にして80〜90kmであった。ウタマロんの重量が凛込みで100kgとした場合、沖田の受ける衝撃はほぼ時速40kmで走る軽自動車に撥ねられた物に等しい。

 次のコマでダメージが全快するギャグ物の少年漫画ならともかく、科学考証100%の恋愛小説である本作では沖田は無事では済まないだろう。
 
「沖田くんっ!!」

 ウタマロん諸共に転げ回った沖田を追ってつばめは走った。先程まであんなに楽しく談笑していた沖田が土埃の中に倒れ伏したまま動かない。
 沖田に当たったのが隕石だろうがウタマロんだろうがつばめにはどうでもいい事である。沖田の安否の確認がまず第一だ……。

 ☆

駐車場に囚われていた人達は、植物怪人の消滅と共に蔦の檻が消え去った事で次々に解放されていった。
 御影が現場に到着したのはウタマロんが大豪院に対して銃撃を開始した位の時間であったろう。

「ジャズ歌手シャンソン歌手」

 わずかでも援護になればと御影はウタマロんに幻惑の魔法を掛ける。しかし魔法は邪魔具によって無効化されてしまう。
 ただ「何者かに魔法攻撃を受けた」という情報はウタマロんの中の凛にも伝達され、それによってほんの一瞬ではあったが凛は注意を御影に向けた。

 結果的にその一瞬の隙を突いてアンドレがウタマロんの射線から抜け出す事に成功していたのだから、御影のアシストの効果は絶大であり、御影は今回の影の功労者であったと言えるだろう。

「僕はあの丸い奴を追います。御影くんは被害者達のケアを頼みます」

 ウタマロんの飛び去った後、アンドレは御影に後事を託してウタマロんの墜落したと思われる公園へと急いだ。

「……」

 走り去るアンドレの背中を見つめながらしばらく何かを黙考していた大豪院も、やがてアンドレの後を追って走り出した。
 更にその後ろを『俺何やってんだろう?』という顔で追いかける鍬形の姿もあった。

 ☆

 蘭が駐車場に到着したのは、今まさにウタマロんが空へと飛翔しようとしていたその時だった。
 しかしウタマロんは脱出する為の軌道を離れ、横方向へと飛び去ってしまう。

「凛!」

 マジボラのノワールオーキッドとしては敵組織の幹部であるウタマロんだが、増田蘭としては血を分けた妹である。
 即座にウタマロんを追って足を早める蘭。そのせいで駐車場での救助活動で足を止めていたアンドレらに少し先んじる事が出来た。

 ☆

「ふむ、強化魔殻でも彼の攻撃は防げないのですか。どんだけバケモンなんですかね、彼は…?」

 空から全てを監視していた油小路も、今更ながら大豪院の規格外ぶりに辟易していた。魔族軍の幹部たる油小路に化け物呼ばわりされていると知ったら、さすがの大豪院も遺憾に思うであろう。

 ☆

「凛は無事なの…? え? 誰か倒れている…? まさかウタマロんの下敷きになったの?!」

 公園に到着した蘭の見た物は、ひっくり返って林に突っ込み機能停止しているウタマロん、倒れた人物の横で呆然とへたり込んで力無く座っている少女……。

『あれ? あの子はつばめちゃん…? それじゃ横で倒れているのは…?』

 そして両手両足が骨折したのか、四肢の全てがあらぬ方向へと曲がったまま意識を失っている沖田だった。
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