第108話 ひまつぶし
「最近ヒマよねぇ…」
放課後マジボラ部室、睦美の呟きから始まる。他のメンツは久子と野々村千代美だ。
「最近シン悪川興業も出てきてませんしねぇ。一時連続して出てきてたのにどうしちゃったんですかね?」
久子が相槌を打ちながら話に乗る。久子も時間を持て余している感を隠せないでいた。
「『シン悪川興業』って以前学校にサソリをバラ撒いた奴らですよね? 結局あいつらは何なんですか?」
博士キャラ的な立ち位置ですっかりマジボラの一員として馴染んできた野々村。無意味にメガネを光らせて手元のタブレットPCで何かを調べている様である。
元々新聞部としては「魔法少女」と「謎の怪人」の両方を調べる予定であったのだが、野々村がつばめバッシングの為に魔法少女側に焦点を当てすぎたのが災いして、後の誤報発表と共になし崩し的に「謎の怪人」も無かった事になってしまっていたのである。
当時現場近くに居た生徒たちの写したウタマロんとサソリ怪人の写真を、全国のコスプレ衣装制作会社に問い合わせてみたのだが、どこの会社もその衣装の制作をしてはいなかった。
「今の所は街の人々を傷付けて『恐怖のエナジー』を集めている集団、てくらいしか分かってないわ。蘭も追加の情報を持ってこないし…」
ちなみに野々村は睦美が蘭の事を『ゴリ子』と呼ぶのは既に承知している。その理由までは聞いてはいないが、恐らく『女同士の何か』があるのだろう、と敢えて面倒くさい部分に触れまいと決意していた。
「ヒマならヒマで以前の様に地道に感謝のエナジー集めに町を散策するって手もあるけど、かと言ってつばめ達の稼いだ感謝エナジーの効率を考えると、今まで必死に足で稼いできたのは何だったの? ってくらいバカバカしくなるのよねぇ…」
「でもだからってダラダラしてたらダメですよ睦美さま! そしたらいっその事、シン悪川興業の本拠にこちらが攻め込むのもアリじゃないんですかぁ?」
ヤル気の出ない睦美を叱咤する久子。
確かに蘭の家に突撃すれば、比較的簡単に事は成せるだろう。しかしそれは蘭の秘密をつばめに知らせる事になり、蘭との協定違反でもあるのだ。
睦美は睦美でそんな考えがある為か、無言で『どうしたものかな…?』という表情をする。
その睦美の顔に何かを掴んだのか、野々村がおもむろに軽く手を挙げる。
「あの、ちょっと良いですか? そのシン悪川興業という人達の活動が『どうしても今すぐに止めなければならない』と言うほど深刻な物でも無いのなら、敢えて放置、或いは交渉して彼らがある程度暴れた後でマジボラが登場してシン悪川興業を追い払って見せれば、相手もこちらも共に目的のエナジーを集められて、両得な関係を築けるのでは無いですか?」
『敵と共謀して互いに美味しい所を得れば良い』という認識。シン悪川興業と直接対峙した事の無い野々村ならではの考え方である。
倫理的な問題を度外視すれば、決して悪い話ではない。
その言葉に倫理的な問題を度外視できない久子は不満げに顔をしかめる。
睦美は野々村の新たな提案を、脳内で審議するべく目を閉じ「ふむ…」と数秒間黙考する。
そして目を開けた睦美の次の言葉は「却下ね」であった。
野々村としては彼女なりに『良手』と踏んで提案したのだが、睦美の意向には合わなかったらしい。
「だって総裁の悪川とか言うジジイは、アタシの事を年増女扱いしたから絶対に許せない。アタシあいつ、嫌い」
大局よりも個人の感情を優先する女、睦美。彼女が一度こう言ったら梃子でも動かない事を久子は理解していたし、野々村も肌で感じていた。
どうやらこの話はこれでお終いらしい。
どことなく気まずい雰囲気が流れる。野々村はリフレッシュを求めて咳払いをし、大きく息を吸う。
「そ… そう言えば芹沢さんのクラスに物凄い転校生が来たって噂ですよ。なんでも身長2mの大男だとか… 何となく戦闘力高そうだからマジボラに誘ってみるのも手かも知れませんよ?」
もちろん大豪院の事である。野々村は直に大豪院を見てはいないが、噂だけは尾ヒレどころか背ビレまで付いていて、「実は改造人間」だの「実は宇宙人」だのと『もはや人間ではない』レベルにまで拡大してしまっていた。
対する睦美はあまり興味をそそられなかったようだ。野々村の言葉にも「ふーん」とだけ返して、あらぬ方向を向いていた。
「でも睦美さま、そんな面白そうな人なら見に行くだけでも暇つぶしになるんじゃないですかぁ?」
という久子の言葉で睦美の目に少し生気が戻る。
「まぁ、どんだけ強い奴でもアタシの魔法の敵じゃ無いけどね。久子の練習相手とかなら良いんじゃないの?」
久子が申し訳なさそうな顔をする。前回武藤に良いところ無しで完敗した久子は、かなりのフラストレーションが溜まっていたのだ。
パワータイプ同士の戦いならば、久子のストレス解消にもなろう、という算段である。
気だるげに「よいしょっと」と腰を上げる睦美。
