第49話 ぱーてぃー
「つばめちゃんは胸肉ともも肉はどっちが好きなの?」
「どちらも好きで、交互に食べる派です!」
「たくさんあるからイッパイ食べて… って、睦美さま! いつの間にお酒なんか…」
「たまのパーティーなんだから良いじゃない。この1本だけよ」
「そうそう、適度なアルコールは健康にも良いからね。睦美様は僕が見張ってるから大丈夫だよ」
宴も闌となり、親交を深める目的は十二分に果たせているだろう。
「そう言えば久子先輩って、ずっと近藤先輩から『ヒザ子』って呼ばれてますけど、何か由来があるんですか? それとも初めて会った時に言われた膝だの肘だの言うダジャレのまんまなんですか?」
「あー、『久子』は日本に来た時にアンドレ先生が付けてくれた偽名で、『ヒザコ』が私の本名なんだよ。本名は『ヒザコ・コムラガエリ』っていうんだ!」
またしても面妖なアンコクミナゴロシ王国風の名前に戸惑うつばめ。
「はぁ、『腓返り』ッスか… ちなみに意味とかあるんです…?」
「もちろん。コムラガエリは『美しい星』って意味だよ!」
「な、なるほど… とことん日本語と相性悪そうな言語ですねぇ… アンドレ先生も偽名なんですか?」
ゲッソリとしたつばめはアンドレに話を振る。
「いや、アンドレ・カンドレは本名だよ。お二人の様に貴族じゃないから姓に意味は無いけどね」
「いや、その名前が一番ヤバイと思うんですが…?」
もし然るべき所からクレームが来たら作者が何事も無かったかの様に修正するから問題は無い。
「そ、そして睦美様が『ムッチー・マジ・アンコクミナゴロシ』王女殿下という訳さ」
1人無視されて面白くなさそうな顔をしていた睦美を忖度してアンドレが補完する。結果的に一番怖い人を一番後回しにしてしまったつばめも、己の不敏に恥じ入り畏まる。
「アタシの事は別にどうでも良いわよ。つばめもそんな事で怒ったりしないからいちいちビビらないで」
睦美の本心は計り知れないが、少なくとも表情は穏やかなままで主賓のつばめを気遣う態度は崩さない。
あまり追求されないうちに話題を変えた方が得策と考えたつばめは、再び久子に話を振る。
「それにしてもこれだけたくさんの料理を作ったり、普段からお掃除や洗濯もしているなんて、久子先輩って女子力高いですよね」
「そりゃ私は睦美さまの侍女だからね。7歳の頃から身の回りのお世話は全部やらせてもらってるよ。王女様に家事なんかさせられないもん。お料理なんかも日本で全部覚えたんだよ!」
「…おかげで30にもなって米も炊けない女の出来上がりよ…」
誇らしげな久子と対称的に、なんとも捨鉢な睦美の呟き。
「あははは… でも今まで聞いてた魔法王国の話って暗い話ばかりだったので、明るい話があるなら聞いてみたいです」
乾いた笑いのつばめの問いに顔を見合わせる3人。
「…何かあったかしら?」
「私は小さかったから、家の外の事はあんまり…」
「なんでしょう? 幼少時の睦美様が木登りしていて木から落ちて、泣きながらその木に決闘を挑んだ話とか…?」
「アンドレ、それ以上その話をしたら死刑を宣告するわよ?」
「……」
「……」
「……」
アンドレが睦美の黒歴史的な事を話そうとした所で会話が止まってしまった。
つばめとしても自分の軽い一言からアンドレが死刑になってしまっては夢見が良くないのだが、上手く場を収める言葉が出てこない。
「あ、じゃあ勇者殿下ガイラムさまの話とかどうですか? あの方にはたくさん可愛がってもらいましたよ」
久子の提案に睦美の顔が一瞬曇り「お兄様…」と呟いた。
「ガイラム殿下は睦美様の兄上で、王国随一の剣技の使い手だった人だよ。僕も騎士学校で同級生だったので大変良くしてもらったものだよ」
つばめに説明しつつも当時に思いを馳せて目を細めるアンドレ。
「『勇者』の異名で呼ばれるほど心技体、全てを兼ね備えた完璧なお人だったんだけど、魔王侵攻の前年に病に倒れてしまってねぇ…」
「お兄様さえご健勝であれば魔王軍などに遅れは取らなかったのに… って何回思ったことかしらねぇ…」
