第52話 あくだま
互いに両腕を封じられた形になって真正面で相対する久子とウマナミレイ?。
お互いに言葉は無くギリギリと力比べをしている最中だが、同時に2人共が頭を後方に引く。そしてこれまた同時にスリングショットから放たれた石礫の様に2人の頭が前方に撃ち出される。
額と額が激しくぶつかり合い、とても人体から発せられたとは思えない程の、硬い衝突音を周囲に響かせる。
衝撃を受けた当人らも意識を保っていられるかどうかの瀬戸際にある様なダメージを受けているが、矜持にかけて相手よりも早く倒れる訳にはいかない。
互いに第2撃の準備として再び頭部を後方に引き、力を込めて前方に撃ち出す。
そして再び頭蓋骨同士の激しい衝突音。2人とも額を割り、跳ねた血が周囲に飛び散る。
かつて魔法少女ものの作品でガチンコ頭突き勝負をして、FMWの大仁田厚ばりに額を割って流血する作品があっただろうか?(いや無い)
「ハァ、ハァ… やるわね… デコスケ…」
「ハァ、ハァ… また、おでこの事… 言った…!」
久子とウマナミレイ?、双方ともが相手に視線が合っていない。恐らくは激しい衝撃で脳震盪を起こしていると思われる。
それでも2人は倒れない。実力伯仲した強敵同士の、友情にも似た感覚を得ながら、焦点の合わない目で互いを見つめてニヤリとして見せる。
そしてその微笑がえしを起点にしてウマナミレイ?の目が閉じられ、ボクシングのクリンチの形で久子にもたれかかる。
首筋にウマナミレイ?の体重と体温を感じながら、久子の意識も徐々に薄れていく。
やがて額に血の花を咲かせた2人の少女は、正面から抱き合う形で互いを健闘を称える様に、『人』の文字の如く支え合い立ったまま気を失っていった。
☆
その頃睦美は……。
『このまま子コウモリを落としていってもキリが無い。コウモリ怪人の残弾数が分からない以上、持久戦で魔力を浪費するのは得策じゃないわ…』
武器の届かない程の頭上を飛び回りながら子コウモリをばら撒いていくコウモリ怪人、頭では打つ手の無い現状が好ましい状況では無いのは理解しているのだが、それを打開する妙案が浮かばない。
『コウモリ怪人をどうにか地上まで引きずり下ろすか、或いはアタシがあの高さまで上がるしか… そうか!』
これまで通りに襲い来る子コウモリを身体の周りで『固定』させる睦美。
そして、腰の辺りの高さで固定された子コウモリに足を掛ける、と言うこれまでと違う行動を取る。
子コウモリに足を掛け、踏み台にする様に力を入れて立ち上がる。バランスの悪い片足立ちは、更に高所にある子コウモリを踏みつける事で新たな足場とする。
不揃いな階段を昇る様なイメージでその機動を16回繰り返し、睦美は標的であるコウモリ怪人を剣の射程内に収めた。
「秘剣、❅❁●✔♞」
腰溜めに構えていた乱世丸が居合抜きの要領で、数条の光を放って碁盤の目の様な美しい市松模様を描き出す。
光の迸った後には睦美の目にも止まらぬ剣戟で、原形を留めぬ程に細分化され変わり果てた姿になったコウモリ怪人が在った。
その破片の一つ一つが蒸気を発して、蒸発する様に消えていく。睦美の完全勝利だ。
睦美は王族の名に相応しく、類稀な魔法の才能を持っているが、それと同時に『勇者』とまで称えられた兄ガイラムや、普段は頼りないが若くして近衛騎士に抜擢されたアンドレに、幼い頃から剣の手ほどきを受けているのだ。
それが故に魔法王国が侵攻された際に、邪魔具によって魔法の効かなかった魔王軍の士官らに対して反撃でき、活路を拓けたのである。
共にレベルの高い魔法使いと剣士、その両方を兼ね備えた主人公の様な存在、それが睦美である。
決して年中ヒスって嫌がらせでドライアイ攻撃をしたり、徒に首を斬り落とそうとするだけの凶悪な人物では無いのだ。
10m近い高さまで駈け登っていた睦美は、主の後を追う様に消滅していく子コウモリの作り出す霧の様な蒸気の中で、足場も無いままに重力に引かれて落下する。
怪人を倒したものの、あわや落下ダメージで大惨事か? となる直前で睦美は自身を空中に『固定』、落下の慣性を完全に殺した後で地上20cmの高さから何食わぬ顔で着地して見せた。
「…ふむ、『邪魔者がいる』との報告は受けていたが、これほどとは思わんかったわい」
何処かより流れ出す老人の声。睦美は周囲を見回し、声の元を特定した。気を失っているはずのウマナミレイ?の頭の角から声がしたのだ。
「何者?!」
唯一対応出来るであろう睦美の凛とした誰何の声が河川敷に木霊する。
久子はウマナミレイ?と抱き合ったまま膝を付いているし、つばめは民衆に紛れて座り込んでいた。
「ふふふ、ワシはシン悪川興業の総裁、プロフェッサー悪川だ。今回は負けを認めよう。小娘よ… うん? お前娘か? オバサンか…? まぁいいわ、次に見える時は貴様等の恐怖も回収させてもらうぞ…?」
プロフェッサー悪川の言葉の終わりを受けて、ウマナミレイ?の背中のコウモリ状の羽が大きく開かれる。やがて大きく羽ばたいた羽は気絶したままのウマナミレイ?ごと天高く舞い上がり、何処かへと飛び去って行った。
「シン悪川興業のプロフェッサー悪川… 慈悲が与えられると思うなよ…」
