第92話 れもん
「アンタら部室の前でゴチャゴチャうるさいよ! 話なら中でしな!」
沖田のデータ(中身未確認)を得て小躍りしていたつばめと、それを呆けて見つめていた蘭と野々村。
見かねた睦美が部室から現れて声をかけた。睦美の声で反射的に動きを止めたつばめと蘭、そして成り行きで野々村もマジボラ部室に入る。
「んで? 何なのよアンタら。ゴリ… 蘭まで一緒になって騒いで…」
『つばめちゃんの前で「ゴリ子」って言わないで! あと「ゴリ蘭」みたいな言い方もやめて!』
蘭は精一杯の思念を眼力に乗せて送るが、睦美が上手く受信出来たとは思えなかった。
「しゅびばせ〜ん。あははぁ…」
反省しているのか喜んでいるのか、心ここに在らずなつばめも中途半端に頭を下げていた。
やがて睦美の目は第3の人物を確認する。
「そんで、そこのノッポは何者? 2人の友達? それとも入部希望者? 入部ならうちは入部テストがあるから、それをクリアしてからになるよ?」
睦美の言葉に、つばめは『なんで従いて来たのよ?』という顔になり、野々村も『なんで従いて来ちゃったんだろう…?』という顔になる。
「あ… えーと、この人は野々村さんと言って… えーと、その…」
蘭が説明をしようとしたが言葉が続かない。昨日、不良達を斬首して首級を物置きに並べようとした睦美だ。下手に『つばめちゃんを嵌めた犯人です』等と言おうものなら、今この場が惨劇の舞台になりかねない。
「ねぇねぇ睦美さま、この子じゃないですか? 例の…」
全員分のお茶を淹れてきた久子が睦美に言う。昨日、睦美と久子はつばめ救援に参加してはいたが、本来新人スカウトの途中で『野々村 千代美』という女生徒を探していたのだ。
「なるほど! アンタ達で新人を探して連れてきたのね? 普段ボンクラのくせに気が利くじゃない、お手柄よ!」
上機嫌になる睦美。つばめと蘭は何の事やら理解できずにいた。
事情を知らない後発組の蘭は野々村を知らなくて当然なのだが、つばめは身体測定後のミーティングに参加していたのだ。アホ毛を『?』にしている場合では無い。尤もあの時のつばめは沖田亡者と化していて、正常な判断力を失っていたのではあるが……。
更に混乱しているのが野々村だ。つばめへの謝罪は済んだのだから、こんな訳の分からない連中とはオサラバして早く帰りたい気持ちが強い。
「あの… 新人って、どういう事ですか…? 私は入部とかそんなつもりは全然…」
野々村の言葉の途中で睦美から野々村にハチマキの様な白い物体が投げられる。毎度お馴染み、睦美謹製の変態バンドである。
「アンタ野々村千代美だろ? アンタは入部テストを既にクリアしている。ゴチャゴチャ説明するより実践だよ。まずはその変態バンドを装着しな!」
まくし立てる睦美に対して、全く理解が追いついていかない野々村。
『これは何なの? 芹沢つばめに迷惑をかけた事に対するペナルティなの? それとも全然関係ない話なの…?』
動きを止めている野々村にイラつきを覚えた睦美は「早くしなよ!」と声を荒らげる。
野々村はビクッとして動きを止める。昨日の不良からの恫喝で萎縮してしまった野々村には、睦美の声はトラウマを刺激するものであった。
「野々村も例の葉っぱで…?」
自分のパターンを思い出し、蘭がつばめに問いかける。
「あー、うん、そうみたい。わたしもすっかり忘れてたよ…」
申し訳無さそうに頭を掻いて苦笑いするつばめ。
『何だか分からないけど、やらないと帰してもらえそうにないから、さっさと終わらせて帰らせてもらおう』
覚悟を決めた野々村が左手首にバンドを巻く。たちまち縮まって腕時計の様に固定される。
恐怖を抱く間もなく野々村の頭に《高架橋橋脚部》という呪文が響く。
「次、『変態』と唱える!」
「え? め、めたもるふぉーぜ… ですか…?」
野々村の言葉に変態バンドが反応する。いつもの様にバンドが多方向に展開し、野々村を包む。卵型に完成したオブジェから雛鳥が孵る様に、鮮やかなレモンイエローの衣装を纏った新たな魔法少女『グラスレモネード』が誕生した。
部室に備え付けられている姿見に映る自分の姿を見て唖然とする野々村。
『こ、これって例の魔法少女じゃない?! 何で私がこんな事にっ?!』
驚愕の連続でパニック状態の野々村だったが、1つ大きな違いに気付く。
『あれ? 眼鏡掛けてないのに普通に見える… 裸眼で何かを見たのなんていつぶりだろう…?』
そう、変態の効果によって両目とも0.05であった野々村の視力は、今両目とも1.5にまで矯正されていた。
『これが魔法の力なのかしら? 私も魔法を使えるというの…? そんな非科学的な… でも現実として髪や目の色も変わってるし…』
混乱しながらも高揚していく野々村の前に、これまたお馴染みの『その辺で拾ってきた小枝』が渡される。
「さて、メインイベントだよ。さっき頭に浮かんだ呪文をこの小枝に向けて唱えてみな」
