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作者: ちありや
第9話 まじぼら
「そう言えば、まだアタシ達の力を説明してなかったわね。ヒザ子!」
「はい、睦美さま!」

「「メタモルフォーゼ!」」

 睦美と久子が先程のつばめと同じ過程プロセスを経て、魔法少女スタイルに変わる。
 睦美は青を基調とした落ち着いた色合い、久子はオレンジを基調とした明るい色合いの服装だ。

 つばめの時と同様に瞳の色が若干変わっているが、顔付きその物は特に変わっていない。

 睦美は髪色が青くなり、髪型が聖子ちゃんカットから腰まで届くロングヘアに。

 久子は髪色がオレンジになり、田舎娘風ののお下げ髪からショートヘアに変わる。トレードマークだったトンボメガネも消えて、くっきりぱっちりした小動物の様な可愛らしい目が輝いていた。

「今朝の久子を見たと思うけど、変態しなくても魔法は使えるわ。でも魔力の消費量は倍になるし、身バレの危険性も増えるから、多用は出来ないわね」

 確かに今朝、自動車を吹き飛ばした久子は学校の制服姿だった。それに何か特別な理由があるのか、或いは単なる演出なのかはつばめにはうかがい知れない。

「アタシの能力は『固定』、何かを止める力ね。本気を出せば朝みたいに周囲の時間を止める事も出来るけど、どちらかと言うとまぶたを固定して瞬き出来無くする嫌がらせとかが得意すきよ。あとアタシ達の退学執行を『固定』して止めているのもこの能力ね」

 うわー、傍迷惑な能力… 軽く引くつばめ。

「ヒザ子の能力は『強化』。自分にかけてパワーアップするのがメインだけど、他人にも掛けることが出来るわ」

「他人にだと少し効率落ちちゃうけどねぇ…」

 睦美の紹介に照れる様にはにかむ久子。
 睦美は先程使用した葉っぱをヒラヒラと弄ぶ。

「他にも『火炎』や『電気』等、様々な力を操る能力もあると聞くわ。それを鑑定するのがこの『イチジクン』なのよ。能力に対応して燃えたり帯電したりするわ」

『イチジクの葉っぱだからイチジクンとかネーミングセンス古いなぁ』と素朴な感想を持つつばめに、

「ウソだよぉ」
 つばめの心を読んだかの様にツッコミを入れる久子。

 天丼ネタかぶせかよ! なんでこの葉っぱ関係だけ異様にボケ倒して来るんだよ?!
 口には出さないがツッコミが徐々に荒々しくなってくるつばめ。

「あと、変態後の名前だけどつばめが『マジカルスワロー』、アタシが『ミラクルハーモニアス』、ヒザ子が『ドリームエターナル』だから覚えておきなさい」

 おーい、名前の統一性……。

「まぁ普通につばめとかヒザ子って呼ぶから、あんまり気にしなくて良いわ」

 ならなぜ名前確認したし?!

 天然なのかネタなのか判然としない睦美の怒涛のボケ攻撃にツッコミが追い付かずパニック寸前のつばめ。

「と言う訳で、新たにつばめを加えて新生マジボラ、活動開始よ!」

「おー!」
「お、おー… え? 『マジボラ』って何ですか?」

 睦美の号令に意気上がる久子と、独特なノリと聞き慣れない単語に戸惑うつばめ。

「『魔法奉仕同好会』って言い難いし垢抜けないじゃない。英訳すると『マジックボランティアクラブ』ってオシャレな感じになるし、略して『マジボラ』よ。カワイイでしょ?」
 ドヤ顔でつばめに説明する睦美。

 カワイイ… のかなぁ…? つばめとしてはどうにも語呂の悪さを拭い去れない。初見の人は魚のボラの新種かと思うかも知れないでは無いか。

 疑問を呈したい気もするがカワイイとカワイクナイは個人の主観だ。下手に刺激しない方が良い。何が睦美の逆鱗に触れるか分からないのだ。
 
「じゃあ早速だけど今日も稼ぎに行くわよ!」

 意気揚々と『助けに行く』ではなく『稼ぎに行く』と言い放つ睦美に、つばめは一抹の不安を覚える。
 どう見ても魔法少女コスプレ3人娘の姿のままで街を練り歩こうとでも言うのだろうか? 今までもそうしてきたのだろうか?

 部室の奥の隅に床下収納の様に見受けられる上蓋があるのだが、久子がそれを持ち上げると、その中には地下への階段が隠れていた。
 なんでもこの階段は地下道に繋がっていて、その先は学校裏手の路地裏に出るそうだ。

 つばめの家は学校から徒歩10分だ、近所には知り合いも多い。万が一にもこんな姿をご近所さんに見られ、親に報告でもされたら軽く死ねるではないか。

 かと言って逃げ出すわけにもいかない。『やります』と宣言してしまったし、先輩2人には既に沖田への好意がバレている。
 ここで逃げたら今ここで酷い目に遭わされるだけでなく、今後沖田との交際においても2人の横槍が予想される。

『最悪だ…』

 がっくりと項垂れながらも2人にいて地下道を進むつばめ。恐らくは昭和時代の物と思われる古い地下道だが、造りはしっかりしている。

 裏路地に出る。普段から人通りのほとんど無さそうな小道で、正体を隠して活動するにはいい雰囲気かも知れない。

「見つけたわ」

 睦美が指差したのは。つばめ達の前方50mほどを足取り重く歩いている。齢80前後と思われる老女だった。
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