睦美の瞳には怒りの炎が静かに燃えていた。
お互いに言葉は無くギリギリと力比べをしている最中だが、同時に2人共が頭を後方に引く。そしてこれまた同時にスリングショットから放たれた石礫の様に2人の頭が前方に撃ち出される。
額と額が激しくぶつかり合い、とても人体から発せられたとは思えない程の、硬い衝突音を周囲に響かせる。
衝撃を受けた当人らも意識を保っていられるかどうかの瀬戸際にある様なダメージを受けているが、矜持にかけて相手よりも早く倒れる訳にはいかない。
互いに第2撃の準備として再び頭部を後方に引き、力を込めて前方に撃ち出す。
そして再び頭蓋骨同士の激しい衝突音。2人とも額を割り、跳ねた血が周囲に飛び散る。
かつて魔法少女ものの作品でガチンコ頭突き勝負をして、FMWの大仁田厚ばりに額を割って流血する作品があっただろうか?(いや無い)
「ハァ、ハァ… やるわね… デコスケ…」
「ハァ、ハァ… また、おでこの事… 言った…!」
久子とウマナミレイ?、双方ともが相手に視線が合っていない。恐らくは激しい衝撃で脳震盪を起こしていると思われる。
それでも2人は倒れない。実力伯仲した強敵同士の、友情にも似た感覚を得ながら、焦点の合わない目で互いを見つめてニヤリとして見せる。
そしてその微笑がえしを起点にしてウマナミレイ?の目が閉じられ、ボクシングのクリンチの形で久子にもたれかかる。
首筋にウマナミレイ?の体重と体温を感じながら、久子の意識も徐々に薄れていく。
やがて額に血の花を咲かせた2人の少女は、正面から抱き合う形で互いを健闘を称える様に、『人』の文字の如く支え合い立ったまま気を失っていった。
☆
その頃睦美は……。
『このまま子コウモリを落としていってもキリが無い。コウモリ怪人の残弾数が分からない以上、持久戦で魔力を浪費するのは得策じゃないわ…』
武器の届かない程の頭上を飛び回りながら子コウモリをばら撒いていくコウモリ怪人、頭では打つ手の無い現状が好ましい状況では無いのは理解しているのだが、それを打開する妙案が浮かばない。
『コウモリ怪人をどうにか地上まで引きずり下ろすか、或いはアタシがあの高さまで上がるしか… そうか!』
これまで通りに襲い来る子コウモリを身体の周りで『固定』させる睦美。
そして、腰の辺りの高さで固定された子コウモリに足を掛ける、と言うこれまでと違う行動を取る。
子コウモリに足を掛け、踏み台にする様に力を入れて立ち上がる。バランスの悪い片足立ちは、更に高所にある子コウモリを踏みつける事で新たな足場とする。
不揃いな階段を昇る様なイメージでその機動を16回繰り返し、睦美は標的であるコウモリ怪人を剣の射程内に収めた。
「秘剣、❅❁●✔♞」
腰溜めに構えていた乱世丸が居合抜きの要領で、数条の光を放って碁盤の目の様な美しい市松模様を描き出す。
光の迸った後には睦美の目にも止まらぬ剣戟で、原形を留めぬ程に細分化され変わり果てた姿になったコウモリ怪人が在った。
その破片の一つ一つが蒸気を発して、蒸発する様に消えていく。睦美の完全勝利だ。
睦美は王族の名に相応しく、類稀な魔法の才能を持っているが、それと同時に『勇者』とまで称えられた兄ガイラムや、普段は頼りないが若くして近衛騎士に抜擢されたアンドレに、幼い頃から剣の手ほどきを受けているのだ。
それが故に魔法王国が侵攻された際に、邪魔具によって魔法の効かなかった魔王軍の士官らに対して反撃でき、活路を拓けたのである。
共にレベルの高い魔法使いと剣士、その両方を兼ね備えた主人公の様な存在、それが睦美である。
決して年中ヒスって嫌がらせでドライアイ攻撃をしたり、徒に首を斬り落とそうとするだけの凶悪な人物では無いのだ。
10m近い高さまで駈け登っていた睦美は、主の後を追う様に消滅していく子コウモリの作り出す霧の様な蒸気の中で、足場も無いままに重力に引かれて落下する。
怪人を倒したものの、あわや落下ダメージで大惨事か? となる直前で睦美は自身を空中に『固定』、落下の慣性を完全に殺した後で地上20cmの高さから何食わぬ顔で着地して見せた。
「…ふむ、『邪魔者がいる』との報告は受けていたが、これほどとは思わんかったわい」
何処かより流れ出す老人の声。睦美は周囲を見回し、声の元を特定した。気を失っているはずのウマナミレイ?の頭の角から声がしたのだ。
「何者?!」
唯一対応出来るであろう睦美の凛とした誰何の声が河川敷に木霊する。
久子はウマナミレイ?と抱き合ったまま膝を付いているし、つばめは民衆に紛れて座り込んでいた。
「ふふふ、ワシはシン悪川興業の総裁、プロフェッサー悪川だ。今回は負けを認めよう。小娘よ… うん? お前娘か? オバサンか…? まぁいいわ、次に見える時は貴様等の恐怖も回収させてもらうぞ…?」
プロフェッサー悪川の言葉の終わりを受けて、ウマナミレイ?の背中のコウモリ状の羽が大きく開かれる。やがて大きく羽ばたいた羽は気絶したままのウマナミレイ?ごと天高く舞い上がり、何処かへと飛び去って行った。
「シン悪川興業のプロフェッサー悪川… 慈悲が与えられると思うなよ…」
睦美の瞳には怒りの炎が静かに燃えていた。