「あー、えとえと… でもとっても強くて優しい人だったんだよ!」
予想したほどに明るい話にならなかった久子が慌ててフォローを入れる。
今のつばめには、その様なヒーロー然としたキャラクターはどうしても全て御影に変換されてしまうので、御影が異世界風の衣装を着て怪物どもを薙ぎ払っているイメージが頭から離れない。その姿が妙に似合っているから尚更だ。
つばめの頭の中では男装した御影と若かりし頃の睦美が「お兄様!」「妹よ!」と、ひしと抱き合っているシーンが再生されていた。
「それはそうと、つばめ、アンタ変態バンドちゃんと洗ってる? 皮脂の汚れは目立つから、こまめに洗えって言った筈だけど?」
唐突に話題を変えてきた睦美に、つばめは『待ってました』とばかりに食いついた。
「そう、それですよ! 外し方を聞いてないんですよ! …あと一応お風呂入った時にちゃんと洗ってますよ…?」
初めてバンドを受け取ってから4日。話数にして40余話、ようやくその話が出てきた。
「あれ? 言ってなかったっけ? 外す呪文は『❆〆✺』よ」
「日本語でお願いします… なんか『ラーリ』みたいに聞こえましたけど…」
睦美の呪文を真似して、つばめが唱えた言葉に頭に巻いたバンドが反応して広がる。『はらり』という感じでつばめに花輪のレイを掛けるように肩に落ちてきた。
ちなみにバンドを巻いていたアホ毛は、バンドがあろうが無かろうが関係なくつばめの頭頂に屹立していた。
「おぉ! 取れた取れた! 何げに困ってたんですよ…」
「まぁこれからはこまめにキレイに…」
睦美の言葉が途切れる。遠くに女性の悲鳴の様な声が聞こえたのだ。更に男性の声、子供の声、複数が街に響く。
「…事件でしょうか?」
久子の言葉に睦美がすくっと立ち上がり無言でシュッと変態する。アルコールが入って少しうっとりとしていた表情も、いつものクールな戦士の顔に戻っていた。
「唐揚げパーティーの腹ごなしにいっちょ調べてみましょうか…?」
「どちらも好きで、交互に食べる派です!」
「たくさんあるからイッパイ食べて… って、睦美さま! いつの間にお酒なんか…」
「たまのパーティーなんだから良いじゃない。この1本だけよ」
「そうそう、適度なアルコールは健康にも良いからね。睦美様は僕が見張ってるから大丈夫だよ」
宴も闌となり、親交を深める目的は十二分に果たせているだろう。
「そう言えば久子先輩って、ずっと近藤先輩から『ヒザ子』って呼ばれてますけど、何か由来があるんですか? それとも初めて会った時に言われた膝だの肘だの言うダジャレのまんまなんですか?」
「あー、『久子』は日本に来た時にアンドレ先生が付けてくれた偽名で、『ヒザコ』が私の本名なんだよ。本名は『ヒザコ・コムラガエリ』っていうんだ!」
またしても面妖なアンコクミナゴロシ王国風の名前に戸惑うつばめ。
「はぁ、『腓返り』ッスか… ちなみに意味とかあるんです…?」
「もちろん。コムラガエリは『美しい星』って意味だよ!」
「な、なるほど… とことん日本語と相性悪そうな言語ですねぇ… アンドレ先生も偽名なんですか?」
ゲッソリとしたつばめはアンドレに話を振る。
「いや、アンドレ・カンドレは本名だよ。お二人の様に貴族じゃないから姓に意味は無いけどね」
「いや、その名前が一番ヤバイと思うんですが…?」
もし然るべき所からクレームが来たら作者が何事も無かったかの様に修正するから問題は無い。
「そ、そして睦美様が『ムッチー・マジ・アンコクミナゴロシ』王女殿下という訳さ」
1人無視されて面白くなさそうな顔をしていた睦美を忖度してアンドレが補完する。結果的に一番怖い人を一番後回しにしてしまったつばめも、己の不敏に恥じ入り畏まる。
「アタシの事は別にどうでも良いわよ。つばめもそんな事で怒ったりしないからいちいちビビらないで」
睦美の本心は計り知れないが、少なくとも表情は穏やかなままで主賓のつばめを気遣う態度は崩さない。