ニヤリとした顔の睦美はもちろん、マジボラの全員が固唾を呑んで野々村を注目していた。
沖田のデータ(中身未確認)を得て小躍りしていたつばめと、それを呆けて見つめていた蘭と野々村。
見かねた睦美が部室から現れて声をかけた。睦美の声で反射的に動きを止めたつばめと蘭、そして成り行きで野々村もマジボラ部室に入る。
「んで? 何なのよアンタら。ゴリ… 蘭まで一緒になって騒いで…」
『つばめちゃんの前で「ゴリ子」って言わないで! あと「ゴリ蘭」みたいな言い方もやめて!』
蘭は精一杯の思念を眼力に乗せて送るが、睦美が上手く受信出来たとは思えなかった。
「しゅびばせ〜ん。あははぁ…」
反省しているのか喜んでいるのか、心ここに在らずなつばめも中途半端に頭を下げていた。
やがて睦美の目は第3の人物を確認する。
「そんで、そこのノッポは何者? 2人の友達? それとも入部希望者? 入部ならうちは入部テストがあるから、それをクリアしてからになるよ?」
睦美の言葉に、つばめは『なんで従いて来たのよ?』という顔になり、野々村も『なんで従いて来ちゃったんだろう…?』という顔になる。
「あ… えーと、この人は野々村さんと言って… えーと、その…」
蘭が説明をしようとしたが言葉が続かない。昨日、不良達を斬首して首級を物置きに並べようとした睦美だ。下手に『つばめちゃんを嵌めた犯人です』等と言おうものなら、今この場が惨劇の舞台になりかねない。
「ねぇねぇ睦美さま、この子じゃないですか? 例の…」
全員分のお茶を淹れてきた久子が睦美に言う。昨日、睦美と久子はつばめ救援に参加してはいたが、本来新人スカウトの途中で『野々村 千代美』という女生徒を探していたのだ。
「なるほど! アンタ達で新人を探して連れてきたのね? 普段ボンクラのくせに気が利くじゃない、お手柄よ!」
上機嫌になる睦美。つばめと蘭は何の事やら理解できずにいた。
事情を知らない後発組の蘭は野々村を知らなくて当然なのだが、つばめは身体測定後のミーティングに参加していたのだ。アホ毛を『?』にしている場合では無い。尤もあの時のつばめは沖田亡者と化していて、正常な判断力を失っていたのではあるが……。
更に混乱しているのが野々村だ。つばめへの謝罪は済んだのだから、こんな訳の分からない連中とはオサラバして早く帰りたい気持ちが強い。
「あの… 新人って、どういう事ですか…? 私は入部とかそんなつもりは全然…」
野々村の言葉の途中で睦美から野々村にハチマキの様な白い物体が投げられる。毎度お馴染み、睦美謹製の変態バンドである。
「アンタ野々村千代美だろ? アンタは入部テストを既にクリアしている。ゴチャゴチャ説明するより実践だよ。まずはその変態バンドを装着しな!」
まくし立てる睦美に対して、全く理解が追いついていかない野々村。
『これは何なの? 芹沢つばめに迷惑をかけた事に対するペナルティなの? それとも全然関係ない話なの…?』
動きを止めている野々村にイラつきを覚えた睦美は「早くしなよ!」と声を荒らげる。
野々村はビクッとして動きを止める。昨日の不良からの恫喝で萎縮してしまった野々村には、睦美の声はトラウマを刺激するものであった。
「野々村も例の葉っぱで…?」
自分のパターンを思い出し、蘭がつばめに問いかける。
「あー、うん、そうみたい。わたしもすっかり忘れてたよ…」
申し訳無さそうに頭を掻いて苦笑いするつばめ。
『何だか分からないけど、やらないと帰してもらえそうにないから、さっさと終わらせて帰らせてもらおう』
覚悟を決めた野々村が左手首にバンドを巻く。たちまち縮まって腕時計の様に固定される。
恐怖を抱く間もなく野々村の頭に《高架橋橋脚部》という呪文が響く。
「次、『変態』と唱える!」
「え? め、めたもるふぉーぜ… ですか…?」
野々村の言葉に変態バンドが反応する。いつもの様にバンドが多方向に展開し、野々村を包む。卵型に完成したオブジェから雛鳥が孵る様に、鮮やかなレモンイエローの衣装を纏った新たな魔法少女『グラスレモネード』が誕生した。
部室に備え付けられている姿見に映る自分の姿を見て唖然とする野々村。
『こ、これって例の魔法少女じゃない?! 何で私がこんな事にっ?!』
驚愕の連続でパニック状態の野々村だったが、1つ大きな違いに気付く。
『あれ? 眼鏡掛けてないのに普通に見える… 裸眼で何かを見たのなんていつぶりだろう…?』
そう、変態の効果によって両目とも0.05であった野々村の視力は、今両目とも1.5にまで矯正されていた。
『これが魔法の力なのかしら? 私も魔法を使えるというの…? そんな非科学的な… でも現実として髪や目の色も変わってるし…』
混乱しながらも高揚していく野々村の前に、これまたお馴染みの『その辺で拾ってきた小枝』が渡される。
「さて、メインイベントだよ。さっき頭に浮かんだ呪文をこの小枝に向けて唱えてみな」
ニヤリとした顔の睦美はもちろん、マジボラの全員が固唾を呑んで野々村を注目していた。