本日のマジボラ巡回の始まりである。
放課後マジボラ部室、睦美の呟きから始まる。他のメンツは久子と野々村千代美だ。
「最近シン悪川興業も出てきてませんしねぇ。一時連続して出てきてたのにどうしちゃったんですかね?」
久子が相槌を打ちながら話に乗る。久子も時間を持て余している感を隠せないでいた。
「『シン悪川興業』って以前学校にサソリをバラ撒いた奴らですよね? 結局あいつらは何なんですか?」
博士キャラ的な立ち位置ですっかりマジボラの一員として馴染んできた野々村。無意味にメガネを光らせて手元のタブレットPCで何かを調べている様である。
元々新聞部としては「魔法少女」と「謎の怪人」の両方を調べる予定であったのだが、野々村がつばめバッシングの為に魔法少女側に焦点を当てすぎたのが災いして、後の誤報発表と共になし崩し的に「謎の怪人」も無かった事になってしまっていたのである。
当時現場近くに居た生徒たちの写したウタマロんとサソリ怪人の写真を、全国のコスプレ衣装制作会社に問い合わせてみたのだが、どこの会社もその衣装の制作をしてはいなかった。
「今の所は街の人々を傷付けて『恐怖のエナジー』を集めている集団、てくらいしか分かってないわ。蘭も追加の情報を持ってこないし…」
ちなみに野々村は睦美が蘭の事を『ゴリ子』と呼ぶのは既に承知している。その理由までは聞いてはいないが、恐らく『女同士の何か』があるのだろう、と敢えて面倒くさい部分に触れまいと決意していた。
「ヒマならヒマで以前の様に地道に感謝のエナジー集めに町を散策するって手もあるけど、かと言ってつばめ達の稼いだ感謝エナジーの効率を考えると、今まで必死に足で稼いできたのは何だったの? ってくらいバカバカしくなるのよねぇ…」
「でもだからってダラダラしてたらダメですよ睦美さま! そしたらいっその事、シン悪川興業の本拠にこちらが攻め込むのもアリじゃないんですかぁ?」
ヤル気の出ない睦美を叱咤する久子。
確かに蘭の家に突撃すれば、比較的簡単に事は成せるだろう。しかしそれは蘭の秘密をつばめに知らせる事になり、蘭との協定違反でもあるのだ。
睦美は睦美でそんな考えがある為か、無言で『どうしたものかな…?』という表情をする。
その睦美の顔に何かを掴んだのか、野々村がおもむろに軽く手を挙げる。
「あの、ちょっと良いですか? そのシン悪川興業という人達の活動が『どうしても今すぐに止めなければならない』と言うほど深刻な物でも無いのなら、敢えて放置、或いは交渉して彼らがある程度暴れた後でマジボラが登場してシン悪川興業を追い払って見せれば、相手もこちらも共に目的のエナジーを集められて、両得な関係を築けるのでは無いですか?」
『敵と共謀して互いに美味しい所を得れば良い』という認識。シン悪川興業と直接対峙した事の無い野々村ならではの考え方である。
倫理的な問題を度外視すれば、決して悪い話ではない。
その言葉に倫理的な問題を度外視できない久子は不満げに顔をしかめる。
睦美は野々村の新たな提案を、脳内で審議するべく目を閉じ「ふむ…」と数秒間黙考する。
そして目を開けた睦美の次の言葉は「却下ね」であった。
野々村としては彼女なりに『良手』と踏んで提案したのだが、睦美の意向には合わなかったらしい。
「だって総裁の悪川とか言うジジイは、アタシの事を年増女扱いしたから絶対に許せない。アタシあいつ、嫌い」
大局よりも個人の感情を優先する女、睦美。彼女が一度こう言ったら梃子でも動かない事を久子は理解していたし、野々村も肌で感じていた。
どうやらこの話はこれでお終いらしい。
どことなく気まずい雰囲気が流れる。野々村はリフレッシュを求めて咳払いをし、大きく息を吸う。
「そ… そう言えば芹沢さんのクラスに物凄い転校生が来たって噂ですよ。なんでも身長2mの大男だとか… 何となく戦闘力高そうだからマジボラに誘ってみるのも手かも知れませんよ?」
もちろん大豪院の事である。野々村は直に大豪院を見てはいないが、噂だけは尾ヒレどころか背ビレまで付いていて、「実は改造人間」だの「実は宇宙人」だのと『もはや人間ではない』レベルにまで拡大してしまっていた。
対する睦美はあまり興味をそそられなかったようだ。野々村の言葉にも「ふーん」とだけ返して、あらぬ方向を向いていた。
「でも睦美さま、そんな面白そうな人なら見に行くだけでも暇つぶしになるんじゃないですかぁ?」
という久子の言葉で睦美の目に少し生気が戻る。
「まぁ、どんだけ強い奴でもアタシの魔法の敵じゃ無いけどね。久子の練習相手とかなら良いんじゃないの?」
久子が申し訳なさそうな顔をする。前回武藤に良いところ無しで完敗した久子は、かなりのフラストレーションが溜まっていたのだ。
パワータイプ同士の戦いならば、久子のストレス解消にもなろう、という算段である。
気だるげに「よいしょっと」と腰を上げる睦美。
本日のマジボラ巡回の始まりである。