あまり追求されないうちに話題を変えた方が得策と考えたつばめは、再び久子に話を振る。
「それにしてもこれだけたくさんの料理を作ったり、普段からお掃除や洗濯もしているなんて、久子先輩って女子力高いですよね」
「そりゃ私は睦美さまの侍女だからね。7歳の頃から身の回りのお世話は全部やらせてもらってるよ。王女様に家事なんかさせられないもん。お料理なんかも日本で全部覚えたんだよ!」
「…おかげで30にもなって米も炊けない女の出来上がりよ…」
誇らしげな久子と対称的に、なんとも捨鉢な睦美の呟き。
「あははは… でも今まで聞いてた魔法王国の話って暗い話ばかりだったので、明るい話があるなら聞いてみたいです」
乾いた笑いのつばめの問いに顔を見合わせる3人。
「…何かあったかしら?」
「私は小さかったから、家の外の事はあんまり…」
「なんでしょう? 幼少時の睦美様が木登りしていて木から落ちて、泣きながらその木に決闘を挑んだ話とか…?」
「アンドレ、それ以上その話をしたら死刑を宣告するわよ?」
「……」
「……」
「……」
アンドレが睦美の黒歴史的な事を話そうとした所で会話が止まってしまった。
つばめとしても自分の軽い一言からアンドレが死刑になってしまっては夢見が良くないのだが、上手く場を収める言葉が出てこない。
「あ、じゃあ勇者殿下ガイラムさまの話とかどうですか? あの方にはたくさん可愛がってもらいましたよ」
久子の提案に睦美の顔が一瞬曇り「お兄様…」と呟いた。
「ガイラム殿下は睦美様の兄上で、王国随一の剣技の使い手だった人だよ。僕も騎士学校で同級生だったので大変良くしてもらったものだよ」
つばめに説明しつつも当時に思いを馳せて目を細めるアンドレ。
「『勇者』の異名で呼ばれるほど心技体、全てを兼ね備えた完璧なお人だったんだけど、魔王侵攻の前年に病に倒れてしまってねぇ…」
「お兄様さえご健勝であれば魔王軍などに遅れは取らなかったのに… って何回思ったことかしらねぇ…」
「あー、えとえと… でもとっても強くて優しい人だったんだよ!」
予想したほどに明るい話にならなかった久子が慌ててフォローを入れる。
今のつばめには、その様なヒーロー然としたキャラクターはどうしても全て御影に変換されてしまうので、御影が異世界風の衣装を着て怪物どもを薙ぎ払っているイメージが頭から離れない。その姿が妙に似合っているから尚更だ。
つばめの頭の中では男装した御影と若かりし頃の睦美が「お兄様!」「妹よ!」と、ひしと抱き合っているシーンが再生されていた。
「それはそうと、つばめ、アンタ変態バンドちゃんと洗ってる? 皮脂の汚れは目立つから、こまめに洗えって言った筈だけど?」
唐突に話題を変えてきた睦美に、つばめは『待ってました』とばかりに食いついた。
「そう、それですよ! 外し方を聞いてないんですよ! …あと一応お風呂入った時にちゃんと洗ってますよ…?」
初めてバンドを受け取ってから4日。話数にして40余話、ようやくその話が出てきた。
「あれ? 言ってなかったっけ? 外す呪文は『❆〆✺』よ」
「日本語でお願いします… なんか『ラーリ』みたいに聞こえましたけど…」
睦美の呪文を真似して、つばめが唱えた言葉に頭に巻いたバンドが反応して広がる。『はらり』という感じでつばめに花輪のレイを掛けるように肩に落ちてきた。
ちなみにバンドを巻いていたアホ毛は、バンドがあろうが無かろうが関係なくつばめの頭頂に屹立していた。
「おぉ! 取れた取れた! 何げに困ってたんですよ…」
「まぁこれからはこまめにキレイに…」
睦美の言葉が途切れる。遠くに女性の悲鳴の様な声が聞こえたのだ。更に男性の声、子供の声、複数が街に響く。
「…事件でしょうか?」
久子の言葉に睦美がすくっと立ち上がり無言でシュッと変態する。アルコールが入って少しうっとりとしていた表情も、いつものクールな戦士の顔に戻っていた。
「唐揚げパーティーの腹ごなしにいっちょ調べてみましょうか…?」